第76話 コトール村
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「ウェンディさーん!!」
自家用馬車に乗って南門に到着すると、御者をするウイを呼ぶ声が聞こえる
「ハイナー様です。既に多くの方が集まられているみたいですね。そちらに向かいます」
まだ集合時間10分前なんだが、みんな集まるのが早いんだな。
集合場所に到着して、馬車から降りると、ハイナーさんが2人のギルド職員らしい男を連れだって俺達の所にやって来た。
「お待たせしてしまったみたいで、申し訳ないです」
ハイナーさん達に声を掛ける。
「いえいえ、まだ集合時間前ですので問題ありませんよ。それよりもこちらの2人を紹介します」
ハイナーさんがそう言うと、2人の男が前に出る。
「クリンスマンだ。この隊の隊長を仰せつかっている。よろしく頼む」
クリンスマンと名乗った男は金髪碧眼で30代前半、如何にも戦士といった出で立ちをしている。眼光が鋭く、また思慮深そうにも見える。この隊を任されるのだから、かなり経験豊富なのだろうな。
「次に俺だな。俺の名はダンテ。この隊の副隊長だ。よろしくな。」
ダンテと名乗った男の第一印象は、兎に角デカいという事だ。ギルドマスターのマルディーニさんも大きかったが、そのマルディーニさんよりも更に二回りは大きいのではないだろうか? 褐色の肌と相まって見た目の筋肉ムキムキ感が凄まじい。
「私はレオンハルトです。そして私の仲間のウェンディとティアナ、ニーナにエヴァンジェリーナです。よろしくお願いします」
ウイ達も俺の自己紹介に合わせて頭を下げる。
「君達の噂はよく聞いている。期待しているよ。それから、俺達はただのギルドの職員だ。敬語は要らない普段通り話してくれ」
気さくにそう言うクリンスマンさんに「了解です」とだけ答えておいた。
ちなみに3人鑑定結果はこうだ。
【名前】 クリンスマン 【年齢】 33歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者ギルド・ノヴァリス支部ギルド職員
【レベル】59(B-)
【名前】 ダンテ 【年齢】 30歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者ギルド・ノヴァリス支部ギルド職員
【レベル】52(B-)
【名前】 ハイナー 【年齢】 34歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者ギルド・ノヴァリス支部ギルド職員
【レベル】46(C+)
クリンスマンさんはオリハルコンランク冒険者クラス、ダンテさんはミスリルランク冒険者上位クラス、そしてハイナーさんはギリギリミスリルランク冒険者クラスの実力といったところかな。
レベルの高さから見ると、冒険者ギルドの職員の中でも上位の実力者達なんだろう。実力的に少々ハイナーさん心配だが……
その後クリンスマンさんに連れられ3人のオリハルコンランク冒険者を紹介された。
【名前】 フンメルス 【年齢】 35歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者
【レベル】63(B)
黒髪の巨漢。ただ、体格に似合わぬ柔和な表情をいつもしている冒険者だ。得物は巨体に似合う巨大なハンマーでゴリゴリの戦士タイプのようだ。
今回参加している冒険者の中では、実績ナンバーワンの冒険者なのだが、本人は、ここノヴァリスの冒険者には俺くらいの奴はゴロゴロいるけどなと謙遜していた。
【名前】 ノイアー 【年齢】 32歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者
【レベル】59(B)
フンメルスさんのパーティーメンバー。くすんだ金髪が特徴ともいえなくもないが、あまり特徴の無い男だ。ただ、パーティー内で斥候役を務めているようで、あえて目立たないよう平凡な感じにしている節がある。良く見ると意外にイケメンのようだ。得物は短剣の二刀流と弓矢。
【名前】 ケディラ 【年齢】 34歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者
【レベル】59(B-)
この人もフンメルスさんのパーティーメンバー。口の周りから頬にまでびっしりと黒い髭を生やした髭面はかなり印象的だ。魔法と剣を合わせて使いこなす魔法剣士のようだが、ケディラさん曰く、魔法はおまけ程度しか使えないらしい。ただ、スキルを見たら【純魔法】と【風魔法】が共にレベル4に達していたので、魔法使いとしての実力も相当に高いと思う。得物は片手剣のみのようだ。
「若輩者ですが、よろしくお願いします」
「君らの噂は色々聞いているよ。ノヴァリスに来ているとは聞いていたが、今回一緒に仕事が出来るとはね。よろしくな」
フンメルスさんは中々気さくな人のようだ。フンメルスさん達のパーティーは能力も高いようだし、彼らが一緒なら今回は思ったよりも楽な仕事になるかもしれないな。
続いて紹介されたのは10名のミスリルランク冒険者だ。レベルは47~54。素質ランクはC~B-といったところだった。まあ、ミスリルランクだしこんなもんだろう。年齢はまちまちで、上は44歳から下は23歳までとかなり幅が広かった。
その中でも一番若い23歳の若者、名前はマックスと言ったかな。その男が紹介された時、やたらと俺の事を睨んでいたのが印象的だった。
