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第77話 コトール村(2)

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「村の様子だが、まず確認されたレッサーデーモンの数は15体。悪魔達から感じる魔力はかなり高い様で、通常のレッサーデーモンよりも強力な個体だと思う」


 村の調査を終えた俺達は、一人も欠ける事無く脱出に成功し(転移で脱出したから簡単だったが)、待機組の面々と情報の共有を行っていた。


「続いて村人の事だが、どうやら多くの者が生きているようだ。

何名かと接触をして話を聞いた状況によると、昨日の夕方、1人の男が村にやって来たかと思うと突如門番をしていた2人の冒険者に襲い掛かったらしい。

 その後はその男が目に付く村人や冒険者達を次々と殺していき、5分と経たないうちに15人の冒険者と、30人以上の村人が殺されたらしい。

 生き残った村人は村から逃げようとしたが、どうやらその男は、誰も村から逃げ出さぬようにアンデットを配置していたようで、脱出を試みた村人は殆ど殺されたようだ」

 その話を聞いた冒険者達からざわめきが起こる。

「ミスリルランクの冒険者5名を含む15名の冒険者をたった5分で全滅させるなんて、たとえ犯人が魔人だったとしても強すぎる」

 誰かは分からないがそんな声が聞こえてきた。その声に多くの者が賛同する。

 確かにたとえ中位魔人であったとしても、これだけの冒険者を5分足らずで全滅させられるとは思えない。まあ、全滅はさせられるだけの力は充分あるだろうが……


「クリンスマンさん、どうします? これはもう緊急討伐依頼に移行すべき案件のように思えるが」

 冒険者側のリーダー的な存在であるフンメルスさんが隊のリーダーであるクリンスマンさんに問う。

 皆の視線が集まる中、クリンスマンさんは顎に手を当てしばらく考えると、

「そうだな。念には念を入れよう。最悪、高位魔人を相手にする必要があるかもしれない。監視に少数を残し一度ノヴァリスに戻ろう。緊急討伐依頼もそうだが、領主側にも協力を要請した方がいいかも知れないしな」

 高位魔人という言葉に全員の緊張が一気に高まる。

 確かに今回の相手が高位魔人ならばここに居る人員だけで対処するのは難しい。少なくともオリハルコンランク冒険者10人以上で対応するのが常道だ。出来ればアダマンタイトランク冒険者を討伐メンバーに加えたい。


 しかし、幾らノヴァリスとはいえ、それだけのメンバーを早急に集められるのだろうか? 数で押し切るという手もあるかもしれないが、討伐にアダマンタイトランク冒険者を必要とするような相手にザコが幾らいても被害が増えるだけで邪魔にしかならない。最低でもゴールド、いや、ミスリルランクの実力が無いと話しにもならないかも……


「ノイアー、コニー、ミルコの3人は監視として、それからダンテ、フンメルス、ケディラの3人は、ノイアー達の護衛として残ってくれ。現場の指揮はダンテに任せる。通信用魔道具を1つ渡しておくから念の為30分おきに連絡をするようにしてくれ」

 今後の方針が決まるとクリンスマンさんは次々に指示を出していく。

「後の者は一度ノヴァリスに戻る。レオンハルトには悪いが、いけるとこまで全員を連れて飛んでくれないか?」

 いけるとこまでって、たぶんノヴァリスまでなら馬車毎でも全員引き連れて飛べると思う。

「了解です」

「すまない。では皆、出発の準備をしてくれ。俺はその間にギルドに報告しておく」


 そのクリンスマンさんの指示の下、全員が一斉にそれぞれの準備を開始する。

 意外にもというか、さすがはノヴァリスでミスリルランクにまでなった冒険者だからなのか、殆どのパーティーに【空間魔法】の使い手がおり、馬車をアイテムボックスの中に収納していく。唯一、俺に絡んできたマックス君のパーティーだけがアイテムボックスの魔法を使える者がいないようで、他の先輩冒険者に馬車の事をお願いしているようだ。

 まあ、俺達を除けば彼らのパーティーが最年少なんだし、使えなくても仕方ないのだろう。なにせ、【空間魔法】自体取得が難しいスキルで、使えるようになるにはそれなりの素質と相当な修行が必要らしいからな。手に入れたいと思うだけで取得出来る俺には関係無い話だが……




「おかしい……」

 そんな慌ただしい出立の準備の中、クリンスマンさんの声が全員の耳に届く。決して大きな声ではない。ただ、張り詰めた緊張感がある声だった為か、自然と全員がその声に意識を集中したようだ。

