第87話 龍神迷宮への挑戦(2)
またまた遅くなりました。m(_ _)m
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ダーク・オーク。それが先ほど戦った魔物の名前だ。
戦闘終了後、【ロラ】から簡単にあの黒オークの説明を受けてその名を知ったのだ。このダーク・オーク、『龍神迷宮』では一番弱い魔物という事なのだが、実力的にはミノタウロスと同等以上の力を持っているらしい。しかも群れで動いている事が多く、場合に寄っては10体近い群れで襲ってくる事もあるようで、そういった群れに襲われると、一流の冒険者のパーティーでも対処が難しく全滅に追い込まれる事も多々あるらしい。
何故そんな事をいきなり言っているかというと、現在俺達はそのダーク・オークの群れから襲撃を受けているからだったりする。
「ブモォオオオ!!」
「ティア!! 1体そっちに行った!」
「了解! うりゃー! もう、切が無いよぉ」
1体の黒オークを盾で吹き飛ばしながらティアナの口から愚痴が漏れる。
「ホーリーランス! 弱音を言っている時間は無いですよ。ほら次が来ます」
「もうぉ、分かってるよぉ」
ティアナのシールドバッシュで体勢を崩した黒オークに、追撃の魔法を撃ち込みながらニーナはティアナに発破を掛ける。
「レオンハルト様が、あの2体を抑えてくれているのですから、わたくし達はわたくし達で出来る事をしないといけません、わっ!」
エヴァはそう言いながら、今にもウイを背後から襲おうとしていた黒オークに向け矢を放つ。
そんな中俺は、エヴァに『あの2体』と呼ばれた一際大きな2体の黒オークと戦っていた。1体は3メートルを超える巨大な大剣を持ち、もう1体はまるで金属の塊のような巨大な鉄槌を持っている。
その2体の巨大黒オークはただ体が大きいだけでなく、全身を竜の鱗のようなモノが覆っており、威力の弱い剣撃や魔法を簡単に弾いてしまう。更に隙あらば、その口からドラゴンブレスのようなブレス攻撃も仕掛けてくる。それはまさにオークの姿をしたドラゴンのようだ。
また、それに加え、動きも速くその上武器の扱いも上手いため隙も少ない。今まで戦ってきた魔物の中でもトップクラスの実力だ。強さ的にはクイーンリーパーアントクラスだろうか? かなりの強敵であることは間違い無い。そんなのが今目の前に2体、しかも連携して俺に襲い掛かってきている。
周りには他にもノーマルの黒オークが6体もいて、ウイ達がそれらを相手に対処をしているが、かなり押されているようで正直危険な状態だ。何とか援護をしてあげたいが、この2体を相手しながらではそれもままならない。
戦況はかなり切迫した状態と言えた。
魔物の位置が分かる【マップ】を有する俺達が何故こんな事になっているかと言えば、所謂迷宮の洗礼というのをもろに受けてしまった事にある。
最初は1体の巨大黒オークと2体のノーマル黒オークとの戦闘から始まったのだが、戦闘を開始して間もなく……そう、1分ほどが過ぎた頃、突如背後から1体の巨大黒オークと4体のノーマル黒オークが出現したのだ。
戦闘前に【マップ】で確認した時には後方に魔物は存在していなかったはず、なのに……
ではどうして俺達の後方にオーク達が出現したのか? それこそが所謂迷宮の洗礼と言われる、『魔物湧き』という現象だ。
魔物湧きとは、迷宮の中でも魔素濃度の濃い空間に突如魔物が出現する現象の事だ。
本来、迷宮に出現する魔物は、ほぼすべてがこの魔物湧きから生まれる。なので、この魔物湧きという現象自体はさして珍しい現象ではない。だが、普通であれば魔物湧きとは魔素の溜まりやすい袋小路の部屋などで起こる事が殆どで、今回のように中途半端な迷宮の廊下で起きることは非常に珍しい。
では何故? という事だが何となく推測は出来る。ここは最高難易度の『龍神迷宮』。恐らくはこの『龍神迷宮』の魔素濃度が濃すぎて、魔物湧きがどこででも起きる現象になっているのではないだろうか。あくまで推測だが全くの的外れではないだろう。
そして俺達は運悪くも戦闘中に、この魔物湧きに遭遇してしまったのだ。
俺は今2体の巨大黒オークと戦闘を繰り広げながら、【千里眼】を使い戦場を俯瞰で見ている。
現状ウイがそのスピードを活かし3体のノーマル黒オークを抑えている。その後方ではティアナを壁役として3体のノーマル黒オークを抑えつつ、ニーナ、エヴァ、ルル、アルスがウイとティアナを援護している。
ウイの手には既に真銀疾風の剣が握られ、幾度となくノーマル黒オークの体を斬りつけている。だがしかし、3体を同時に相手にしている以上、どうしても踏み込みが浅くなり致命傷を与える事までは至っていない。それでも持ち前のスピードと勘の良さ、そして【近未来視】のスキルによって何とか均衡を保てているようだ。
ティアナはティアナで、完全に防御に徹する事で3体のノーマル黒オークの攻撃を防ぐ事が出来ている。当然それにはニーナ達の援護が有って初めて成しえている事だ。だが、それにも限界はある。ウイのように回避して対応している分にはまだいいが、ティアナは破壊力のあるノーマル黒オークの攻撃をその盾でまともに受けている為、目に見えて体力を消耗させている。正直このままだとあまり持たない。かなり不味い状況なのは間違い無い。
何とか援護をする為、巨大黒オークと距離を取ろうとするが、2体の動きは素早くしかも上手く連携して俺との距離を潰し、援護をしようとする俺の動きを封じて来る。
ならばと、俺は威力こそそれほど無いが、近接戦闘をしながらでも使える魔力弾を無数に生成していく。その数100オーバー。
突如俺の背後に次々と現れ始めた魔力弾を見て、2体の巨大黒オークはほんの一瞬だが動きを止める。
――チャンス!
