第58話 召喚契約
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「スクロールを使った契約方法は、至って簡単なんじゃ」
カミラさんは、懐から青い巻物を1つ取り出す。
「これがスクロールなのじゃが、これを開いて魔力を込められるだけ込める。たったそれだけじゃな。そして成功すれば新たな召喚獣が生まれ出て、晴れてお前たちも召喚魔術師の仲間入りとなるのじゃ」
ホントに簡単だな。
「更に言うならば、同じ召喚獣が生まれたとしても、注ぎ込む魔力の量や契約者の魔力の資質に寄って全く実力の違う召喚獣が生まれよるから、出来るだけ多く魔力を込めるのがよいぞ」
そういう事なら目一杯魔力を込めてみるか。
「――で、使うスクロールのステージはどうするのじゃ?」
さてと、どうするか……俺はまず間違いなく契約出来るから、ステージ3のスクロールで問題ないだろう――ウイ達をどうするかだが……
まあ、あんまり考えても仕方がないか……2人ともステージ1で試すのが一番いいかな――よし――
「じゃあ、俺はステージ3で、この娘たち2人はステージ1のスクロールでお願いします」
「……おなご2人はいいとして、おぬし、いきなりステージ3のスクロールを選ぶとは……金貨10枚じゃぞ? 何回失敗するか……いや、成功するかも分からんのじゃぞ。本当によいのか?」
「ええ、構いません。ダメだったらダメだった時です」
まあ、何回掛かるかは分からないが、どうせ成功はするだろうから、多少の投資は問題ない。
「分かった。貴様が構わんのならいいじゃろう――それじゃあ、これから契約を行うからついてこい」
どうやらここで契約を行うわけでないようだ。
カミラさんは俺達の事を気にかける様子もなく、一人部屋から出ていく。
俺達は慌てて、そのカミラさんの後を追った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カミラさんが向かったのは地下室だった。
15m四方くらいの広さの部屋の中央には直径10mほどの魔法陣が描かれている。
部屋の中を観察してみるが、中央の魔法陣以外何もない部屋のようだ。
「さてと、まずはそこの獣人の娘からやるかの」
カミラさんは最初にウイを指名する。
「あの……私からでよろしいのでしょうか?」
ウイが不安そうに俺に確認してくる。
「先生からのご指名だし問題ないよ」
「なーに、成功率の高い順番でやってもらうだけじゃ」
俺達の会話を聞いていたのか、カミラさんが声を掛けてくる。しかし――
「何故ウイが――彼女の成功率が高いのですか?」
「ん? それはただ単に人族やエルフより獣人族の方が、召喚獣との相性がいいだけじゃよ。そんな事より早く準備せんかい」
もう少し根拠を知りたかったが仕方ないか……
「すみません。じゃあ、ウイ」
「はい、分かりました」
「じゃあ、獣人の娘。魔法陣の中心に立つのじゃ」
ウイはカミラさんに指示されるままに魔法陣の中心に立つ。
「ほれ、これがスクロールじゃ。いきなり成功するとも思えんが取り敢えず1つ試してみよ。方法はさっきも言ったが、スクロールに魔力を込めるだけじゃ――おっと、ちゃんとスクロールは開いて行うのじゃぞ」
それだけ伝えるとカミラさんは魔法陣の外に出る。
カミラさんが魔法陣から出たのを確認したウイは――
「それでは、始めます」
そう宣言して早速スクロールを開くき魔力を込め始めた。
スクロールは青白く光り始める。しばらく光は明滅を繰り返すと、やがて一際大きく輝くき――次の瞬間、光は弾けて霧散してしまった。
……失敗……か?
「ふむ……失敗じゃな……しかし、これは……」
カミラさんは、何か気になる事でもあったのか一人考えだす。
ウイはどうしていいか分からず、カミラさんを困った顔で見ている。
どうしよう……声かけていいのかな?
カミラさんは、顎に手を当て何やらブツブツつぶやいている。
もう少し待ったほうが良さそうだな。その事をウイに念話で伝えようとすると――
「おぬし、ウイといったな?」
カミラさんはウイに話しかける。
「はい、正しくはウェンディと申しますが……」
「いや、名前はどうでもいいのじゃが、おぬし、本当に獣人族か?」
「はい……そうですが……」
カミラさんは、何がいいたいのだろ?
「では、もう一つ聞くが、おぬし【精霊魔法】スキルを持っておるのではないか?」
「はい……持っております」
【精霊魔法】? どういう事だ?