「どうした?」

 ダンテさんが深刻な顔をするクリンスマンさんに声を掛ける。

「ギルドに通信が出来ない」

 ここに来てから何度か状況報告の為、通信用魔道具を使用していたが、それが今、急に使えなくなったのだ。

「おいおい、故障か?」

「魔道具自体はちゃんと動作している。だが、何かに阻まれ通信が出来ないように思える……、なんというか……そう、結界か何かに阻まれているみたいだ」

 その場が一瞬静まり返る。


「正解だよ~」

 そこに何者かの声が響き渡る。

 俺を含め冒険者達は一斉に周囲を確認する。

「上だ!!」

 誰かの叫ぶ声で上空に視線を移す。

「こんばんは~、ようやく私の事を見つけてくれましたね~」

 そこには黒いローブを纏った銀髪の男が立っていた。いや、浮いていた。


 バカな!? 俺の索敵にも感知系のスキルにも引っかからないなんて……そんな事があり得るのか?

 改めて【マップ】を確認するが、その男が居る場所にはやはり何の反応も無い。

「何者だ!?」

 ダンテさんの誰何する声が響く。

「誰って言われてもね~、もう分かっているんじゃないですか~?」

 なんとも腹が立つ話し方で受け答えをする。

 俺はそんな男を見ながら鑑定を掛ける。

 ――!?

 鑑定出来ない? 

 いつもなら鑑定すると、名前やレベルが対象の周囲に表示されるのに、今回は何も表示されない。


【ロラ】どういう事だ?

『おそらく、世界の最高神である、【聖神】、【精霊神】、【闘神】、【魔神】、【悪魔神】、【龍神】のいずれかの加護を受けている可能性が高いと思われます』

 最高神の加護持ちか……、こいつが魔人だとすると、持つ加護は【魔神の加護】である可能性が高いのだろうか? 

 いったいどんな加護なのかは分からないが、おそらく強敵である事は間違い無いだろう。

 そう言えば今更だけど、俺に加護を与えてくれた【創造神】って何者? 名前から推測すると最高神の一人に上げられていそうなんだけど、加護を貰うまで聞いた事が無かった神様なんですが…… 

『【創造神】に関しては世界の理において、極秘事項に該当する為お答えできません』

 極秘事項って……

しかしなんで今まで【創造神】に対してなんにも疑問に思わなかったんだろ?


 おっと、そんな事考えている場合じゃなかった。今は目の前の敵だ。

 とは言ってもどうする? 相手の実力が分からないが、ここで戦うのはヤバイ気がする。勘でしかないが、おそらくこの勘は当たっている。ここは逃げるべきだろう。

 魔人の様子を窺うが、話をするダンテさんやクリンスマンさんに意識が行っているみたいだ。

 

 今なら全員引き連れノヴァリスまで飛べる。

魔人の動きを意識しつつ、俺は急ぎ【転移魔法】を発動すると、魔人以外を指定して、ノヴァリスに飛んだ――






 はずだった……

 ――!?

「飛べない!?」

【転移魔法】は確かに発動した。だが、誰一人としてその場から動いていなかった。

 どうして……?

「へ~、【転移魔法】を使える奴がいるみたいだね~。だけど残念。私の結界内からは【転移魔法】で出る事は出来ないよ~。さっき通信用魔道具が使用出来なかったのも同じ仕組みだよ~。ちなみにここから出たいなら、私を倒すしかないからね~」

 その言葉に動揺が広がり始める。

 

 結界か……【結界侵蝕】でなんとか脱出できないか……いや、あのローブの男がそんな時間を与えてくれないか……

 正直もう、逃げ道は無い。どうやらこの相手と戦うしか無いようだ。

 しかし【創造神の加護】を得てから、相手の力や能力が分からない状態で戦うのは初めてだ。まさか、相手の情報が分からない事がこれほど恐ろしい事とは思わなかったな。

 こう思うと、あまり鑑定に頼って戦うのも良くないかもな……

 俺は覚悟を決め、剣を抜いた。それに続くように次々に武器を取る冒険者達。


「少しはやる気が出てきたみたいだね~。では、2つ程試験でもしましょうか~。生き残れたら私が直々に相手をしてあげますよ~」

 そう言うとローブの男の後方に巨大な魔法陣が浮き上がる。それと共に男から途轍もない量の魔力が溢れ出る。

 あれは不味い。俺は咄嗟に結界魔法を壁状に展開し、自分を守ると共に俺の後方に控えるウイ達を守る。

 ――次の瞬間

「『ダーク・シューティングスター』」

 男の言葉と共に、黒い何かが冒険者達に音も無く降り注ぐ。

 それは流星というより、まるで黒い雨。漆黒の小石よりも小さな礫は、音も無く俺が展開した結界に降り注いでいく。

それから僅かな時間を置いて聞こえる人が倒れる複数の音。

 嫌な予感がし、視線をそちらに向けると、そこには全身から血を吹き出し倒れる複数の冒険者の姿が……

 ――なんて攻撃だ! 今の一撃でこの被害かよ!