僅かに攻撃の嵐が止んだ隙に、生成した魔力弾を一気に2体の巨大黒オークに放つ。
無数の魔力弾の弾幕が2体の巨大オークを襲い俺との間に僅かにだが間合いが出来る。その隙に剣を持っていない左手に魔法を展開。それと同時にティアナに攻撃を仕掛けている一体のノーマル黒オークの頭部に狙いを付ける。そして魔法が完成するとすぐさま――
「『ライト・レーザー』! ――!?」
だが、魔法を放とうとした瞬間、【近未来視】と【直感】が働く。
「クソが!!」
魔法を放つ瞬間咄嗟に体を捻る。
すると今まで俺が居た場所を巨大な剣が通り過ぎる。
ノーマル黒オークの頭部を狙って放たれたはずの『ライト・レーザー』は、回避行動をとった所為で僅かにその狙いがそれ、ノーマル黒オークの頭部では無く、右腕に直撃しそれを木っ端みじんに吹き飛ばした。
「クソっ、外した!!」
……だが、まあいい。戦闘不能とまではいかないが腕一本潰して戦闘力をある程度奪う事が出来たんだ。いずれ再生するだろうが、完全に外してしまうよりは遥かにましだ。
事実、ノーマル黒オーク達の攻撃の手数が若干減り、多少盛り返してきているように見える。とはいえ、早く手を打たないといずれ不味い事になりそうだが……
そんな事を考えている間も巨大黒オーク達の攻撃は苛烈を極めて行く。まるで竜巻のような剣撃と打撃が、体をかすめ次々と通り過ぎて行く。
そんな中、俺は次の一手に出る。大剣を持つ巨大黒オークの剣撃をカウンターで弾き体勢を崩させる。更に追撃を掛けて来た鉄槌を持つ巨大黒オークのハンマー攻撃を踏み込みながら紙一重で躱しその懐に潜り込む。そしてそれと同時に剣を持たぬ左手を巨大黒オークに添え瞬時に発動できるある魔法を打ち込む。
「『ブラスト・インパクト』」
風属性魔力を直接敵に触れ撃ち込む魔法だ。
対象に触れていなければただ単に少し大きなつむじ風を起こすだけの魔法だが、直接対象に触れて打ち込めば衝撃波が体内に伝わり、身体に内外からダメージを与える強力な魔法へと変わる。
その魔法をまともに受けた巨大黒オークは、もう1体の巨大黒オークを巻き込み5メートル程吹き飛んでいく。
――よしっ、上手く行った。
吹き飛んだ2体の巨大黒オークを横目に見ながらすぐに転移魔法を発動し、ウイと戦うノーマル黒オークの後方に転移した。
その時ウイは、かなり危険な状態にあった。
再三ノーマル黒オークの攻撃を躱しつつ攻撃を繰り返して来たウイだったが、踏み込みの浅い攻撃では大したダメージも与えられず、しかも多少傷を負わせたとしてもすぐに回復してしまう為焦れていた。
そんな時、若干状況が変化する。それは俺が放った『ライト・レーザー』だ。俺が放った光の奔流が、ティアナ達を襲っていた1体のノーマル黒オークの腕を一撃で木っ端みじんに吹き飛ばしたのだ。
それを見たウイと戦っていたノーマル黒オーク達の動きが一瞬鈍ったのだ。そして、そこをチャンスと踏んだウイが1体のノーマル黒オークを倒すべく、今までになく一歩深く踏み込んだ攻撃を仕掛けたのだ。そしてその攻撃は見事ノーマル黒オークの肩口を深く斬り裂いた。だがしかし――
「くっ、剣が抜けない!?」
深く斬り込んだ真銀疾風の剣はノーマル黒オークの体を半ばまで斬り裂いたのだが、剣はそれ以上進まず動きを止めてしまう。更には、深く食い込んだ真銀疾風の剣は引き抜こうにも引き抜くことが出来なくなってしまったのだ。
それを見たノーマル黒オーク達の顔は僅かに嗤ったように見えた。
反撃を察知したウイは咄嗟に剣を手放しその場から後退する。それとほぼ同時にノーマル黒オーク達の攻撃がウイの今までいた場所に振り下ろされる。間一髪だった。
