第75話 指名依頼
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翌朝早朝、朝の訓練を終えみんなで朝食を取っていると、玄関からノッカーを鳴らす音が聞こえてきた。
「こんな早朝から誰だ?」
「わたしが見てきます」
ニーナが食事の手を止め席から立ち上がる。
「頼む、何かあったすぐに念話で呼んでくれ」
「畏まりました」
俺の言葉にニーナは一つ返事をすると客の応対に玄関に向かう。
「じゃあ、ボクはボディーガードについて行くね」
食事を既に終えていたティアナはそう言ってニーナの後をのんびりとついていく。
ティアナも付いて行っている事だし問題無いとは思うが、念の為、【マーカー】を通して来訪者を確認してみるか。
玄関先に立っているのは30代半ばの痩せ型の男だった。着ている服から、冒険者ギルドの職員のように見えなくもないが、こんな早朝からなんの用だろう?
「どちら様でしょう?」
扉を通してニーナの誰何の声が聞こえてくる。
「早朝から恐れ入ります。私は冒険者ギルドの職員をしておりますハイナーと申すものです。今日は、オリハルコンランク冒険者である、レオンハルト様にノヴァリス冒険者ギルドのギルドマスターより緊急の指名依頼が御座いまして、朝早くご迷惑かと思いましたが、出かけられる前にと思いまして早朝ではありますがお自宅にお伺いした訳です」
「はあ」
一気にまくし立てるように話す、ハイナーと名乗る男。
『レオンハルト様、冒険者ギルドの職員のようですがいかがいたしましょう』
ギルドマスターからの依頼となると何も聞かず断るわけにも行かないか……
『ギルドカードを確認して問題無ければ応接室に通してくれ』
『畏まりました』
しかし緊急の依頼とはどんなものだろう?
オリハルコンランクの冒険者に指名依頼するとなると、それなりの難易度の高い依頼にはなるんだろうけど……
「レオンハルト様、ハイナー様を応接室にお通し致しました」
紅茶を飲みながらそんな事を考えていると、ニーナが俺を呼びに来た。
「了解。すぐに行くよ」
そう答え、皆を引き連れ応接室に向かう。
「お待たせしました」
俺が応接室に入ると、ハイナーは座っていたソファーから立ち上がる。
「いえ、こちらこそ早朝から恐れ入ります。私はノヴァリス冒険者ギルドの職員でハイナーと申します。以後お見知りおき下さい」
そう言って深々と頭を下げる。
「レオンハルトです。こちらこそよろしくお願いします。ところでハイナーさん、ギルドマスターからの緊急の指名依頼と聞いたのですが、どういった依頼なんですか?」
「誠に申し訳ないのですが依頼の内容はギルドマスターより直接お伝えする事になっておりまして、此処でお話しする事が出来かねます」
緊急性のある事で尚且つ極秘性の高い依頼って事なのだろうか? なんだか少々面倒な依頼な気がしてきたな。
「今からレオンハルト様のお時間が許すのであれば、一緒にギルドまで来ていただきたいのですが、いかがでしょう?」
いかがでしょうって、どうせ行くしかないんだろうな……
「分かりました。同行させてもらいます。彼女達も同行させたいのですが、いいですか?」
「勿論です。レオンハルト様のパーティーメンバーも実力者揃いと伺っております。一緒に来ていただけるのであれば願ってもない事です」
結構なお世辞だな。ウイやティアナは確かに王都の氾濫の際に、それなりの活躍はしていて名は多少なりとも売れているとは思うが、氾濫以降に仲間になったニーナやエヴァは今まで特に目立った活躍は一切していない。それを実力者揃いと表現すのはどうかと思わないでもない。まあ、ウイとティアナだけの事を指して言っているのかもしれないが……
「分かりました。ご一緒させてもらいます。準備もありますので少し時間を貰えますか?」
「勿論です。では、私は外の馬車で待っております」
一応ハイナーさんを玄関まで送ると、早速自分達の準備をする。どんな依頼かは分からないが緊急の依頼という事だから、すぐに戦闘が出来る準備は必要だろう。
着替え終わった俺達はそれぞれの装備の確認をするとハイナーさんが待つ馬車に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
早朝とはいえ、既に冒険者ギルドの中は多くの冒険者で混み合っており、我先にと依頼掲示板の前に集まり実入りの良い依頼を探している。
そんな中俺達は、ハイナーさんの先導で受付カウンター脇にある、関係者以外立ち入り禁止と書かれていた扉の先へと案内された。
扉の先は至ってシンプルな廊下が続いており、突き当たりに2階に上がる階段が見えていた。
そのまま俺達はハイナーさんの案内の下2階へと上がる。そして、2階の一番奥にあるギルドマスターの執務室に到着するとハイナーさんは一つ大きく深呼吸をして部屋をノックする。
って、なんでハイナーさんがそんなに緊張しているんだ?
