第65話 事後処理
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地下室の正常化が完了し、俺達は魔物の討ち漏らしがないか、地下室内をチェックして回っていた。
「話に聞いていたよりも、ずいぶん広く感じますね」
正常化され元の広さに戻ったはずだが、ウイの言う通り、確かに話しに聞いていたよりもかなり広い地下室のようだ。しかも、部屋の数は4部屋と聞いていたが、実際はその倍の8部屋があるようだ。
『おそらく、迷宮化した事が原因でしょう』
迷宮化が原因?
『はい。迷宮化により一時的に拡大した地下室が、正常化した後もその影響が残り、【空間魔法】で広げたように、物理的な法則ではなく魔法的な法則で拡張された状態になったと思われます』
じゃあ、部屋数が増えたのもそれが原因?
『おそらくは』
それって上手く正常化出来てないって事では?
『いえ、確実に正常化出来ています。今後ご使用いただくのに特に問題は無いでしょう』
よく分からないが、そう言うものなのかな……、まあ、問題無いならいいや。
その事をみんなに伝えると、ティアナ以外は至って普通に、
「そうなんですか。不思議な事があるんですね」
みたいな反応だったの対し、ティアナだけは、
「広くなったんだ~。儲かったね」
とらしいと言えばらしい反応を返してきた。
まあ、この家は今回の依頼の報酬で俺達の物になるのだから、確かにティアナの通りなんだが……
そんな感じで、一通りチェックを終えると、髭面オヤジに完了報告をする為、家を出る事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もう既に手は打ってありますから、あなた方の力は必要ありません」
「しかしカーターさん、街中で地下室の迷宮化が進んでいるとなると、我が方としても看過する事は出来ません」
俺達が外に出ると、髭面オヤジが誰かと言い合いをしている声が聞こえてきた。
声のする方に視線を送ると、丁度敷地の門の所で髭面オヤジが20人程の騎士を引き連れた魔道士風の男と何かしら押し問答をしているところだった。
「あれ、何やっているんだろ?」
引き連れられた騎士はウインザー王国の騎士団の鎧を身に付けて事からも、おそらくは今回の件で国から派遣されてきた者なのだろう。
「ルパート様!!」
その様子を見ていた時、普段あまり大きな声を出さないニーナが珍しく大きな声を上げる。というか今、ルパート様って言わなかったか?
「確かにルパート様……ですね」
「ホントだ~。ルパート様だ」
ウイとティアナもニーナの言葉に同意する。
俺も髭面オヤジと話をしている男をしっかりと凝視してみる。……うん、確かにルパートさんに見えるな。しかしなんでルパートさんがこんな所に居るんだ?
ここで話していても仕方がない。依頼完了の報告もあるし、髭面オヤジとルパートさんが言い合いをしている現場に向かった。
「カーターさん、依頼は無事完了しました」
一応とはいえ依頼主なので、ルパートさんに声を掛けたい気持ちを抑え髭面オヤジに先に声を掛ける。ルパートさんには目礼だけはしておく。
俺の言葉に髭面オヤジは満面の笑みを浮かべると、
「それは良かった。ありがとうございます」
笑顔といい、態度といい、なんか気持ちが悪い。
「レベロ殿、これでこの件は解決しました。当初の予定通り、あなた方の力を借りることなく我々だけの力だけで解決しました。もう、文句は無いでしょう」
いや、あなたの所で手に負えなかったから、ギルドに依頼しに来たんでしょうが。まあ、いいけど。
「しかしですね」
「もう終わりましたとお伝えしましたよね」
話しを続けようとするルパートさんに対し、髭面オヤジは話を打ち切る。
何だろう、ルパートさんらしくない。というか、俺達の事を見ても、なんの反応も示さないのも変だ。ルパートさんに限って俺達の事を忘れたって事は、絶対無いだろうし……
「少しいいですか?」
「何ですか? レオンハルト殿」
ルパートさんに話し掛けたつもりが、髭面オヤジが入ってきた。いや、あんたに話し掛けたんじゃないし。
「いえ、カーターさんじゃなくて……、あのルパートさんですよね?」
恐る恐る直接ルパートさんに聞いてみる。
「……あっ! なるほど、勘違いなされているみたいですね」
勘違い? どういう事だ?
