第61話 カーター商会
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「不動産屋さんですか?」
俺達は今、ノヴァリスの冒険者ギルドに来ている。目的は、不動産屋を紹介してもらう為だ。
「はい、出来れば、剣や魔法の訓練が出来るような広い庭がある家を紹介してくれそうな、不動産屋が良いのですが」
「なるほど……、それでしたら中央区に店舗を構えるカーター商会が良いですね。カーター商会は主に貴族や上級騎士を中心とした上流階級を対象に商いをしていますので、レオンハルトさんの希望に添えるような家がきっと見つかると思いますよ」
後ろで束ねた亜麻色の髪を揺らしながら、俺の質問にすぐに答える受付嬢さん。そばかすがチャームポイントの素朴な感じの美人さんだ。
しかし上流階級を相手に商売をしている商人か……
「あの……、そんな店に、俺みたいな冒険者が行って、相手にしてもらえるんでしょうか?」
「そうですね……他の方なら確かに門前払いだと思いますが、レオンハルトさんは既にオリハルコンランク冒険者ですから特に問題無いかと」
「えっと、なぜ、オリハルコンなら問題無いのですか?」
「ここノヴァリスではオリハルコンランク冒険者は、敬意を持って上級騎士と同列に扱われます。ですので、カーター商会でも問題無く顧客として家を売ってくれる筈ですよ」
そういうものなのか。
「じゃあ、そのカーター商会の場所を教えて下さい」
「かしこまりました」
という事でギルドの受付嬢さんが紹介してくれたカーター商会に、早速向かったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「君のような子供に売る家はございません。他を当たってください」
店内に入り店員さんに一言「家を探しているんですが」と言ったところ、返ってきた答えがこれだった。その後有無も言わさず、ギルドカードを提示する事も出来ず店から追い出されてしまった。
受付嬢さん――話が違うじゃないですか……、というか全く話しすら聞いてもらえず、ギルドカードの提示も求められず追い出されるとは予想外すぎた。
くそっ! あの髭オヤジ、少しは話しくらい聞いてくれてもいいじゃないか。少しでも話を聞いてくれれば、俺がオリハルコンランク冒険者だって分かってもらえたはずなのに――
『おそらく、マスターの年齢が若く、駆け出しの冒険者にしか見えなかったからでしょう』
【ロラ】に言われるまでも無くその通りなんだろうが……それは商人としてどうなんだ? しかし、これからどうしよう……
他の不動産屋を紹介してもらうか……。しかし、他だとたぶん俺達の望むような家は、見つけるのが難しそうだし……
途方に暮れつつ、カーター商会の外観を眺める。
ここノヴァリスでは珍しい煉瓦造りの趣のある建物だ。建物自体は大きくは無いが、流石は上流階級を相手に商売をしいるだけあって、落ち着いた雰囲気で高級感がにじみ出ている。
見ていると腹が立つ、いっそ燃やしてやろうか……
まあ、冗談はさておき、実際どうしたものか……
「一度、ギルドに戻って、受付の方にもう一度相談してみては?」
はぁ、そうだな、ここで考えていても仕方が無い。取り敢えずもう昼だし昼食を食べたらギルドに戻って、受付嬢さんにでも相談してみよう。
「そうだな。ウイの言う通り、ギルドでもう一度相談いしてみよう」
という事で、俺達は嫌な気分でカーター商会を後にしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そんな事があったんですか?」
昼食後、早速冒険者ギルドに戻り、先ほどカーター商会を紹介してくれた亜麻色の髪の受付嬢さんに事情を話した。
「どうしたらいいでしょうか?」
「そうですね……。では、こちらで紹介状を書かせていただきます。ただ、カーター商会への紹介状となると、ギルドマスターかサブマスターしか発行出来ませんので、明日まで待っていただく事になります」
まあ、急ぐものでもないからいいか――面倒だけど……
「じゃあ、それでお願いします」
「かしこまりました。では明日の正午過ぎに――」
「済まぬが、出来るだけ早くオリハルコン以上の冒険者に魔物の討伐依頼をお願いしたい」
突如、一人の髭面のオッサンが、ギルドにドタドタ大きな音をたて凄い勢いで入って来たかと思うと、俺達の隣の受付嬢さんに慌ただしく討伐依頼の申し込みをし始める。
髭面のオッサン? って、このオッサン、カーター商会で俺を追い返した人じゃないか!
俺達を応対していた受付嬢さんも、このオッサンがカーター商会の関係者だと知っていたみたいで、説明の途中なのにオッサンを見て固まっている。というか、かなり驚いている様子だ。
「あの、カーター様、魔物の討伐依頼という事ですが、オリハルコンランク冒険者が必要な程の魔物なのでしょうか?」
ん? カーター様? もしかしてこの人がカーター商会のオーナーなのか?