俺は後ろが心配になりウイ達に視線を向けるが、俺の展開した結界に守られ全員無事のようだ。

 安心して一つ息を吐く。その時ローブ男が口を開いた。


「へ~、思ったよりも生き残ったね」

 そう言うと立っている冒険者を指さし数えていく。

「えっと、生き残っているのは12人って事は~、9人しか死ななかったのか~、思ったより生き残ったね~。まあ軽めに攻撃したし仕方ないか~。じゃあ、次の試験に行くね~」

 まるで遊んでいるかのような口調で話しているが、男の言葉に生き残った者達の血の気が引く。

 

 今の一撃でミスリルランク以上の冒険者が9人も殺られたなんて……

 俺はすぐに【マップ】で状況を確認する。

 立っているのは、俺達5人以外にフンメルスさんのパーティー3人、ギルド職員のクリンスマンさん、偶々俺の後ろに居て助かったマックス君のパーティー3人の計12のみ。後は、ほぼ死亡が確認出来た。唯一、ハイナーさんは即死を免れていたようだが、既に瀕死の状態だ。早く治療を行わなければいつ死んでもおかしくない。

 だが状況がそれを許さない。思わず舌打ちが出る。


 ローブの男は両手を広げると、再び魔法陣が現れる。先ほどに比べるとかなり小さい。だが、油断なんて出来る訳が無い。俺は再び結界を展開していく。今度は自分達だけで無くクリンスマンさんやフンメルスさん達にも結界を展開する。

 それを見たローブの男はいやらしく嗤う。

「ではいくよ『サモン・デーモン』」

 ローブの男の言葉と共に出現する15体のレッサーデーモン。

 そう、あのコトール村で見た15体のレッサーデーモンだ。

「まだだよ~。これからが本番だよ~」

 そう言うとローブの男は黒く光を湛える丸い石を取り出した。

「――魔晶石!?」

 その石はかつて、ゴブリンの洞窟で見た黒い石。魔晶石だった。

「へ~魔晶石を知っている人が居るみたいだね~。ま~、知っていても知らなくても何も変わらないけどね~。では、始めるよ~『サクリファイス・エボリューション』」

 ロープの男がそう唱えると同時に魔晶石は宙に浮き強く輝き始める。やがて、先ほど召喚されたレッサーデーモン達はその黒い光を浴び、まるで溶けていくように闇へと変わり魔晶石に吸い込まれていく。

 そして全ての闇となったレッサーデーモンを吸い込んだ瞬間、魔晶石から膨大な量の魔素が溢れ出す。


 ――ヤバイ!! 

 今まで感じた事が無いほどの魔素の量。その場に居るだけで冷や汗が止まらなくなる。

「顕現せよ~」

 相変わらず気の抜けた声を発するローブの男。しかし、その場に現れた者から発せられる気配はとんでもないものだった。


 それは一人の男だった。渦巻く風に黒髪をなびかせ、金色の目が俺達を睥睨する。病的に白い肉体の背中に蝙蝠のような翼を3対6枚持ち、俺達を威圧する様にその翼を広げている。

 その姿は、強烈な魔素さえ伴わなければ美の象徴と表現したくなるほどだ。

 だが、それは美の象徴なんかではなく、恐怖の象徴だった。


「ア……、アークデーモン……」

 それは、クリンスマンさんが発した言葉だった。

 その名は、強力な力を持つ悪魔の中でも上位の存在。ギルド指定の危険度で言えばAランク。かつて氾濫時に現れたサイクロプスに匹敵する化物だ。いや、大きさが人と同じサイズである事を考えると、サイクロプス以上に厄介な敵である事は間違いない。


「正解~。魔結晶を使って無理矢理レッサーデーモンをアークデーモンにしたけど、強さは保証するから頑張って倒してみてね~」

 そんなローブの男の言葉に反応するように、アークデーモンの周りに魔法陣が複数出現した。


 それが合図となり、アークデーモンとの戦いは始まった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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