「お初にお目に掛かります。私はドワイト・レベロと申します。ルパート・レベロの双子の弟です。ここノヴァリスでは国の役人として中央区の治安維持の仕事をしております。兄共々よろしくお願いいたします」
双子の弟……、道理で似ている訳だ。それにドワイトさんの仕事の内容で、なんでここに来たのかも分かった。
「レオンハルト、冒険者です。ルパートさんにはいつもお世話になっています」
「あなたがレオンハルト様でしたか。お噂はかねがね伺っております」
どんな噂だろう……
「そういえば、王都を拠点に活動をされていたと伺っておりましたが?」
「先日まではそうでしたね。ノヴァリスには昨日到着したばかりなのですが、今後は、ここノヴァリスを拠点に活動をしていく予定です。それと、丁度今回の依頼の報酬で、この家を頂ける事になっているので、これからここが我が家です。もし直接仕事の依頼がありましたら、いつでもお越しください」
最後のは社交辞令みたいのものだが。
「ありがとうございます。私の仕事の関係上、力のある冒険者の方と縁故を持てる事は願ってもない事です。今後ともよろしくお願い申し上げます」
そうやってドワイトさんと挨拶を交わしていると髭面オヤジが、
「レオンハルト殿、そろそろ一度現場を確認したいのですが」
なんかすごく固まった笑顔で言ってきた。気持ち悪さが5割増しである。
「分かりました。案内します。ドワイトさん、では俺達はここで失礼します」
そう言って俺は髭面オヤジを引き連れて再び家の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
地下室の確認を終えた俺達と髭面オヤジは、一度カーター商会の店舗にある応接室に通されていた。
しかし、なんというか、ゴテゴテした部屋だな……
貴族を相手に商売をしているからなのか、店主の趣味なのか、金銀財宝のような調度品がそこら中に置かれており、なんとも落ち着かない。
ルパートさんの店とはかなり印象が違うな。俺的にはルパートさんのお店の方が圧倒的に好みだな。
「今、あの物件の権利書と残りの報酬を用意していますので少々お待ちを」
それだけ言うと髭面オヤジは張り付いた笑顔のまま話さなくなった。俺もそうだが、もう、あまり俺達と話したくないのだろう。俺的にもこのオッサンと話したくないので問題無い。
そんな感じで沈黙が続く事15分。こんなに時間が掛かるなら正直髭面オヤジには報酬が用意できるまで、部屋から出て行って欲しかった。
――コンコン
「お持たせしました。報酬をお持ちしました」
ようやく準備が出来たようだ。目の前に張り付いた気持ちの悪いオヤジの笑顔があっただけに余計長く感じてしまった。
「早く入れ」
やや怒り気味に声色から察するに、髭面オヤジの気持ちも同じようだ。
「失礼します」
入ってきたのは20代半ばの男だった。どことなくだが髭面オヤジと似た顔立ちをしている気がする。そういえばこの人、髭面オヤジに付いてきていた3人の部下の中にいたな。
「権利書と現金を用意するだけで、どれだけ時間を掛けるつもりだ。このバカ息子が!」
息子だった。
見た感じ、父親よりも真面目で優秀そうに見えるが……、まあ、印象だけでは何とも言えないけどね。
それからはつつがなく、報酬であるあの家の権利書と鍵、そして現金として白金貨3枚と金貨50枚を貰う事が出来た。
最初の髭面オヤジの感じといい、正常化して広くなった地下室を見た時の表情といい、出し渋りとかしそうな感じがしていたのだが、素直に報酬を出してきた事に正直拍子抜けしてしまった。まあ、俺としてはその方がいいのだが。
そして無事報酬を受け取った俺達は、長居する理由もないので早速新居に向かったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
改めて見る庭はしっかりと手入れされており、見る者の目を楽しませてくれている。
建物の裏手に回って見ると、そこには広い訓練場のようになっており、まさに希望通り、いや、希望以上の造りになっていた。
続いて建物の中を見て回る。
1階にはキッチン、ダイニングルーム、リビング、応接室、お風呂などがあり、更には使用人用の部屋なのか、2階の部屋に比べてやや狭い部屋が2部屋あった。