「なるほどの……【精霊魔法】を使える獣人とは珍しいの……じゃがおぬし、【精霊魔法】スキルを持っているとなると召喚契約は難しいかもしれんぞ」
「えっ?」
ウイが驚きの声を小さく上げる。ウイも言葉には出さないが【召喚魔法】の取得をすごく楽しみにしてたみたいだし、取得出来ないのはショックなんだろうな。
「すみません。質問なんですが、何故【精霊魔法】スキルがあると召喚契約が出来ないんでしょうか?」
「出来ないわけではないぞ。難しくなるだけじゃ――でだ、理由じゃが、精霊と召喚獣は非常に近い存在でもありまた、相反する存在でもあるのじゃ。だからかは分からんが精霊に愛されたものほど、召喚獣からは敬遠される。ただそれだけじゃ」
それはつまり【精霊魔法】のレベルが高くなればなるほど【召喚魔法】を取得するのが難しくなるって事か……
『その通りです』
【ロラ】より答えが返ってくる――どうやら正解らしい。
……という事は、エヴァも……
「レオン様……」
ウイが泣きそうな顔でこちらを見てくる。
「まあ、絶対無理ってわけでもないようだし、もっと試してみよう」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「構わないよ」
「あ、ありがとうございます」
泣きそうだったウイの顔がバッと花が咲いたように笑顔になる。うん、やっぱりウイの笑顔は可愛い。出来ればいつも笑顔でいてもらいたいものだ。
そこから再び召喚契約を始める――が、2度、3度、4度、5度と召喚契約を繰り返すが全て失敗。
更に失敗は続き、ついに失敗の回数は2桁になった。
ウイの耳と尻尾はしなだれ、見るからに落ち込んでいる。
「レオン様……申し訳ありません」
ウイは俺と目が合うと目一杯頭を下げる。
「いいよ。気にしなくていいから後10回はやってもいいよ」
後10回くらい、特に問題ない。
「いえ、そこまで甘えるわけには参りません。後一回だけお言葉に甘えて挑戦させていただきます」
そしてカミラさんからスクロールを受け取ると、これまでに無いほどスクロールに魔力注ぎ込み始める。おそらく残った魔力を全て注ぎ込むつもりなんだろう。
スクロールは今まで以上に激しく輝き始める。
そしてしばらく輝くと、今までと同じように明滅を繰り返し始めた。
今までと同じ反応だな――やっぱりまた失敗か?
すると、今までここで霧散してしまった光は、その場で留まり大きな光の玉へと変化していく。
これは……いよいよ来たか――
やがて光は更に巨大に膨れあったと思うと一気に弾ける。
あまりに激しい光に目を閉じてしまう。
そして光が収まったところで目を開けると、ウイの正面には大きな馬が1頭、頭をたれながら立っていた。
濃く青味を帯びた黒い毛、並みの馬の1.5倍は有りそうな体躯、隆起し発達した筋肉、それらが醸し出す独特なオーラが、その馬がただの馬ではないことを証明している。
「キャリッジホースだね――それもかなり立派じゃの」
キャリッジホース――馬車などの運搬用に使われる馬型の魔物だ。ワークホースと言われる一般的な馬車馬よりも、魔物であるため力と持久力に優れている。ただし戦闘には不向きな魔物だ。
「これが私の……召喚獣……」
「そうじゃ。早速名前をつけてやれ。さすれば契約は全て完了じゃ」
「名前……この子の名前は……アルス……君の名前はアルスよ」
ウイは嬉しそうに馬の首を撫でながら名前を呼ぶ。
アルスと呼ばれた馬は大きく一つ「ヒヒィーン」と嘶くと、その場から光の粒子となって消えていった。
「え!? 消えちゃった……」
ウイは突然消えたアルスを見て不安そうな表情へと変わる。
「なーに、大丈夫じゃ。今ので正式に召喚契約が完了したのじゃ」
ウイはカミラさんの言葉に再び満面の笑顔になる。
うん、いい笑顔だね。
「レオン様、ありがとうございます。無事、アルスと契約する事が出来ました」
ウイは俺の前に来ると頭を下げてくる。
「俺は何もしてないよ。おめでとう。ウイ」
「おい、いつまで話しとる。次、エルフの娘じゃ。早く準備せい」
やっぱりカミラさんはせっかちなようだ。
続いてエヴァの召喚契約を行ったのだが、エヴァもウイと同じく高レベルの【精霊魔法】の使い手だ。その為何回召喚契約を行っても一向に成功する気配がない。5回目の失敗をした後、エヴァから――
「レオンハルト様。どうやらわたくしには無理のようですわ」
と、本人から言い出した。
「どういう事だ?」
「どうやらわたしくと契約している精霊が召喚獣を拒絶しているようなのです。その為わたくしの呼びかけに、召喚獣が一切応えてくれないみたいなのです」
そんな事分かるのか?
