第60話 迷宮都市ノヴァリス
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翌朝俺達は、迷宮都市ノヴァリスに向けリーベックを出発した。
今回は乗合馬車では無く、昨日金貨50枚で買った馬車を、アルスに引かせての旅立ちだ。
御者台には現在ウイとニーナが座っている。とはいってもこの馬車は御者台と客室が一体になっており、御者の交代も乗ったまま出来るような造りになっている。俺達のような冒険者にはピッタリな馬車だ。
今回馬車馬デビューであるアルスも、馬車馬として優秀でかなりのスピードを出せるようだ。更に【風壁】を使うと御者台にすら一切風や砂埃が入ってこないと至れり尽くせりだ。
ただ流石に【風壁】を使うとMPの消耗が激しいのでいざという時しか使えないが……まあ、今回は急ぐ旅でもないので使わなくても問題ない。
という事で、今回、自家用馬車で初めての旅を、のんびりと楽しんでいるのだ。
外は快晴。そよ風が吹く中、快調に飛ばす馬車。
馬車の中では、ティアナがルルを太ももの上に置き嬉しそうに愛でている。そんなティアナを見ながら俺とエヴァは他愛のない話をして旅は順調に進んでいた。
途中2時間おきに御者を交代したが、アルスは大人しく誰が御者をやっても素直に言う事を聞いてくれていた。素直で優しい性格のようで本当によかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初日の旅は至って順調に進み、最初の目的地である海沿いの村で1泊。
翌日旅を再開した俺達だったが、昨日と違い移動開始そうそう魔物と遭遇する事になった。
【マップ】上に映る赤い5つのマーク。マークを調べてみるとトロールが2体とオーガアーチャーが3体と表示された。
俺達の向かう行路上にいるみたいだが、この程度の魔物なら特に問題ないだろう。寧ろルルとアルスのレベルアップに貢献してくれそうで、美味しい相手だといえる。
俺達は軽く情報を共有すると、そのまま道を直進する。
【マップ】上に反応が現れてから15分、ようやくトロール達の姿が目視出来る所まできた。
念の為、アルスには【風壁】を展開してもらい。オーガアーチャーの攻撃に備えてもらう。
更に近づくとよやくトロール達がこちらに気が付いたようで、一斉にこちらに向けて走り始めた。
「そろそろ射程距離に入りますが攻撃いたしますか?」
最も射程距離が長いエヴァが俺に聞いてくる。
「いや、ルル達もある程度戦いを経験させてやりたいから、もう少し近づいてからでいいよ」
「分かりましたわ」
それから更に30秒、オーガアーチャー達の射程範囲に入ったらしく、オーガアーチャー達はこちらに弓を向け、矢を放ってきた。
オーガの筋力から放たれた矢は、凄まじい勢いで俺達に襲い掛かる。
俺達はすぐに迎撃体勢を取るが、オーガアーチャーから放なたれた強烈な勢いの矢は、俺達の下に届く前に【風壁】によって次々と弾かれていく。
……あの矢をいとも簡単に弾くとは――【風壁】、思ったよりも高い防御力があるようだ。これでまだレベル1とは……
トロールとオーガアーチャーは弓矢での攻撃を防がれると、遠距離攻撃を捨てこちらに向け突撃してくる。
「そろそろこちらも攻撃に移るぞ」
みんなに指示を出すと、全員各々の獲物を構え始める。
すると、今までティアナの太ももの上にいたルルが突然馬車の屋根にスルスルっと登りトロールに向け「キュアー」と吠える。
すると黒い雷が突然ルルの周辺にまとわりつき始める。そして再びルルが「キュアー!」と吠えた次の瞬間……
――ドッゴーン!!
