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第88話 龍神迷宮への挑戦(3)

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「ブモォオオオ!!」


 鮮血が噴き出し迷宮の床を赤く染める。

 背中を斬りつけられた巨大黒オークは怒りの咆哮を上げ、攻撃者つまりウイに向け反撃の一撃を振り下ろす。

 だが既に、ウイの姿はそこには無い。

 一撃を喰らわしたウイは、その場に留まる事無くすぐさま距離を取っていたのだ。恐らく今の一撃が、巨大黒オークにとって大したダメージになっていないと分かっていたからだろう。そしてその判断は、その後の巨大黒オークの反撃からも正しいものであったと言えた。

 更にウイは巨大黒オークの攻撃に合わせるように打って出ると、次々と巨大黒オークの体を斬り刻んでいく。その異常とも言えるスピードと高い攻撃力に、巨大黒オークの攻撃の手数が自然と減り始めて行く。

 圧倒的!! そう、まさにそう思わされる驚異的な強さを、今のウイからは感じられた。



「レオン様、大丈夫ですか!?」


 そんな攻撃の最中、ウイは攻撃の手を緩める事無く俺に叫び問う。

 俺はその問いに「大丈夫だ!」と短く答えると、すぐさま気持ちと体勢を立て直し鉄槌持ちの巨大黒オークと対峙する。

 それにしても、今のはウイの助けが無ければかなりヤバかった。もし次の一撃を喰らっていたら、正直どうなっていたか分からなかっただろう。もし俺がやられでもしていたら、転移で脱出する事も出来なくなるため、充分に全滅もありえた。

 まさにウイ様様だ。しかし、今のウイの状態は何なんだ?

 明らかに能力が急激に上昇している。

 それに全身が蒼く光り、風の流れを思わせるオーラを纏わせ、更には体の輪郭が薄れ霊体(アストラル体)とも言える存在に変化している。その姿はまるで風の精霊にでもなったように見える。


『その見解で間違いないでしょう』

 

 間違いない? 【ロラ】の言う通りならば、ウイは今、人では無く風の精霊にでもなっているという事になる。それは一体どういう事だ?


特殊スキル(ユニークスキル)【風精霊化】の発動を確認致しました』


【風精霊化】……、確か……全ステータス値を1.7倍化させる特殊スキル(ユニークスキル)だったな……

 だけどあのスキルは、確かレベル70以上が発動条件だったはず。今のウイはまだレベル60にも届いていない。それなのに何で……どうしてスキルが発動したんだ?


『恐らくですが、装飾品で付与したスキル、【限界突破】と【魔蔵】の影響ではないかと思われます』


 付与スキルの影響……


『はい、先ず【限界突破】ですが――』


 ――ちょっと待った。その話はこの戦いが終わってからだ。今は眼の前のオークどもを殲滅するのが先だ。

 振り下ろされた鉄槌を躱しながら、【ロラ】の解説を一旦打ち切らせると改めて戦いに意識を集中する。まずは状況の確認だ。

【千里眼】を使い、俯瞰で現状を確認していく。


 先ず、目の前にいるこの鉄槌を持った巨大黒オークの相手をしているのが俺だ。

 今まで2体を相手にしていた事を考えると、随分と楽な状況になったものだ。恐らくこのまま行けばこいつを倒すのに1分も掛からないだろう。

 そして、大剣を持った巨大黒オークにはウイが対応している。戦況を見る限り全く問題は無さそうだ。【風精霊化】により1.7倍に強化された身体能力を駆使して、あの巨大黒オークをスピードで、そしてパワーでも圧倒している。実際1.7倍に強化されたウイのステータス値なら俺のステータス値にも匹敵する。いや、素の俺のステータス値を超えてくる部分もある。今のウイ相手にガチでやり合ったら、俺でも勝てるかどうか怪しいところだ。

 つまり、こちらの戦いも遅かれ早かれウイが勝つのは間違い無いだろう。

 次に残りのノーマル黒オーク達だが、最大6体いたノーマルタイプも今は3体を残すのみ。俺とウイが1体ずつ倒し、更には、ウイの突然の【風精霊化】に驚き動きを止めた1体の頭を、ティアナが後ろからの不意打ちでかち割り屠っている。そして、生き残っている残りの3体も、1体は腕を失い、更に他の1体もウイから受けた攻撃により深い傷を負っている。これならティアナ達に任せておいても問題は無いだろう。