2階に上がると部屋は全部で7部屋あり、1部屋を除いてすべて同じ広さの部屋のようだ。どうやら広い部屋は家主用の部屋らしく、他の部屋と比べてワンランク上の造りだった。
当然その部屋が俺の部屋となり、その周りを囲むようにウイ達が自分達で思い思いに部屋を選んでいく。
ちなみに各部屋には、既にベッドを始めクローゼットやドレッサーなどが設置済みのようで、新たに買いに行く必要はなさそうだ。
しかも、どの部屋も掃除が行き届いており嬉しい限りだ。
部屋を決めた俺達は、リビングに集まり今後の事を雑談混じりで話し合っていたのだが、途中雑談の中でドワイトさんの話題が出てきた。
「そういえば、レベロ商会に居たウイ達は、ドワイトさんの事を知らなかったのか?」
特にウイなんかは長年レベロ商会に居たのだし、話くらい聞いた事はあったかもしれない。
「ルパート様は余り私的な事はお話になりませんでしたから……。一応、噂には弟が一人いるとは聞いた事が有りましたが、双子というのは初耳です」
ウイが申し訳なさそうに言う。一応、弟が居るという噂はあったようだ。
「ボクも同じで初めて知ったよ」
ティアナは当然のように知らないようだ。
「申し訳ありません。わたしも存じませんでした」
ニーナも知らないとなると、ドワイトさんはレベロ商会に顔を出した事が無いのかもしれないな。もっとも店に来ていたとしても、奴隷が居る部屋に行った事が無いだけって事も十分あり得るけど。
まあ、いい人そうだし今後、いい関係が築けるといいんだけど。
丁度その時だった。
――ガンガン
ノッカーを叩く音が聞こえてくる。
「わたしが見て参ります」
そう言って、ニーナが応対に向かう。
「ボクも一応ついて行くね」
ボディーガードのつもりか、ティアナがニーナの後を付いていく。
「どちら様でしょうか?」
リビングまでニーナの声聞こえてくる。
「……………………」
何か話している声が聞こえてはくるが何を言っているのかまでは分からない。【マップ】を使って調べてみる事に……あっ!
「レオンハルト様、ドワイト様が訪ねてこられました。どういたしましょう?」
ドワイトさんでした。
確かに用があったら訪ねてとは言ったが、いきなりその日に来るとは思わなかった。正直ビックリだ。
「応接室に通してくれ」
「畏まりました」
さて、どうしたものか。厄介事で無ければいいんだが。
「ほぉ、そうするとカーター氏からはこの家とプラス350万コルドを報酬として貰ったのですか」
「ええ、家探しをしていた時だったので丁度良かったですよ」
先ほどからどうでもいい話が続いている。まあ、有用な情報もあるんだけどね。
この人はいったい何しに来たんだろう? 仕事の依頼をするでもなく、ただ単に王都での話しやら、これまでどんな魔物を倒したのかなど、世間話と言っていい内容しか話していない。まあ、これも情報収集の一環なのかもしれないが……。
ただ、なんというか、ルパートさんとはまた違った意味で、仕事の出来る男といった感じの印象を受ける人だ。
それからも他愛のない話が続き、日も傾きかけた頃、
「これは申し訳ない。少し長居してしまったようだ」
確かに長居ではあったが話しが面白く有用な物が多かった為、俺としてはそんな長く感じなかったが。
「いえいえ、良いお話しを多く聞くことが出来ましたから、お気になさらないで下さい」
「そう言っていただけるとこちらとしては助かります。今後ともお互い良い関係が築けそうですね」
そう言って人懐っこい笑顔で握手を求めてくる。
「そうですね。今後ともよろしくお願いします」
俺もそう言って握手を交わした。
時間にして1時間半ほどだったが、本当に話を聞きに来ただけだったみたいだ。少し変わった人だが、やはり悪い人では無さそうだし、ルパートさん同様良い関係を築けそうだ。ただイマイチ考えが読めないタイプだな。実は今回の訪問にも何か裏があったりして……なんてね。
さあ、明日はからいよいよ迷宮かな。おっとその前に、折角だから今日手に入れたクイーンリーパーアントの素材を使って装備の新調でも行うかな。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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