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第81話 ノヴァリスへの帰還

 ブックマーク&ポイントありがとう御座います。

 目に沁みるような眩しさを感じ、柔らかな枕の上でうつ伏せになるよう寝返りをうつ。

 あれ? そう言えば俺、魔人と戦っていたはずだったような……

 寝起きの微睡みから、ようやく意識が覚醒した俺が、ゆっくりと目を開けると、そこには柔らかい太ももが…… うん、所謂膝枕というやつだな。


「ここは……」

「レオン様、お目覚めですか?」

 

 頭上から声を掛けられ視線を移すと、そこにはウイの心配そうに見つめる顔が有った。


「ご主人様、良かったです」

「レオンハルト様、ご無事で何よりです」

「わたくしは大丈夫だと信じておりましたわ」


 更に周りから安堵の声が聞こえ、視線をそちらに動かすと、そこには、ティアナ、ニーナ、エヴァの顔が有った。皆一様に安堵の表情を見せてくれている。

 そうか、魔人を撤退に追い込んだ後、力を使い果たして意識を失ったのか。

 周りを見ると、空は既に明るくなってきており、かなりの時間意識を失っていた事が伺える。


「どうやら、随分みんなに心配を掛けてしまったみたいだね」

「いえ、私達こそ、レオン様のお役に立つことが出来ず申し訳ありません」


 ウイの言葉に他の3人も落ち込んだ表情で頷く。


「いや、今回は相手が悪かったからな、仕方ないよ」

「いえ、それでも私達にもっと力があれば……」

「ウイちゃんの言う通りだよ。力を付けたと思っても、結局ご主人様の力に全然なれていないなんて……」

「わたしは回復役なのに、レオンハルト様のお怪我も、戦闘が終わってからしか、回復する事が出来ませんでした」

「わたくしなんて折角素晴らしい武器を与えていただいたのに全くお役に立てず……」


 何故か反省会のようになってしまった。

 しかし、今回の戦いは本当に仕方の無い事だろう。実際、オリハルコンランク冒険者である、フンメルスさん達も何も出来なかったのだから。

 今回の相手はそれだけの力を持った相手だったという事だ。正直あの魔人とまともに戦えるとすればアダマンタイトランク冒険者並みに力がいるだろう。

 たぶんだが、ワルターさんならもっと上手くあの魔人を退ける事に成功した気がする。

 だから、ウイ達が何も出来なかったとしても、本当に仕方の無い事なのだ。

 ただ、今後、またいつあのクラスの魔人が攻撃を仕掛けてくるか分からない。その時、今のままのウイ達の実力では、また今回のように命の危険に晒される事になる。

 ならば、出来るだけ早く、ウイ達のレベルアップを図らないといけないかもしれないな。


「おお、どうやら無事、目を覚ましたみたいだな」


 今後の事を考えていると、野太い声で俺の意識が引き戻される。視線を移すとそこにはクリンスマンさんの姿があった。


「クリンスマンさん、ご心配お掛けしたみたいですね」

「なぁに、周りの女性陣程、俺は心配してはおらなんだよ」

 

 そう言って俺の隣に胡坐をかいて座る。

 厚手の毛布の上に寝かされていた俺は、名残惜しいがウイの膝枕から起き上がると、クリンスマンさんが居る方に向き直り座る。


「もう起きても大丈夫なのか?」


 現状確認の為、俺は左手の状態を見た後、ステータスの確認をする。

 腕は恐らく俺が意識を失くしているうちに、ニーナが治してくれたんだろう、怪我は癒え問題無く動くようになっている。HPは4割、MPは3割の回復と言ったところか、こちらはまだまだ完全回復とは言えないが、今のところこれだけ回復していれば問題は無いだろう。

 それよりレベルが60まで上がっている…… 今回は思ったよりもレベルが上がっているな。レベル差が大きい悪魔を倒した時に確か3つレベルが上がっていたはずだ。それを考えると逃がしてしまった魔人戦で何故かレベルが2つも上がった事になる。倒しきっていないのに2つもレベルが上がるなんてあの魔人のレベル、いったい幾つだったんだろう…… 


「おい、レオンハルト、大丈夫か?」


 ステータスを見ていた為なんだが、動かない俺を見て、心配そうにクリンスマンさんが声を掛けてくる。


「すいません。どうやら問題無さそうです」

「本当か? 無理をしている訳ではあるまいな?」

「ええ、本当に大丈夫です」


 先ほど俺が黙ったまま動かなかったから、余計な心配を掛けてしまったみたいだ。クリンスマンさんと同じようにウイ達も心配そうに俺を見ている。

 ウイ達には一応『ステータスを見ていただけだ』と念話で伝えたので問題無いだろう。


「……よし、分かった。お前が良いと言うなら信じよう。では、レオンハルト、起きたばかりで悪いが早速ノヴァリスに向け移動を開始する。とはいっても君は無理せず馬車の中で寝ていてくれ」


 それだけ言うとクリンスマンさんは、移動の準備をする為、自分の馬に向け歩いて行った。


「では、レオン様。我々も移動の準備を致しましょう」

「そうだな…… ところでフンメルスさん達のパーティーやマックス君のパーティー、それに……」

 

 そこで思わず言葉に詰まる。

 今回の任務では、ダンテさんを始め8人もの命を失った。正直ギルドとして想定外の被害だっただろう。唯一ハイナーさんが一命をとりとめる事が出来たのは良かったが、それにしても大きな被害であった事には変わりないだろう。