 ならば俺は目の前の巨大黒オークに集中して、一気に叩き潰せばいい。

 そうと決まれば、様子見は終わりだ。

 巨大黒オークの振り回す鉄槌を言葉通り紙一重で躱すと、そのまま懐に踏み込む。今までは、ここでもう1体の巨大黒オークの邪魔が入り、大きなダメージを入れる事が出来なかった。だが今回はもう邪魔をする者は居ない。構えた真銀疾風の大剣を両手に握り魔力を放出するように込めると、力一杯一気に振り切った。

 僅かに遅れること数瞬、噴き出し激しく舞う鮮血。

 巨大黒オークの体は腹の位置から上下に切断されると、上半身はずり落ちるように下半身から落下する。そして下半身はその場で立ったまま、まるで噴水のように液体を吹き出させる。

 そんな血の海の中、最後に地面に転がる上半身を一瞥すると躊躇う事なく首を刎ねた。

 少々やりすぎのようにも思える行為だが、これは必要な処置だと言える。魔物の中には生命力が異常に高いモノが多く、そういった輩は体を上下に真っ二つにしたぐらいではすぐに死ぬ事は無い。そのままにしておくと、場合に依っては思わぬしっぺ返しを食らい命を落とす事もある。そうならない為にも、可能な限り後顧の憂いを断つべくトドメをさす事が冒険者ギルドでも推奨されている。とは言っても実際には、周りに他の魔物が蠢く戦闘中にそんな事をやっている余裕は殆ど無いのだが……

 巨大黒オークの転がる頭部を軽く蹴り完全に死んでいるのを確認すると、周りの状況を改めて確認する。




 先ずはウイの戦況に目を向ける。


「ブモォオォォ」


 巨大黒オークが痛みに耐えかねたように鳴き声を上げる。

 その姿は全身を斬り刻まれ、体中から血を噴き出し、まるでボロ雑巾のようだ。

 それでも強固な耐久力と驚異的な回復力を持つ巨大黒オークは、未だに剣を振るうだけの力は残している。流石と言うかとんでもないタフさだ。

 だがしかし、それでもダメージは大きいようで、俺と戦っていた時と比べると動きは鈍く、切れも無い。

 それとは逆にウイの動きはより速く、そして洗練されて来ている。恐らくだが、急激に上昇した己の身体能力に、ようやく慣れて来たからではないだろうか? どちらにしろこの状況だと、もうそろそろ決着がつくだろう。

 


「ハッ!!」


 もう何度目か分からない斬撃が巨大黒オークの体を斬りつける。

 斬り口からは血が噴き出すがそれも僅かな時間で止まり、傷が目に見えて塞がって行く、はずだった。それが今までの戦いの流れだった。だがいつからか、腹にある傷だけが塞がらなくなり、止めどなく血が溢れ出ていた。

 それは偶然ではなくウイの技術がもたらした当然の結果だった。

 再びウイは剣を振るう。迫りくる大剣を寸でのところで躱し、先ほど斬りつけた腹の傷口に向け寸分たがわず再び斬りつける。それが回復しない傷の答えだ。

 本来これだけのレベルの戦いの中で、相手の傷口を寸分たがわず攻撃する事は恐ろしく難しい。それも一度だけではなく何度も何度も繰り返し同じ個所を見事に斬りつけているのだ。とんでもない技術だと言えるだろう。とてもじゃないが俺では真似をしようとしても絶対無理。それをウイは事もなげにこなしている。見とれてしまうほどのレベルの戦い方だ。

 ウイは三度(みたび)剣を振るう。その瞬間、何度も何度も同じ個所を斬りつけられた巨大黒オークの腹は、ついにその攻撃に耐え切る事が出来なくなり、今までに無い程の大量の血を噴き出す。そして斬られた腹からは大量の血と共に臓腑がこぼれ出てくる。


「ブギャァアアア!!」


 高いタフネスを誇る巨大黒オークも今のダメージは深刻なようで、悲鳴を上げながら腹を抱えその場でたたらを踏む。

 それにしてもあの状態で倒れないとは信じられないタフさだ。

 だがしかしウイは追撃の手を緩めない。

 動きが止まった巨大黒オークの臓物目掛け魔法を放ったのだ。


「死になさい! 『シルフの風塵華』!!」

「ブギャアアア!!」


 【精霊魔法】によって生み出された無数の風の花弁が、巨大黒オークの向きだしの内臓を無残に斬り刻んで行く。

 巨大黒オークは絶叫と共に大量の吐血をし、蹲るように倒れる。そこにトドメとばかりにウイは腹を抱え蹲る巨大黒オークの後頭部に向け、介錯するように剣を突き刺した。

 ……しかし今のはちょっと酷い。あの死に方は流石に嫌だな。まあ、介錯付きだと思えばまだいいが、あのまま放置だったらさすがに巨大黒オークが可哀想に思えただろう。今のでも充分可哀想だった気もするが……

