第62話 報酬交渉
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前回の話しの後半部分を少し修正してあります。前回更新日の午後7時前に読んでいただいた方は後半、ギルドカードを提示した後の部分を読み直して頂けると幸いです。一応報酬交渉をする話しを追加しただけですが……
【ロラ】今回の討伐依頼の相場って幾らくらいなんだ?
これからカーターさんと報酬交渉を行う上で、相場が分からないとまともな交渉も出来ないからな。
『カーター氏の話を聞く限り、今回の討伐対象の魔物は、おそらく危険度Bランク相当だと思われます。もし魔物が単体である場合は、40万~100万コルドが相場です。ただ、今回の場合、多くの付加要素が有り、更に報酬は上乗せされます』
付加要素?
『はい。今回考えられる付加要素は、
1・魔物が単体ではなく、上位個体を複数含む群れである事。
2・魔物の正確な正体が分かっておらず、魔物に対する調査依頼の要素が含まれる事。
3・魔物が発生した場所が、街の外ではなく街の中である為、非常に緊急性が高い事。
4・この件に関して他に対応できるオリハルコンランク以上の冒険者が、現在この街にいない事。
この4つです』
じゃあ、その4つの要素を加えた上で、考えられる今回の討伐依頼報酬は?
『まず1と2の要素で報酬は100万~200万コルドに増額。更に3の要素により相場の3倍が妥当、その為300~600万コルドに更に増額されます。4の要素で3割増しとして400万弱~800万コルド弱といったところでしょうか』
おお、中々だね。あともうひと押し何かあれば、確実、家一軒くらいの分にはなるかもしれないな。
『それでしたら、迷宮化した地下室を正常化する条件を付けてはいかがでしょうか?』
なるほど……今の手持ちのスキルで可能?
『レベル5以上の【結界魔法】であれば可能です』
俺の【結界魔法】はレベル4だが、【魔の神才】があるから実質レベル6。うん、問題無いな。
で、地下室の正常化で得られる報酬は?
『こちらに関しての報酬は150万コルド以上が妥当かと』
そうすると討伐報酬と合わせて550万~950万コルドが相場か……因みに中央区辺りで、広い庭付きの家で7,8人が余裕を持って住める家の相場は幾らくらい?
『ノヴァリスの中央区ですと、600万~800万コルドと言ったところでしょうか』
600万~800万か……。これなら充分、広い庭付きの家の分にはなりそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現在俺達のいる場所は、ギルドの商談室と言われる部屋だ。
それほど広い部屋ではない為、俺達5人とカーターさん及びその部下3人、合わせて9人で入ると非常に狭苦しい。
中に用意されていたソファーには、俺とカーターさんだけが報酬交渉を行う為、向かい合わせに座っている。
「それでは時間も余り有りませんし、早速報酬交渉を始めましょう。ではカーターさん、単刀直入に聞きますが、報酬額の提示をお願いします」
俺は微笑みを湛えながら交渉をスタートさせる。
「うむ、報酬額だが100万コルドでいかがだろうか?」
……はあ? 何言っているんだこの髭面。しかも、どうだ、高額だろと言わんばかりの表情をしていやがる。
「ふざけていますか? 時間が無いので冗談はやめて下さい。それともこの話は無かった事にしますか?」
俺がそう言うと髭面オヤジは笑顔を引きつらせながら。
「うっ、た、確かに冗談だ。申し訳ない……。で、ホントの報酬額だが倍だ。先ほど言った倍の額を出そう。200万コルドだ。これなら問題あるまい」
……大ありだよ。この期に及んでまだ最低相場の半額以下とは……
「この話は無かった事にしてもらいます。他を当たって下さい。それでは、失礼します」
俺はソファーから立ち上がると、ウイ達を連れてその場から立ち去ろうとする。
「なっ! ちょ、ちょっと待ってくれ、いったい何が不満なのだ? 200万コルドだぞ。君のような子供が、見た事も無い大金だろ」
はぁ、また子供か……。完全に俺の事を舐めているな。
「オッサン」
「オ、オッサン?」
「あんた、俺の事舐めているだろ」
「なんの事だ。君の事を舐めるなど、そんな事はしていない」
取引相手に君とか言っている時点で、舐めているとしか言えないんだけどな。