落雷の時のような衝撃音が周りに響き、黒い雷撃が5体の人型の魔物を襲った。
その黒い雷撃に打たれオーガアーチャー3体はその場で倒れ動かなくなる。トロール2体もその場で膝をつきピクピクと痙攣している。
「……すごい。……これが黒雷か……」
一撃でオーガアーチャーを瞬殺。トロールにも大ダメージ。とてもレベル15の魔物の攻撃とは思えない強力さだ。
更に止めととばかりにルルが「キュアー」と吠えると、ルルの頭上に2本の黒雷の槍が現れ2体のトロールに撃ちだされる。
感電状態で動く事が出来ないトロールは躱す事が出来ず、黒雷の槍に頭部を撃ち抜かれ絶命した。
……いや、マジで黒雷強力過ぎるっしょ。
更にこの戦いでルルもアルスも一気にレベル24まで上がったみたいだ。
しかしルルはこの強さでまだ幼体……これで成体なにったらどれほど強力な召喚獣になるか全く想像出来ないな……
ちなみにこの戦いでニーナもレベルが上がり現在レベル28だ。
パーティーの総合力が確実に上がってきている。
これならすぐに迷宮に挑んでもみんなの活躍が期待できそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
迷宮都市ノヴァリス・シティ。冒険者ならば誰も憧れ目指す街。人口30万人を超えるこの街は、世界で最も危険な街と言われている。それは治安が悪い訳ではなく、常に魔物に襲われる危険性をはらんだ街だからだ。
しかし、この危険な街には多くの人が集まる。その理由はこの街の周辺に4つの迷宮が存在しているからだ。
その4つの迷宮とは、
ゴーレムを中心とした鉱石タイプの魔物が多く徘徊する3級ランク迷宮の『坑道迷宮』。
ルルのような魔法属性のはっきりした獣タイプの魔物が中心に現れる2級ランク迷宮の『八獣迷宮』。
凶暴凶悪、強力無比、物理戦闘に特化した魔物が侵入者を待ち受ける1級ランク迷宮の『修羅迷宮』。
そして、かつてアダマンタイト冒険者が率いたパーティーが挑み、僅か10層で退却を余儀なくされた迷宮にして、最高神の1柱、龍神が創りし迷宮、特級ランク迷宮の『龍神迷宮』。
迷宮都市周辺に存在する『坑道迷宮』『八獣迷宮』『修羅迷宮』『龍神迷宮』。この4つの迷宮からの一攫千金を狙い、実力のある多くの冒険者が集まり、冒険者が持ち帰る迷宮産の素材を求めて多くの商人が集まる。そして冒険者や商人を支えるように多くの人々が仕事を求めてこの街にやって来る。こうしてこの街には人が集い、人口30万人を超える大都市に成長してきた。
リーベックを出発してから3日目の夕方、空が夕焼けに染まり始めた頃、俺達はその迷宮都市ノヴァリスに到着した。
外から見る迷宮都市ノヴァリスは巨大な街壁に守られ中の様子を伺うことは出来ない。
街壁の高さは王都ウインザーの街壁の高さすら超えているように見える。そしてその街壁の上には対竜用なのか、巨大なバリスタが等間隔で設置されている。
街壁を眺めて待つ事5分、人口30万人を超える大都市とは思えない時間で街の中に入る事が出来た。実はこれには理由がある。それは、単純に街の外が危険すぎる為、時間を掛けず街に入れるよう、出来うる限り手続きを簡略化したからだ。
まあ、それはさておき、俺達は、当初の目的であった迷宮都市ノヴァリスに到着したのだ。
俺達は城門を通り街の中に入ると、馬車から降りすぐに馬車を【神倉】に仕舞う。それからリーベック・シティの時と同様にワルターさんおすすめの宿屋に向かった。
ノヴァリスの街並みは、王都の街並みとは違い、シンプルな石造りの家が規則正しく立ち並び、雅さよりも実を取ったような無骨な街並みだった。
他の街よりも上質な装備を身に付けた冒険者を多く見かける。街を守る衛兵のレベルも数も他の街を圧倒している。まさに辺境、まさに迷宮都市といったところか。
だからといって荒んだ雰囲気など一切なく、大通りには多くの露店や屋台が所狭しと並び、行き交う人々と共にこの街の活気を演出している。
そんな街並みを観察しながら、明日の予定を考える。
明日は取り敢えず不動産屋を訪ねて家探しかな。それから時間が有れば迷宮にも行ってみたい。最初はやっぱり『坑道迷宮』か。あそこは色々な鉱石が手に入るらしから。内のメンバーの装備の強化にも繋がる。まあ、たとえ明日迷宮に行けなかったとしてもしばらくは『坑道迷宮』攻略が中心になりそうだ。
「レオン様、どうやらここのようです」
そんな感じで考え事をしていると目的の宿屋に着いたみたいだ。
『最果ての夢幻亭』。落ち着いた雰囲気のある老舗の宿屋だ。ちなみに結構高級な宿屋で、高ランクの冒険者しか利用出来ないらしい為、安全安心な宿屋だとワルターさんは言っていた。
そして、ここが新居が決まるまでの俺達の拠点となるわけだ。
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