 さてと、ウイの戦いも終わったようだし、気を取り直してティアナ達の方を見てみるか……


 

「ブギィイイイイ!!」


 ティアナの剣がノーマル黒オークの腹に突き刺さっている。


「キミはこれで退場だよ!! でやぁああ!!」


 突き刺した剣をオークの体を蹴る事で引き抜くと、そのまま体勢を崩したオークにすぐさま斬りかかりその首を刈りとる。

 今倒されたノーマル黒オークは体に大きな斬り傷がある。どうやら覚醒前のウイに深手を負わされたオークだったようだ。流石にダメージが大きかったらしく、ティアナの火の出るような強烈な攻撃に耐えきられなかったみたいだ。

 他の2体を見てみると――


「『ディバイン・レイン』!」

「『ブラスト・エッジ』!」

「キューン!!」


 ニーナ、エヴァ、ルルによる魔法の弾幕に一切近づけないでいる。それどころか、凄まじい魔法の嵐に一歩も動くことが出来ず、無残にも全身を焼かれ斬り刻まれ、まるでゾンビのようになってしまっている。それでもまだ立ち続け前に進もうとするのは、黒オークならではのタフさと言えるんじゃないだろうか。

 だが、それでもこのままいけば、いずれ押し切れるだろ。

 そしてその予想は正しかった。

 先ほど黒オークを単独で撃破したティアナが戦闘に加わると、今まで何とかニーナ達の魔法攻撃に耐え忍んで来た2体の黒オークも今までの蓄積ダメージもあり、ティアナの攻撃にまでは耐える事が出来ず、そこからは一気に蹂躙されて行く。

 しかしなんだろう? さっきまであれだけ苦戦していたのに、いつの間にかノーマル黒オークを圧倒出来るようになっている気がする……、レベルが上がったとかそんな感じの強くなり方じゃ無い気がするし一体何でだ?


『実戦の中で、装飾品で新たに付与されたスキルを使う事で、ようやくスキルを『持っている』から『使える』という状態になって来たんだと思われます。ただ、まだ『使いこなしている』というにはほど遠いように見受けられますが』

 

 そういうもんか……まあ、一つ言える事はウイだけでなくティアナ達もレベルアップ以外でもまだまだ強くなれるって事だな。


「これで、終わりだー!!」


 そして最後まで生き残っていた黒オークもティアナに袈裟懸けに斬り裂かれ切断される。

 血飛沫を噴き出しながら崩れ去る黒オークを見つめながら「やっと終わったー」と一言上げて、ティアナはその場で座り込んだ。

 それを見ていたニーナやエヴァも、これでやっと終わったとばかりに、一つ大きく息を吐き出してその場でへたり込んでしまった。ルルもその場で丸くなって今にも寝てしまいそうだ。唯一アルスだけが問題無いとばかりに堂々と立っている。まあ、アルスは風の結界以外殆ど何もしていないからな。

 こうやって見ると今回はみんな、結構ギリギリの戦いだったようだ。

 ウイはというと、【風精霊化】が解けて通常状態のウイの姿に戻っていた。ティアナ達みたいに座り込んではいないが、肩で息をしておりかなり消耗しているように見える。その消耗が【風精霊化】によるものかは分からないが……というか、【風精霊化】って、30分経たなくても解除可能だったんだな……

 しかし今回は俺も相当疲れた。最高難易度の『龍神迷宮』とはいえ、まさかたった2戦でここまで消耗するとは思ってもいなかった。さすがにこのまま進むのは危険だろう。ここは一度撤退して回復後に改めて挑戦するとしよう。




 こうして俺達の初のS級迷宮探索は、情けなくも2戦で撤退という結果に終わった。何とも言えない苦い経験となったが、得るモノも多かったように思える。次こそはという思いを胸に、俺達は黒オークの死体を回収すると、この場に【マーカー】を設置し転移で自宅に戻ったのだった。


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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