「ハイナーです。レオンハルト様とそのパーティーメンバーの方をお連れしました」
「分かった。お通ししてくれ」
ギルドマスターの返事を聞きハイナーさんは俺達を執務室の中に誘導すると、ギルドマスターに一礼して執務室から退室していった。
中に入ると白髪に長い白い髭を生やした老人が、大きな執務机で何かの書類に目を通していた。
俺達が入って来たのを確認すると白髪白髭のギルドマスターは作業の手を止め、俺達を迎え入れる為か、席から立ち上がる。
しかしデカいな。
立ち上がったギルドマスターの背は、俺よりも頭2つ分は高いのではないだろうか。
しかも、その体つきは、とても老人には思えない程、引き締まった肉体をしており、その身体から醸し出す雰囲気はまさに歴戦の戦士を思わせる。現役のオリハルコンランク冒険者でも、これほどの強者の雰囲気を持った者は見た事が無い。どちらかと言えばアダマンタイトランク冒険者であるマティアスやワルターさんに近い存在に思える。
間違いなく強い。そう思える存在だ。鑑定すればすぐに力の度合いは計れるだろうが、その雰囲気から何となく覗き見するのは気が引ける。まあ、必要無い今の状況なら、あえて能力を覗き見る必要は無いだろう。必要になったら見るけど……
「オリハルコンランク冒険者のレオンハルトです。それに私のパーティーのウェンディとティアナ、それにニーナとエヴァンジェリーナです」
ちなみにルルとアルスはここに連れて来る訳にも行かず送還してある。
「私はノヴァリス冒険者ギルドのギルドマスター、マルディーニだ。まあ、立ち話もなんだし取り敢えず掛けてくれ」
「ありがとうございます」
ギルドマスターにソファーを勧められ席に着く。ウイ達は当然のように俺の後ろに並んで立った。どうせ言ってもソファーに座る気は無いだろうから言わないけど、少し寂しい……
「さてと、正直時間が余り無いのでな、話を進めさせてもらってもいいかな?」
「はい、構いません」
俺の答えにマルディーニさんは一つ頷くと口を開く。
「それから、これから話す内容はギルドの規定により口外を禁ずる。良いな?」
まあ、指名依頼だから守秘義務が発生するのは当然だよな。俺は首肯で返す。
「うむ、では話を進めよう。まずレオンハルト君、君はコトール村という村を知っているか?」
どっかでチラッと聞いた事が有る気がするが、記憶に無いかな。
『レオン様、確かノヴァリスの南方、海岸線にある塩が特産品の村だったはずです』
ウイから念話で情報提供があった。流石いいタイミングだ。お蔭で思い出した。ノヴァリスに来てから、市場に行くとコトール産の塩だよ、っと良く店のおばちゃん達に勧められていたんだった。あまり興味が無いから忘れていたが……
「確かノヴァリスの南方にある海岸線の村でしたよね」
さも知っていたかのように答える俺。
「そうだ。塩が特産品の村でな、竜の平原にある街や村にとっては貴重な塩を供給してくれる重要な村だ。
そして、その重要性から、村には常に護衛の為にミスリルランクの冒険者が5名、そしてゴールドランクの冒険者が10名常駐させてある。尚且つ通信用の魔道具を使い、ここノヴァリスの冒険者ギルドと1日朝昼晩の3回、定時連絡を取るようにしていたのだが、その定時連絡が昨晩から途絶えているのだ」
