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第64話 女王蟻

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「何だ、あれ?」

 部屋に入った俺が見た物は、世にも不気味な蟻の塊と、その中心にいる明らかに別格の存在だった。


 それは、美しい女性だった。女性には表情が全く無く、美しい容姿と相まってまるで彫刻のようだ。だが、女性は人ではあり得ない。

 カマキリの鎌のような両手、蟻そのものの下半身、そして頭の先からつま先まで、全てが純白に輝いている。それはとても美しく、そしておぞましい姿だった。

 その女性が俺の事をはるか上から見下ろしている。


 デカいな。蟻の部分だけでも俺の倍はありそうだ。魔物から感じる圧力も今まで戦ってきた魔物の中でもかなり上位に入るだろう。

 ――鑑定。


【種名】クイーンリーパーアント 【種別】魔蟻族(特殊種)

【レベル】71(B)

【スキル】鎌術     :LV5

     蟻酸     :LV5

     毒攻撃    :LV4

     麻痺攻撃   :LV3

     剛力     :LV4

     身体能力強化 :LV4

     結界魔法   :LV4

     超回復    :LV3



 危険度Bランクって言うのも間違いないが、これはその中でもかなり上位の個体だな……

『おそらく、このクイーンリーパーアントは特殊種とあるように、クイーンアントの特殊進化個体だと思われます。通常のクイーンアントは、ミノタウロスと同等程度の力だと言われています。それから察しますと、このクイーンリーパーアントは戦闘に特化して進化した個体だと推測されます』

 なるほどね。――しかし、そうするとこいつは、俺以外が相手するには少々危険だな。


「あの白いのは俺が殺る。みんなは周りにいる蟻を頼む」

 俺がみんなにクイーンリーパーアントと一人で戦う事を伝える。


「はいです。お気を付けて」

「は~い。任せて」

「畏まりました」

「了解しましたわ」

「キューン」

「ヒヒィーン」 

 みんな(召喚獣も含む)の心強い返事に俺は一つ頷くと――

「じゃあ、行こうか」

 そう言って戦いの開始を告げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ウイ達と取り巻きの蟻達との戦いが開始される中、俺はクイーンリーパーアントに向けて突撃していく。

 クイーンリーパーアントの女性の表情は相変わらず無表情のまま、間合いに入った俺に右腕の鎌を振り下ろす。

 ――ガッキーン!!

 剣で受けたその鎌は、とても生物の体の一部とは思えないような音を響かせる。


 その一撃で一瞬動きを止めた俺に、クイーンリーパーアントは左腕の鎌で追撃を掛けてくる。俺はその攻撃を屈んで躱し、クイーンリーパーアントの懐に飛び込む。

 ――がしかし、下半身の蟻部の足元から、突然2本の鎌が現れ、俺を左右から挟み込むように同時に襲い掛かってきた。

「チッ!!」

 俺は躱せないと判断した瞬間、【転移魔法】を発動し、クイーンリーパーアントの後方に転移する。


 死角に転移した俺はそのまま、一気にクイーンリーパーアントの上半身の首を刎ねんと斬りかかった。

 ――バッシッ!!

 一瞬捉えたと思ったその剣撃は、クイーンリーパーアントの首を刎ねる事が出来ず、その50cmほど手前で何かに阻まれ止まってしまった。――【結界魔法】か。

 また厄介なスキルを持っているな。そう言えば【結界魔法】を使う魔物と戦うのは初めてだった気がする。

 もしかしたら、先ほど仕掛けたエヴァ達の先制攻撃で、あまり数を倒せなかったのも、この【結界魔法】の所為ではないだろうか。



 一旦クイーンリーパーアントと距離を取ると、知力値の高さにものをいわせ、思考を加速させながらどうするか考える。

 

 強引に押し切ってもいいのだが、もっと効率的に突破する方法はないものか?

『それでしたら、特殊スキル(ユニークスキル)の【結界侵蝕】の取得をお勧めします』

【結界侵蝕】? どんなスキルなんだ?

