第55話 新人の登録と実力確認
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翌朝俺達は、ニーナとエヴァの冒険者登録を行う為、ギルドに向かった。
ちなみにエヴァとはエヴァンジェリーナの愛称で、本人たっての希望でそう呼ぶことになった。
それはさておき、只今俺達は冒険者ギルドの目の前に来ている。相変わらず王都の冒険者ギルドは朝から中々混雑ぶりだ。
混雑する中、俺達は割って入るように受付に向かい進んでいく。すると――
「痛てー! おい! そこのガキ! ちょっと待てや」
いきなりガラの悪そうな冒険者に絡まれた。
良く見ると他にも2人の男がニヤニヤしながら後から見ている。どうやら仲間のようだ。しかし、王都に来てから一ヵ月くらい経つが、見た事無い連中だな――とはいっても王都にいる冒険者を全員知っているわけではないが……。ただ、俺も最近では結構有名になって来ているから、王都を拠点にしている冒険者が俺に絡んでくるとも思えない。
――とすると、やっぱり最近王都に来た冒険者か?
「俺になんか用ですか?」
面倒な奴らだな。とは思いつつ一応は対応する。
念の為、鑑定すると全員レベル20前後で素質ランクはDだ。はっきり言ってまともにやりあったら、弱い者いじめになってしまう。
「おい。テメ―がぶつかって来たから怪我しちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだ? あん?」
こいつ、何言ってるんだ?
「……はぁ、――それくらいで怪我するんなら、冒険者やめた方がいいよ」
明らからに、いちゃもんを付けて絡んで来ているな。誰か止めてくれないかな。
「あん? ガキが舐めてんのか? いい女4人も連れてるからって、いい気になってんじゃねぇぞ! その女どもと、有り金全部置いていけば半殺しで許してやる。さあ、とっとと出しやがれ」
男のいちゃもんに対しウイやティアナ、それとエヴァはとこ吹く風といった感じだが、ニーナは少し怖いようで俺の後ろに隠れている。
なるほど、ウイ達の事が元々の目的な訳ね。
「おい、あいつら新入りか? レオンハルトさんに絡んでるぞ」
「あいつら馬鹿だな、爆炎の剣士に絡むなんて殺されるぞ」
などと、周りからささやき声が聞こえてくる。絡んできた男達は気付いて無いようだが……
ちなみに爆炎の剣士とは、氾濫以降、冒険者の間で勝手につけられた俺の二つ名だ。
それよりも分かっているなら誰か止めてくれよ。たく、周りの連中、楽しんでやがるな。
「お断りします」
男の脅しをきっぱりと断る。まあ、当然だけどね。
「テメー! 死にてぇのか!!」
更にすごんでくるが全然怖くない。
「どちらもお断りします。それより邪魔なのでどいて下さい」
「ふ、ふざけるな!!」
うるさっ! 急にデカい声を出すなよ、耳が痛いじゃないか。
『レオン様。私が排除致します』
ウイが念話を通して俺に話し掛けてくる。
『いや、いいよ、俺がやるから』
俺はウイにそう答える。流石に女性にこんな事の対応させる訳にはいかない。と言う訳で早速、邪魔な男達の排除に掛かる。
「ビビってねーでなんか言ったらどうなんだ? あん?」
俺がウイとの念話で会話をしていて言葉を発しなかったのを、ビビって黙ったと勘違いしたようで、更に脅そうと俺の胸倉を掴んで来た。
俺は胸倉を掴んだ腕を掴むと、一気に力を入れる――
「ぎゃあああぁぁ!!」
ギルド中に響き渡る男の絶叫。
「お、おい、どうした!」
男の仲間が動揺しながら近づいてくる。
俺に腕を握り潰された男は、あまりの激痛に床をのたうち回っている。それを見た仲間の男は――
「テメー! よくもやりやがったな!」
と、いきなり殴りかかってくる。俺はその拳を左手で受け止めると――ゴギッ!