「おそらく、その娘には分かるんじゃろう。エルフの中でも精霊と親和性が高いの者の中には、そういった感性が鋭い者がおる。おそらくその娘もそういった類の者なのじゃろう。その娘がそう言うのならば召喚契約はまず無理じゃろうな」
そう言うものなのか……
「エヴァはそれでいいのか?」
「はい、わたくしは大丈夫ですわ」
本人がそう言うなら――
「分かった。じゃあ、次は俺の番だな」
エヴァと入れ替わり俺が魔法陣の中心に立つ。
「レオン様、頑張って!」
「ご主人様、ボクの分もお願いだよ」
「主様の召喚契約が成功なされますように」
「レオンハルト様ならば問題ないかと」
みんなの声援を受け、いよいよ俺が召喚契約を行う。
「おぬしはステージ3でよかったのじゃな。――これがステージ3のスクロールじゃ。契約の方法は同じじゃぞ」
そう言って渡されたスクロールは紫色をした巻物だった。
「どうせ失敗するじゃろうし、とっとと始めよ」
一言多い人だな……
「分かりました。早速始めます」
魔力を込めただけ能力が上がるのなら、最大量注ぎ込んでやる。失敗したらマナポーションで回復してもう一度挑戦すれば問題ない。
――では、参る。
スクロールを開くと中には、魔法陣が描かれてあった。その魔法陣に向け魔力をドンドンと注ぎ込んでいく。
魔力を注ぎ込むにつれ、スクロールの輝きはドンドン増していく。やがてウイの時よりも激しく溢れんばかりの光を発し始め、誰もが目を覆う。それでも俺は魔力を注ぎ込んでいく。
「こ、小僧……なんちゅう魔力量なんじゃ……。これほどまでもの魔力量を持った者など今まで見たことないぞ……」
カミラさんの驚きの声が聞こえてきたが、気にせず更に魔力を注ぎ込む。
現在注ぎ込んだ魔力量は5割程度。まだまだ余裕がある。
更に注入スピードを上げていく。すでに地下室内はスクロールが放つ光りで真っ白になり、何も見ない状態だ。
「ま、まだ……まだ魔力が尽きんだと……、あ。あやつは、い、いったいどれほど魔力を内包しておるというのじゃ」
カミラさんの声が驚きから驚愕に変わってきた頃――
よし、そろそろ俺の魔力も尽きそうだな。後はどうなるかだが……
俺が魔力の注入を止めると、スクロールは強烈な光を発しつつ明滅し始める。
激しい明滅はかつてないほど長く続いている。
カミラさんの顔は驚愕の表情のまま固まったままだ。
少しやりすぎたかな? などと思いつつ細目にして激しく明滅するスクロールを見る。
5分を超える時間、明滅を繰り返したスクロールもやがて霧散する事なく、直径50cmほどの光の球体に変わる。
部屋を包んでいた眩い光も弱くなり、状況をなんとか見て確認する事が出来るようになった。
おっ!? 光の玉に変わったって事は、一回目で成功したって事か。
――しかし、ウイの時と比べると光の玉の大きさが小さいな……
みんなが固唾を呑んで見守る中、光の玉はやがて強烈な光を発し弾ける。
――やがて光は少しずつ収まりやがて消えてなくなった。
……毛玉? モフモフ?
光が消え去った後には、真っ黒なモフモフした毛玉が残されていた。
しばらく、その黒いモフモフを見つめていると、突如黒いモフモフはむくりと起き上がると「キューン」と鳴いた。
え!? ……キツネ?
そう、起き上がった黒いモフモフは、ふわふわした毛並みをした黒いキツネだったのだ。
「ほほぉ、ブラックサンダーフォックスか……また中々珍しいのが出てきたの」
ブラックサンダーフォックス――スピードに特化した能力を持ち、雷を自在に操る戦闘や隠密行動に長けた魔物だ。
「ブラックサンダーフォックスか……」
ブラックサンダーフォックスを見ると、金色のつぶらな瞳でこちらを見返してくる。
可愛い……、見た目はまだ子狐だし、戦力としてよりも癒し担当かな。
「――そうだ。名前だったな……そうだな……お前の名前は……ルル。ルルだ。いいな、お前の名前はこれからルルだ。よろしくな、ルル」
頭を撫でながら、ルルと名前をつけてやると――
「キューン」
と嬉しそうに一つ鳴いて、そのまま光の粒子となって、子狐は消えていった。
これでようやく俺も【召喚魔法】が使えるようになったわけだ。
戦力というより癒し担当のようだけど……
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