 フンメルスさんのパーティーやマックスのパーティーだけでなく、そんな死んでいったダンテさんや冒険者達の遺体も見当たらない。

 

「フンメルスさんのパーティーは、先にノヴァリスに向け出発致しました。今回亡くなられた方の遺体や、まだ意識が戻っていないハイナーさんも一緒です。マックスさん達のパーティーはコトール村に移動をして現在、村の警備にあたっています」

「そうか。教えてくれてありがとう」

「いえ」


 ウイは俺の言い掛けた言葉を正確に理解、知りたい事を端的に説明してくれた。

 しかし、フンメルスさん達は先に行ったのか、まあ、出来るだけ早くギルドマスターに直接報告する必要もあっただろうし当然の処置だろう。寧ろクリンスマンさんが残っていた事に少々驚きを感じる。

 まあ、それはいいとしてノヴァリスへの帰還だ。

 今、此処に残っているのは俺達パーティー5人とクリンスマンさんだけ、追加でクリンスマンさんの乗ってきた馬も入れても合計で7人分か…… (ルルとアルスは現在送還してある)

 これなら全員同時にノヴァリスまで飛んでも充分MPは足りるな。まあ、フンメルスさん達がいてもノヴァリスくらいまでなら全然問題無いだろうが。

 ただ、残念な事にフンメルスさん達の今の居場所が分からない。途中で拾おうにも場所が分からなければ流石に無理だ。フンメルスさん達の内の誰かに【マーカー】でも設定しておけば問題無かっただろうが、今回は設定していなかった。まあ、他人のパーティーだしな。


「仕方が無いな。フンメルスさん達には申し訳ないが、先にノヴァリスに帰らせてもらうか」

「レオン様、どうかなされましたか?」

「いや、何でもない。それよりちょっとクリンスマンさんに話があるので、ウイ達はそのまま準備を進めていてくれ」

「はいです」

「は~い」

「かしこまりました」

「了解いたしましたわ」


 戦闘が終わった為か、いつものように三者三様の返事を返して来る(4人だけど)

 みんなの返事に頷き返し、クリンスマンさんの下に向かい声を掛ける。


「クリンスマンさん、ちょっといいですか?」

「どうした? 何かあったか?」


 心配そうに俺の様子をみてくる。


「いえ、ちょっと提案なんですが、魔力もだいぶ回復したので、ノヴァリスまでなら全員で飛ぶことが可能ですがどうしますか?」

「それは、本当か? 無理していないだろうな?」

「ええ、問題ありません。此処にいる人数程度なら、問題ありませんよ」


 クリンスマンさんは、俺の提案に顎に手を当て考え始めた。

 しばらくするとクリンスマンさんは俺をジロリと睨み「本当に無理してないだろうな?」と問いただして来たので、笑顔で「大丈夫です」と答えると、そのまま俺の【転移魔法】で帰還する事が決まった。

 そうと決まれば、準備は簡単だ。すぐさま荷物を纏め、転移がしやすいように準備をする。とはいっても、殆ど【神倉】に仕舞うだけだったが……



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 視界が一気に移り変わる。

 草原だった景色は、突如ノヴァリス周辺の街道の景色へと変わったのだ。

 どうやら無事ノヴァリスまでの転移に成功したみたいだ。


「本当に一回で、ノヴァリスまで飛べるんだな……」


 クリンスマンさんが、驚きの表情と共に誰に言うでもなく呟いている。

 俺にとっては半日くらいの距離、大した事は無いのだが、一般的には中々出来ない事なのかもしれない。最近その辺の常識が、少々狂ってきている気がするが仕方の無い事だろう。

 そんな事を考えながら街の中に入ったのだが、どうやら周りの様子が少々おかしい。

 元々迷宮都市と言われるだけに平和的な雰囲気に街では無かったが、一部の冒険者や騎士がやたらと殺気だっている気がする。


「どうしたのでしょう?」

「ホント、なんか雰囲気悪いね」

「まるで、戦場に赴くような雰囲気を持った者がいるように見えます」

「何かあったのかしら?」


 みんなも同じことを感じ取ったのか、それぞれ街の様子について話している。


「恐らく、我々が上位魔人と戦った事が、一部の騎士や冒険者に伝えられたからだろう」


 ウイ達の会話を聞いていたのか、クリンスマンさんが会話に加わって来た。


「もう伝わっているんですか?」

「ああ、魔人との戦闘後、すぐに、通信用魔道具を使って、ギルドマスターに事の顛末を伝えたからな」

「それでも、騎士や冒険者に伝わるのが早いですね」

「事が事なだけにな」

「そうなんですか……」


 俺の微妙な返事にクリンスマンさんは、こいつ分かって無いなみたいな表情をして説明をしてくれた。

 なにやら難しい事をあーだ、こーだと説明されたが、要は今回関わった魔人が、やられた報復にノヴァリスに攻撃を仕掛けてくる可能性があるから、念の為警戒せよと冒険者や騎士に呼びかけたという事らしい。

 何とかギリギリ理解出来ました。学が無い俺みたいな者には、もっと分かり易く説明してもらいたいものだ。


 取り敢えず事情が呑み込めた俺は、ウイ達に先に屋敷の戻るように伝えると、クリンスマンさんと共に、ギルドマスターの下に報告にいく事になったのだった。殆どクリンスマンさんによる強制連行に近かったが…… 

 はあ、俺も屋敷に帰ってのんびりしたかったよ。

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