後で、ハイナーさんが「彼はノヴァリスの冒険者ギルドで、若手のナンバーワンの有望株と持て囃されていたのに、15歳でオリハルコンランク冒険者にまでなられた、レオンハルト様がノヴァリスにやってきた事で、若手ナンバーワンの地位を奪われたと思い、僻んでいるのですよ」と教えてくれた。
まさに、知るか、と言った感じだ。変な事はしてこないと思うが、恨まれないように気を付けておこう。
手始めにハイナーさんに様付けで呼ぶのは止めてもらった。
こんな感じで、ギルド職員3名、冒険者18名、総勢21名で今回の仕事を行う事になる。
移動はそれぞれパーティー毎に分かれて馬車で移動。全部で6台の馬車で動く事になる。
コトール村までは馬車でおよそ半日。今から向かえば夕方暗くなる前には到着出来る予定である。勿論順調に行けばだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
移動は順調、とまでは行かなかったが、途中オーガやトロールのような魔物に襲われた以外、特に問題は起きなかった。しかし、これだけの戦力が揃っていると、魔物が現れたとしても、出現したとほぼ同時に瞬殺されてしまい、最後尾にいる俺達が戦う事は全く無かった。まさに過剰戦力である。
途中、問題らしい問題と言えば、お昼休憩中にあのマックス君(一応年上だけど君付けでいいよね)が逐一絡んで来た事だろうか。俺の冒険者ランクもそうだが、ウイ達4人の美少女を引き連れているのもどうやら気に入らないようだ。まあ、気持ちは分からないでもないが……
そんなこんなで移動は順調に進み、夕方、太陽が地平線に沈む直前にコトール村が見える位置までたどりついた。
ここで一度、馬車は停車すると、ノイアーさんを中心とした4人の斥候部隊が組まれ、村の状況を確認しにいく事になった。
今回の斥候部隊には、俺も志願して参加する事にした。
理由は【千里眼】で村の様子を見た時、中に見た目ガーゴイルに近い感じで、蝙蝠のような翼を持った黒い人型の生物を発見したからだ。しかも複数体だ
【千里眼】を通すと鑑定出来ないので、【ロラ】に聞いてみるとレッサーデーモンである事が分かった。
レッサーデーモンをはじめとする悪魔種は、本来闇属性の精神生命体のようなもので、通常、こんな日の当たる場所に顕現する事は殆ど無いと言っていい。しかもそれが複数体同時に顕現しているとなると自然発生はあり得ない。
その原因と、実際のレッサーデーモンの能力を鑑定してみたくて、志願したのだ。
まあ、原因はおよそ予想は付いているが……
ちなみに、レッサーデーモンは能力的に平均するとレベル35、素質ランクC+といったところらしいが、悪魔種は同様の種であっても能力の差が大きい為、実際個々で鑑定してみないと本当の力は分からないらしい。
一応、レッサーデーモンの件は斥候部隊を編成する際に全員に報告していたが、全員ミスリルランク以上の冒険者なだけに、目に見えて動揺する者は一人も居なかった。
とはいえ、複数のレッサーデーモンを使役する者となると、考えられるのは魔人だ。このメンバーなら中位以下の魔人までなら何とでもなると思うが、楽観視する者はいないだろう。それだけ、魔人とは油断ならない相手なのだから。
まあ、あくまでも魔人の可能性が高いってだけだけどな。とはいえ、人では同じ事が出来そうに無いだろうけど……
今回の斥候部隊のメンバーは、俺以外にはノイアーさんをリーダーに、コニーというレベル50(C+)のミスリルランク冒険者とミルコというレベル48(C+)のミスリルランク冒険者が加わる。2人とも歳は同じらしく、36歳のベテラン冒険者だ。
このメンバーだと、斥候という仕事に関しては、俺が一番足手まといかも……
そんな事を考えながら俺達はコトール村に向け気配を消して近づいていった。
日が地平線に沈み、闇が地上を侵蝕し始めた頃、俺達斥候部隊は村の塀まで到着した。
ここからの行動は、既に移動前に決定している。
ノイアーさんがハンドサインで俺に指示を出す。俺はそれに頷くと【千里眼】と【マップ】を併用し中を確認する。
【千里眼】と【マップ】で確認する限り、レッサーデーモンの数は15体。しかも全て受肉している。
本来、悪魔種は精神生命体で肉体を持たない。その為、召喚された場合、召喚者の能力にもよるが召喚出来る時間は数十分から数時間で、それ以上経つと消えてしまう。だが、今回のレッサーデーモンは何かを依代に受肉し、現世に留まる事が出来ている。
一流の魔導士でも、レッサーデーモンを1体呼び出すのに相当な準備と魔力が必要だ。それも受肉させるとなるとその依代にもよるが少なくとも倍近い魔力を必要とすると聞いた事が有る。
『その認識で間違いありません』
【ロラ】からお墨付きを頂いた。
そうなると、人間には明らかに無理。複数人で遣る事も考えれるが、やっぱり魔人の可能性が高いだろうな。
俺は、レッサーデーモンが居ない場所を選び、斥候部隊と共に村の中に転移した。
村の中はひっそりと静まり返っており、夜の闇と相まって不気味さが増している。
村の家の中には光が漏れている家も複数有るが、人の話し声は一切聞こえてこない。
俺達はここで分かれて村の状況を見て回る。
俺は先ず、灯りがともる家の側に移動した。
【千里眼】を使い、家の中を覗いてみると、そこには男女4人の人が居た。見た感じ拘束されているような事は無いようだ。ただ、その表情は、恐怖とも諦めとも何とも表現しづらい、暗い表情をしている。
続いてチャンスを見計らい、直接肉眼で中の住民の鑑定を行う。
んー、特に洗脳されているような事は無いようだな。少し話を聞いてみたい気もするが、声を掛けていいものなのだろうか?