ウイはすぐに【無限倉の指輪】から新たに武器を取り出そうとするが、ノーマル黒オーク達はそれを許さない。
徒手空拳のウイはノーマル黒オークの攻撃を何とか躱し、どうにか剣を取り出せるチャンスを窺っていたのだが、攻めどころと見たノーマル黒オーク達の攻撃は激しさを増し、とてもではないが武器を取り出せる状況になかったのだ。
そんな状況の中、今にもウイに斬りかかろうとしていたノーマル黒オークの背後に俺は転移したのだ。
転移が完了した俺は、それとほぼ同時に剣を振るう。その瞬間、ノーマル黒オークの頭が切断され、剣を振り上げた体勢からそのまま崩れ落ちる。
続いて、もう1体仕留めるべく動こうとしたその時――
「レオン様!!」
【近未来視】と【直感】そしてウイの声に反応して後方に飛ぶ。次の瞬間鼻先を大剣が通り過ぎる。巨大黒オークの一撃だ。俺の魔法で吹き飛ばしたはずの巨大黒オークが体勢を立て直し、早くも攻撃を仕掛けて来たのだ。
紙一重のところで回避に成功した俺は、安堵の息を吐く。だがそれがいけなかった。油断と言うほどのモノでは無かったが。その安堵感が僅かに隙を生んでしまった。
後方に飛んだ俺に追撃を掛ける影。それは眼前にまで迫っていた。
そして【近未来視】に映る自分の未来。次の瞬間巨大な鉄槌が振り下ろされそれが現実となる。
「がぁっ!!」
咄嗟にガード体勢を取ったもののその衝撃は凄まじく、俺は水面を投げた平の石が何度も跳ねるように、地面を何度も跳ねながら壁にそのまま激突した。
「レオン様!」「ご主人様!」「主様!」「レオンハルト様!」
俺を心配する声が聞こえて来たが、背中を強かに打ち付けた事により息が詰まりそれに答える事が出来ない。
――マズった、な……
ガードした左腕を見ると、構造上あり得ない方に腕が曲がっている。それに他にも何本か骨がイっている。今の一撃、パワーだけなら完全に先日戦った魔人以上だ。
そんな風に体の状態を確認していると、大剣を振り上げた巨大黒オークが眼前に迫る。軋む体を無理矢理動かしその攻撃を剣で弾く。更にそこに先ほど俺を殴り飛ばした鉄槌持ちの巨大黒オークが、体重を乗せて鉄槌を振り下ろして来た。
「レオン様!」「ご主人様!」「主様!」「レオンハルト様!」
みんなの悲鳴が聞こえる中、その攻撃を何とかギリギリで回避に成功する。だが、やはりダメージは大きく体の反応が鈍い。回復魔法を使いたいが、その時間も与えてくれ無さそうだ。
――どうする?
「レオンさまぁあああ!!」
その時、ウイが空中を駆けるように俺に向かって来た。その体は淡く蒼色に輝き、全身を風が渦巻くように蒼いオーラが包んでいる。良く見ると体の輪郭はぼやけ、まるで精霊のような霊体へと身体が変化しているように見える。そしてウイから感じる気配が劇的に膨れ上がっていた。
そのウイの前に1体のノーマル黒オークが立ちはだかる。
「邪魔です!」
そう一言いうとウイは新たに【無限倉の指輪】から取り出した真銀疾風の剣を一閃する。そしてそのまま立ちはだかったノーマル黒オークを無視するようにそのすぐ横を通り過ぎて抜けて行く。
そのウイの後ろでは立ちはだかっていたノーマル黒オークは首から大量の血を吹き出しその動きを止めると、まるで糸が切れた操り人形のようにその場で崩れ去った。
そしてウイは勢いそのままに俺に追撃を掛けようと大剣を振り上げていた巨大黒オークに襲い掛かったのだ。
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