『【結界侵蝕】は、自分の結界を相手の結界に接触させ、無効化するスキルです。使用方法は自身の【結界魔法】と連動させて【結界侵蝕】を発動させ、その後、敵の結界に自分の結界を接触させることにより、敵の結界を侵蝕し穴を空けます』

 なるほど、じゃあ、【結界侵蝕】が有れば、俺は結界を展開してクイーンリーパーアントに突撃すればいいだけなのか。

『はい、追加で言うならば、侵蝕出来るのは結界どうしが接触している場所だけに限られますので、結界は強度よりも範囲を重視して展開する方がようでしょう』


 なるほど、じゃあ【ロラ】取得よろしく。

『了解しました。これより【結界侵蝕】を取得します。

 ………………

【結界侵蝕】を取得しました』


 相変わらず特殊スキル(ユニークスキル)だろうが何だろうが簡単に取得できてしまうな。しかも戦闘中とかお構いないしに。

 さてと、折角【結界侵蝕】を取得したんだから、早速使用してみよう。


 ――と、思ったら、動きが僅かな間だが止まった俺に対し、クイーンリーパーアントが蟻酸を吹きかけてきた。

 咄嗟に意識を集中し回避を行う。正直、俺には【神器】があるから蟻酸を浴びても問題無いのだが、気分的に蟻の分泌液を浴びるのは気持ちが悪くて嫌だ。

 そんな事はお構いなしに、次々と蟻酸を吹きかけてくるクイーンリーパーアント。どうせ当たらないのだし、いい加減諦めて欲しいものだ。


 先ほどから間断なく蟻酸攻撃を仕掛けてくるクイーンリーパーアントに、少し黙れとばかりに『サンダー・ランス』を10個ほど展開し、一気に撃ち込んだ。

 ――バリバリバリ!!

 激しい雷がクイーンリーパーアントを結界の上から襲う。

 クイーンリーパーアントは一瞬動きを止めたようだが、やはり結界に阻まれダメージは通ってないようだ。まあ、予想は出来ていたが……

 だが、これで【結界侵蝕】を試すだけの時間は充分稼げただろう。早速始めてみるか。


 まずは取得したばかりの【結界侵蝕】を発動する。そして、次に【結界侵蝕】と連動させるように結界を展開していく。連動がちゃんと出来ているのを確認すると、展開されていた結界を一気にクイーンリーパーアントに向けて拡大させてく。


 そしてぶつかり合う二つの結界。二つの結界がぶつかり触れ合っている部分が、虹色に変化し混ざり合いマーブル模様を描いていく。

 だが、その変化も一瞬。クイーンリーパーアントが展開した結界は、俺の結界に触れてから1秒足らずで、次々に消滅していく。その様はまさに侵蝕。俺の結界に触れたクイーンリーパーアントの結界は成すすべ無く侵されていくしかないようだ。


 この【結界侵蝕】というスキルは、【結界魔法】を得意としている相手にとっては天敵と言っていいスキルだな。特に【結界魔法】に頼り切っている相手なら、侵蝕した時点で勝負ありだろう。



 やがて【結界侵蝕】により完全に結界を無くし、丸裸になったクイーンリーパーアントに向け、俺は訓練を兼ね、【結界魔法】解き近接戦闘を挑む。


 先ずは厄介な蟻の部分の鎌を何とかする。あれが有る為、上半身への攻撃後、着地の隙を狙われダメージを受けかねない危険がある。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だな。先ずは蟻の部分を先にたたく。


 俺は【縮地】を使い一気に加速して間合いに入ると、クイーンリーパーアント・蟻部の鎌二本による連撃を紙一重で躱し、そのまま一気に左側の鎌と左前脚を同時に刎ね飛ばす。

 次に上部から振り降ろされたクイーンリーパーアント・上半身の鎌攻撃を返す刀で弾き上げ、そのまま蟻部の胸部に剣を突き刺す。

 ――ギャヤヤャァ!!