たった一晩途絶えただけで、そこまで切羽詰まるような事なんだろうか? もしかしたら報告をし忘れた可能性とか、魔道具が壊れた可能性とかもあるんじゃないだろうか。
そう思い、マルディーニさんに聞いてみたが「そんな事があり得んから問題なのだ」と一蹴されてしまった。まあ、ギルドマスターがそう言うのならそうなのだろう。
「では、指名依頼の内容とは、そのコトール村の現地調査でしょうか?」
「おお、察しがいいな」
「はあ」
いやいや、あの説明を聞いたら大概最初に思いつく依頼内容は現地調査っしょ。
「君に、いや、君達にはコトール村に赴いてもらい現地調査をしてもらう。そして、合わせてその原因の排除をお願いしたい」
まあ、当然そうだろうな。
「了解しました」
特に断る理由も無いので受ける事にする。
俺の答えに「受けてくれるか、有り難い」とマルディーニさんは頭を下げると、その後、更に話を続ける。
「それから、今回の依頼は他の冒険者と共同で行ってもらう。君ら以外にオリハルコンランク冒険者3名、ミスリルランク冒険者10名にも参加してもらう予定だ。それに、戦闘向けのギルド職員3名が同行する。君らを入れて21名で行動してもらうことになるだろう」
かなりの大所帯だ。しかし俺以外にオリハルコンランク冒険者が3人もいるとなると、村一つの現地調査にしては過剰戦力のような気もするけど……
「かなり強力な布陣のようにも思えますが、過剰戦力じゃないですか?」
「何を言っとる。コトール村には常に5名のミスリルランク冒険者と10名のゴールドランク冒険者が常駐していたのだ。それが、現状倒されたにしろ捕らえられたにしろ我々に連絡する事も出来ない状況に陥っているのは確かなのだ。本当はもっと戦力を増やしたいくらいなのだが、これ以上戦力集めると、何かあったのではと街の者を不安にさせてしまう。当然既に領主には報告済みだが出来るだけ内密に処理をしたのだ」
そう言うものなのか……
「了解しました。では、コトール村にはどのように向かいますか?」
「今から2時間後、街の南門に来てくれ、そこから今回の参加者全員でコトール村に向かってもらう。食料等はこちらで用意する。馬車もこちらで用意できるが君達はどうする?」
「馬車は自前の物があるのでいいです。それより、そんな大所帯で移動したら目立ちませんか?」
秘密裏に動きたいはずなのに、冒険者が20人以上も集まっていたら目立って仕方ないだろう。
「君はここをどこだと思っておる。迷宮都市ノヴァリスだぞ。旅に出る者が、20や30の護衛を付ける事はざらにある事だ。誰も気に留めたりはせんよ」
そういうものなのかな……、ここノヴァリスに来てから殆ど『坑道迷宮』に籠っていたから、その辺の事が全然分かっていなかったな……
この街を拠点にするつもりなのだし一度、市場だけでなく街全体を見て回るのも必要かもしれないかな。
「了解です。では、俺達は一度自宅に戻り移動の準備をしてきます」
「了解だ。かなり危険な依頼になるかもしれないが、よろしく頼む」
ギルドマスターの言葉に俺は一つ頷いて執務室を後にした。
それから、一度家に戻った俺達は、改めて移動の準備を整えると、指定の時間に合わせて南門に向かった。
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