……やっぱ、やめておこう。慣れてない事をすると碌な結果にならないだろうしな。
どうせ、ノイアーさん辺りが何とかしているだろうし。
では、俺は俺の出来る事をしよう。
という事で、レッサーデーモンの鑑定と、今回の首謀者でも探ってみるか。
先ずは一番近くに居たレッサーデーモンに近づき鑑定してみた。
【種名】レッサーデーモン 【種別】悪魔種
【レベル】47(C+)
取り敢えず、レベルだけ見てみたんだが、これ異常にレベル高くないか? 確かレッサーデーモンの平均レベルって35だったはずだが、平均の枠組みを明らかに超えているだろ。
『悪魔種が受肉する際、受肉した依代の能力や素材により、その能力に大きな差が出ます。今回、このレッサーデーモンの依代に使われたモノが良質な依代だったと考えられます』
良質な依代ね……
取り敢えず他のレッサーデーモンも見てみよう。
これで、一応全部確認出来たな。
15体目のレッサーデーモンを鑑定し終えて、考察を開始する。と言っても途中で何となく分かっちゃった気がするけどね。
まず、レッサーデーモンのレベルだが、かなり幅が有るようだ。一番高い者でレベル50、一番低く者でレベル36だった。全体的に見るとレッサーデーモンのレベルとしては少々高いようだ。
特にその中でも上位5体は全てレベル45オーバー。あと少しでグレータ―デーモンランクにも届くのでは、と思える強さになっていた。
総数15体、その中で5体が特に突出してレベルが高い。これって、やっぱりここを守っていた冒険者の数と重なるよな……
ここを守っていた冒険者はミスリルランク冒険者が5名、ゴールドランク冒険者が10名だったはず。余り考えたくないが、冒険者が殺され、それを依代にレッサーデーモンを召喚、受肉させたのではと憶測してしまう。
しかもこんな所でどうやって悪魔召喚の儀式をやったんだ?
『魔人が使用する【上位悪魔召喚】のスキルであれば、特に儀式を行う事も無く、悪魔を召喚する事が可能です』
マジですか? 幾らレッサーデーモンとはいえ儀式無しに悪魔を召喚出来るなんて、魔人、恐るべし。
『今のマスターの総MP量でしたら、【上位悪魔召喚】スキルさえあれば同様の事は可能です』
えっ!? 魔人じゃなくても使えるの?
『可能です。本来【上位悪魔召喚】は魔人のみのスキルでは無く、種族関係無く取得可能なスキルです。ただ、消費するMPが途轍もなく多く、魔人以外では扱えないスキルというだけです。つまり、マスターのように、魔人と同等以上のMP量を有していれば、誰にでも使用が可能なのです』
誰にでもって言っても、俺のMP量って異常に多いはずだが……それってやっぱり人族や亜人には普通に無理なんじゃないか?
『そんな事はありません。総MP量が1万以上有り条件さえ揃えば、誰でもスキル取得は可能です。実際、過去には人族でスキル取得に至った者が僅かではありますが存在します』
一応スキル取得に至った人って居たんだ。しかし1万って……
ちなみに今回と同じ事をしようとしたら、どれくらいMP消費するか分かるか?
『おそらくですが、1万5千も有れば可能かと』
1万5千ね……、今回の相手は、少なくともそれだけのMPを持っている相手という事か……
もうこれって、犯人は魔人確定でいいんじゃないか?
しかし、【上位悪魔召喚】か……今の俺なら取得出来るんだよな……
『はい、可能です』
取得してもいいんだが、人の死体に受肉させるとかちょっと気が引けるな……まあ、受肉させずにその場しのぎの戦力として考えればいいんだが。
まあいいや。今取得してもどうせこの場で使えないだろうし――というか使ったら俺が犯人にされそうだし……
取り敢えず今回は保留で、落ち着いたら取得するかどうか考えよう。
結局首謀者の姿を見つけれなかったが、そろそろ時間のようだし、一旦集合場所に戻るとしよう。。
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