「うむ、うちで雇っている、元ミスリルランク冒険者だった者が何も出来ず撤退を余儀なくされたからな」
「もう少し詳しくお願いいたします」
依頼内容が気になったので俺も聞き耳を立てる。
「まず場所だが、中央区12番地区だ」
「「「なっ!!」」」
場所を聞いた瞬間、カーターさんを対応していた受付嬢さんだけでなく、俺を対応していた受付嬢さんや、その反対側にいた受付嬢さんまで同時に驚きの声を上げる。
そして、俺達も同じ思いだ。細かい場所は分からないが、ミスリルランク冒険者クラスの者が倒せないような魔物が街中にいるとなると、それはギルドだけでなく騎士団とも協力して対応すべき問題となっても不思議じゃない。
「私の所で管理している物件で、規模の大きい地下室のある建物がある。何故かその地下室が迷宮化を始めたようなのだ」
地下室が迷宮化? そんな事があるんだろうか?
『迷宮のすぐ近くにある地下室が、迷宮に取り込まれて迷宮化した事例は少ないですがあります』
過去にもあるのか……。それより流石は迷宮都市、こんな街中でも迷宮の影響を受ける事があるようだ。
「次に現れた魔物だが、タイプはアント系。ソルジャーアントが多く出現した様だが、複数の上位個体や、特殊個体が混じっていたらしい。特に特殊個体は1体だけだが強力で、うちの者では対応出来なかったようだ」
アント系って事は蟻の魔物か――面倒な魔物だな……
アント系は、硬い外殻により高い防御力を持っている。またそれだけでなく力も強く、その顎の力で岩をも砕くと言われている。更には蟻酸と言われる強力な酸攻撃まで仕掛けてくる。まさに厄介な魔物なのだ。
「了解しました。確かにオリハルコンランク以上の冒険者が必要な案件のようですね。しかし……現在当ギルド所属のオリハルコンランク以上の冒険者は他の依頼を受けており、すぐに動ける者がおりません」
オリハルコンランク冒険者としては俺がいるが、先ほどギルドに移動報告したばかりだから、他の受付嬢さん達は俺の事を把握していないのだろう。
「そんな……」
カーターさんの表情に焦りの色が濃くなる。
「後は……ミスリルクラス冒険者を出来るだけ集めて対応するしかありませんね……ただ、短時間でどれだけ集まるか……兎に角、すぐにギルドマスターに相談して早急に対応致します」
そう言う受付嬢さんの表情も暗い。
「少しいいですか……」
これは色々な意味でチャンスだな。
俺は思い切って声を掛ける事にする。
「なんだお前……、って先ほどうちに来た子供ではないか。私は新人冒険者を相手にしている時間は無い。ましてや、今は緊急事態なのだ。他を当たれ」
この人、俺がまた家の事で話し掛けてきているって思っているみたいだ。
「あっ! 違います。今の討伐依頼、よかったら俺に受けさせてもらえませんか?」
「……こ、小僧が何を……、私を馬鹿にしているのか――貴様のような新人冒険者に何が出来る。私にくだらん時間を使わせるな!!」
ダメだ。返って怒らせてしまった……
「カーター様、お待ちください」
そこに俺の対応をしていた受付嬢さんが割って入って来た。
「何がだ!!」
カーターさんは受付嬢さんに怒鳴るような声で答える。
「こちらの冒険者は、確かに若く新人の冒険者に見えますがオリハルコンランクの冒険者です」
「はぁ? この子供がオリハルコンランク冒険者だと? なんの冗談だ? 冒険者ギルドまで私を馬鹿にするのか?」
ギルドが冗談なんて言う訳ないのに、怒り過ぎて、冷静な判断が出来ないようだ。
「事実です。レオンハルトさん、ギルドカードをカーター様にご提示下さい」
受付嬢さんに言われるままにギルドカードをカーターさんに見せる。
「なっ!! まさか……」
俺のギルドカードを見て驚きの表情のまま硬直するカーターさん。
「これで信じていただけましたか? 彼は、正真正銘のオリハルコンランク冒険者です」
余ほど信じられなかったのか、カーターさんの視線が俺とギルドカードの間を行ったり来たりしている。
これで何とか俺がオリハルコンランク冒険者だと分かってもらえただろう。後は……
「レオンハルトです。これからよろしくお願いします。では早速報酬の交渉を行いましょうか」
俺は満面の笑顔で声を掛けると、カーターさんは何も言わず唯々カクカクと頷くだけだった。
混乱が収まらないカーターさんにそのままの勢いで交渉を行う事にする。
さあ、俺をけんもほろろに扱ってくれたんだ。俺を子供扱いした負い目もあるだろうし、その点に付け込んで出来るだけ絞り取らせていただこうかな。
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