「じゃあ言うが、何で提示額が最低相場の半額以下なんだ?」
「くっ、何の事だ? 私はちゃんと相場通り――」
「本気で言っているのか? もし本気で言っているのならあんた、商人辞めた方がいいよ」
「うぬっ……、し、しかし……」
髭面オヤジはまだ何か弁明しようとする。
「じゃあ、相場について説明しようか?」
黙る髭面商人。――もう髭面オヤジでいいや。
「先ずは――」
そこから俺は、先ほど【ロラ】から聞いた事を順番に説明していく。
「――と言う訳だ。理解してもらえたか?」
「むっ! 確かに……それは……いや、……申し訳ない……、しかし君はいったい……」
俺の説明を聞き、呆然とする髭面オヤジ。
「だから最初にオリハルコンランク冒険者だって言っただろ」
とは言いつつ【ロラ】がいなかったら相場なんて分からなかったけどね。
「分かった……、相場通り800万コルド出そう」
「800万ね……」
そう言って俺はジロリと髭面を睨む。
「うっ、そ、それと君への……、いや、レオンハルト殿への迷惑料を含めて850万コルドでお願い出来ないでしょうか?」
迷惑料が50万コルドって事か……まあ、取り敢えずこんなもんか。後は――
「了解した。後、これは提案なんだが、迷宮化した地下室を正常化する事も出来るがどうする? 勿論報酬は払ってもらうが」
「ホントに出来るのですか?」
「出来るから提案したんだけどな」
「これは失礼いたしました」
そう頭を下げてから髭面オヤジはしばらく考えると。
「分かりました。200万コルド出しましょう。それで、お願い出来ないでしょうか?」
今度はちゃんと相場以上で提案してきたようだ。当然だろうけど。というかこの髭面オヤジ、いつの間にか話し方が敬語になっていたな。今更だけど……
「了解。それでいいよ。それともう一つ提案なんだが、報酬の一部をカーター商会で扱っている住宅で貰えないか?」
髭面オヤジにとっても悪い提案ではないだろう。現金で払うより同額の商品の方が、実質損が小さく感じるだろうし。
「住宅ですか……、ちなみに住宅の条件は?」
「剣や魔法の訓練が出来る程度の大きさの庭がある家がいい。家の大きさは7,8人が余裕を持って住める程度あれば充分だ。場所は中央区で構わない。そんな感じかな」
「……それですと、平均相場が700万コルドほどになりますね……分かりました。では、こちらで幾つか候補を用意致しますので選んで頂ければと思います。後、別途で相場の差額分に当たる350万コルドは現金でお渡しいたします。それでよろしいでしょうか?」
まあ、当初の目的は果たせそうなのでいいか……
「了解。では、余り時間の余裕も無いだろうし、そろそろ向かおうか。カーターさん、現場まで案内よろしく」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
移動中、髭面オヤジから今向かっている家について聞いた。
その家があるのは中央区12番地区――中央区と貴族区の境界線上に位置する地区の中で、一番西端にある地区――と呼ばれる地区で、中央区でも特に物寂しい地区に建っているらしい。
そこそこ広い庭と、まあまあ大きい家が有るのだが、築500年の古い屋敷らしく外観も古くさい感じがして人気の無い家らしい。
というか、この髭面オヤジ、やたらとこれから行く家のダメな所を説明してくるのは何故だろう? 聞く感じでは、丁度俺が欲しい家の大きさと合致するのだか……
そんな話をしながら移動する事15分、意外にギルドから近い位置に目的の家はあったようだ。
やや白みがかった石壁の家が、広い敷地の中央に建っている。確かに古い感じのする家ではあるが、そんな言うほど悪い感じはしない。家の大きさも、大き過ぎず小さ過ぎず10人くらいまでなら問題無く住める大きさだ。それに庭もかなり広い。俺としては理想的な家に見える。
いいな、此処。しかし、地下が迷宮化しているからなのか、建物全体から僅かながら妙な魔力を感じるんだよな。
『それは、おそらく建物の石壁に使用されている石に耐物理、耐魔法、そして不朽の永続魔法処理が施されているからでしょう。ただ、かなりの高位の隠蔽魔法が掛かっているようで、普通の方法では永続魔法処理が掛かっているのが分からないようになっていますね』
永続魔法処理か、それってかなりすごくないか? ただなんで隠蔽魔法なんて掛けてあるんだろ?