 今まで常に無表情だった上半身の女性の顔が苦痛に歪み、人では発音出来ないような叫び声を上げる。

 クイーンリーパーアント・上半身は俺を振り払うように鎌で薙ぎ払う。俺は胸部に突き刺した剣から手を離すと【神倉】から新たな剣を取り出し、その鎌攻撃を受け止める。

 圧倒的な体格差から打ち込まれた攻撃は身体の芯まで響く。だが、弾き飛ばされる事はない。耐えられない攻撃でもない。だが、一瞬だが動きを止めた俺にクイーンリーパーアント・蟻部は残された右の鎌を薙ぎ払う。

「チッ!!」

 俺は咄嗟にクイーンリーパーアント・上半身の鎌攻撃を抑えている剣を右手のみで支える事にし、次にくるクイーンリーパーアント・蟻部の鎌攻撃を、【光鱗衣】を左手のみに集中して発動させ受け止める。だが、クイーンリーパーアントの攻撃がまだ終わらない。左右から鎌で俺を抑え込み動きを封じ、身動きが取れない俺に向け頭上から残る最後の鎌を振り下ろしてきたのだ。

 普通ならこの攻撃はかわせない。だが、俺には通らない。――【転移魔法】――


 攻撃が当たる瞬間、俺はクイーンリーパーアントの右サイドに転移する。そして俺が突然居なくなった事で、バランスを崩したクイーンリーパーアントに向け一気に詰め寄り、蟻部の残った右の鎌を切断。続いて跳躍し、上半身に斬りかかる。

 ――ガキーン!!

 今日、幾度となく地下室に響いた金属音が、また地下室に響き渡る。


 中々しぶとい。俺の攻撃を寸でのところで防いだクイーンリーパーアントは続いて蟻部の尻から毒針を撃ち込んで来た。それを左手に纏っている【光鱗衣】で弾くとお返しとばかりに『サンダー・ランス』を複数展開し、撃ち込む。

 ――グガァァァアア――

 クイーンリーパーアントは複数の雷の槍に体を貫かれ耳障りな悲鳴を上げる。


 そして複数の『サンダー・ランス』をまともに受けたクイーンリーパーアントは感電状態に陥り、痙攣して動かなくなる。

「ここまでだな」

 痙攣状態になり動けなくなったクイーンリーパーアントに向け、俺は剣を振り下ろした。




『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』


 二度のレベルアップのメッセージを聞きながらウイ達の状況を確認してみる。

 既にウイ達の戦闘も終わっていたようで、部屋の隅で座って俺とクイーンリーパーアントの戦闘を観戦していたみたいだ。戦闘中に何度か確認はしていたが、今見る限り全員怪我も無いようだし、特に苦戦した様子も無い。流石といえば流石だが、まあ、能力から考えても当然だろう。



 俺の戦闘が終わったのを見て、ウイ達がこちらに向かってくる。それに先駆けルルが走って俺の所にくると、身体を駆け上がり定位置とばかりの肩の上で俺の顔にスリスリしながら「キューン」と甘えた声で鳴いてくる。

 ルルの頭を撫でているとウイ達が目の前までやって来た。

「レオン様、お疲れ様です」

「流石、ご主人様です」

「すごいです。すごいです」

「話には聞いていましたが、まさかこれ程とは、感服致しましたわ」

 ウイとティアナは当然といった感じに声を掛けてきたが、初めて俺の本気モードに近い戦闘を見るニーナとエヴァは流石に驚いたようだ。

「ハハ、ありがとう。みんなもご苦労さん。怪我はない?」

 黙って側に立つアルスを撫でながらみんなに聞くと。


「はい、誰も怪我一つ無く、任務を完遂したしました」

 と頼りがいのある答えが返ってきた。まあ、任務って程のものでもない気がするが……

「よし、じゃあ後は、この地下室の正常化をしたら全て完了かな」

 これで、正常化後に討ち漏らしが無いか点検すれば終わりだろう。


 そして俺は【結界魔法】を最大出力で展開し、最後の仕事、地下室の正常化に取り掛かった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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