『永続魔法処理に関しては各地の上位教会クラスの魔法処理ですね。隠蔽魔法はどんな防御処理が施されているのか分からないようにする為だと思います。ちなみにこちらの家は2000万コルドが相場です』
なるほど凄いな……。報酬の家、此処が良いかも……ただ相場的にかなり高いな……。あっ! でも髭面オヤジも人気無いって言っていたし……ん? というか、もしかして俺達がこの家が良いとか言わないように、俺達に嘘の情報を吹きこんだんじゃ無いだろうな。
それとも他に理由が何かあるのか? 隠蔽魔法で永続魔法処理されているって分からないようになっているみたいだし……
ちなみにこの家、永続魔法処理がされて無かったら相場はどれくらい?
『600万~700万といったところでしょうか』
……これは、お誂え向きだな。
「カーターさん。報酬の家の件だけど」
「は、はい? 何でしょうか?」
何かを感じ取ったのか、髭面オヤジに少し焦りの色が見える。
「この家に買い手が無くて、困っているんだよね?」
「あ、え、えっと、そう……ですが……なにか?」
「報酬の家、此処でいいよ。結構気に入ったし、条件にも合致しているようだし、悪くない話しだと思うけど」
「えっ!? い、イエイエ。このような古びた家より、レオンハルト殿にはもっと良い家を紹介いたしますよ」
値段の事は言って来ないな。普通なら金額が合わないの一言で良いはずなんだが、やっぱり何かあるのか?
『憶測ではありますが、隠蔽魔法により永続魔法処理が施されている事が、役人からは分からない事を利用し、こちらの家を裏取引で売買しているのではないでしょうか』
裏取引? 何それ?
『通常不動産の売買には売上の1.5割を税金で納める必要があります。つまり売上が大きいほど支払わなければならない税金が多くなります。その税金を少なくする為に行う行為が裏取引です。今回の場合は、国へは700万コルドで売買されたように申請し、実際には2000万コルドで売買するつもりなのではないでしょうか。おそらく、この家を仕入れた際も、取引相手と共謀して同じような取引を行った可能性があります』
つまり脱税って事か……、なるほど、この髭面オヤジは、この物件を国には700万コルドで売ったように見せかけて、客には本来の価格、2000万コルドで売りたいわけだ。そうすると、そういった裏取引に乗ってくる客にしか、この家は売れないという事か……
始めから素直に事情を話してくれたら、多少は考えて上げてよかったが、俺をまた騙そうとしたんだ、もう交渉の余地はないな。(一応まだ憶測だけど)
ちなみに脱税がばれると、どうなるの?
『追徴課税として、脱税した金額の5倍の金額が徴収され、更に、脱税した事を広く公表されます』
バレたらもう、まともに商売は出来無さそうだな。どうせこの手の事をやっているのはこの1軒って事は無いだろうから、これは髭面オヤジの弱みになりそうだね。それでは――
「いや、態々探してもらわなくても、此処で充分だよ。売れなくて困っているんだろ?」
「うっ! しかし……」
「他にも何か有るのかな? 例えば人には言えない商売とか……」
何も答えず髭面オヤジの表情が笑顔のまま引きつる。――これは、確定ですな。
「依頼が済んだら、報酬の家をこの家として、後は条件通り報酬さえ貰えれば、俺達は充分満足するんだけどね」
「うぐっ……」
髭面に冷や汗が次々に流れ落ちる。
「カーターさん、少し汗を拭きなよ。……そんなに深く考えないで、この家を相場通り僕に譲ってくれれば万事解決だと思うよ。――ねっ!」
「……わ、分かりました。依頼が解決次第、最初の条件でこちらの住宅をレオンハルト殿にお譲りします」
泣きそうな表情に変わり、絞り出すように答える髭面オヤジ。
「よし、交渉成立だね。これで、魔物討伐に集中できるよ。では、地下室の入口まで案内よろしく」
こうして、俺達はマイホームを手に入れる算段をつけたのであった。
今回の黒レオンハルトでした。
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