「うがぁああ! お、俺の手が、お、俺の手がー!!」
骨が砕ける嫌な音と共に男の叫び声が響き渡る。
「くそっ! くそっ! よくも、よくも、ぶち殺してやる!!」
最後に残った男が腰の剣に手を掛ける。
「おっさん! それ抜いたら命を懸けるって事でいいんだよな」
そう言って俺は残った男を睨みつける。
「……くっ! 少し強いからって、いい気になりやがって。覚えてろ! 俺達はミスリル冒険者のイエガーさんの舎弟だぞ。俺達にこんな事して、イエガーさんが黙ってねぇぞ」
力で敵わないからって……虎の威を借りる何とやらってやつだな。
「で?」
「な!?」
ミスリルランクの冒険者の名前を出したのに、俺がなんの反応も示さなかったことに驚いたようだ。
「そのイエガーさんなんだが――今、お前らの後ろでお怒りのようだぞ」
「へ?」
間抜けな声を出し男が後ろを振り向くと――
「おまえら、誰に喧嘩売ってんだ!! この男は今噂のオリハルコン冒険者、爆炎の剣士だぞ。お前ら久しぶりに見たと思ったらいきなり、バカな事しやがって!」
そう言うとイエガーさんは3人の頭を殴りつける。ちなみにイエガーさんとは氾濫の時から面識がある。中々に優秀な冒険者だ。
俺がオリハルコン冒険者だと知り、顔色が真っ青に変化する3人。怪我をしている2人ですら痛みを忘れて固まっている。
「レオン、すまんな。こいつらにはちゃんと教育しておくから許してやってくれないか?」
イエガーさんが悪い訳じゃないのに頭を下げてくる。
「全然気にしてないからいいですよ。イエガーさんも大変ですね――こんなのが舎弟で」
「面目ない。同郷でちょっと面倒を見てやったら勘違いして、馬鹿ばっかやるようになっちまった。これから、もう一度一から叩き直してやるよ」
そう言うとイエガーさんは3人を連れてギルドから出て行った。
なんかここまで露骨に絡まれたのは登録の時以来だな。最近は色々な意味で有名なってきて、殆ど絡まれる事が無くなっていたから何だか新鮮だ。
ふと前を見ると、先ほどまであれほど混んでいたギルド内で、俺達の前にだけ受付までの道が綺麗に出来ていた。
……まあ、いいんだけどね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少々もめ事も有ったが、ニーナとエヴァの冒険者登録を無事終えた俺達は『人魔迷宮』に来ていた。
目的は新人2人の戦闘能力の確認とレベル上げだ。正直エヴァは既にレベル31という事もあって人魔迷宮の低層だとレベル上げは厳しいだろう。したがって実質レベル上げはニーナだけになるだろうが――
「コボルトウォーリアが2体だ。2人で倒せるか?」
迷宮に入りしばらくすると、本日始めて魔物に遭遇。レベル16で素質ランクDの魔物だ。2人の実力を見るのに丁度いい相手だろう。
「大丈夫だと思います」
「わたくしの弓の試し撃ちに丁度いいかと」
2人とも問題なさそうだ。
ただエヴァの発言の節々に、戦闘狂の陰が見え隠れする気がする。今も弓を手にニヤリと笑っているし……
――コボルト達も俺達に気付いたようで、こちらに向かって牙を剥き走ってくる。
新人2人を確認すると既に戦闘準備が完了していた。
「『ホーリーランス』!」
「ハッ!!」
2人の声が重なり発せられると。光の槍と、赤い光を纏った矢がそれぞれ別々のコボルト戦士に襲い掛かる。
――光の槍はコボルト戦士の体を鎧ごと貫き、赤い光の矢はコボルト戦士の頭を貫き更に燃え上がる。
……一撃か。エヴァの方はレベル的に結果は予想出来たが、ニーナまで一撃で倒すとはさすがに思わなかった。【創造神の加護(下位)】がそれだけ強力なんだろう。
「えっ!? なに今の? わたしの魔法じゃないみたい」
「わたくしもいつもより威力が段違いに上がっていますわ」
2人とも今までの自分では出せないような攻撃が出来、かなり驚いているようだ。
「それは、2人が俺の仲間になった事による恩恵だよ。今は迷宮内だから今度落ち着いたら説明するよ」
俺はそれだけ言うと新たな魔物を求めて迷宮の奥へと進んでいく。それに続いてウイとティアナも移動を開始。ニーナとエヴァの2人は不思議そうな顔をしながらもその後を追ってきた。
2人の実力は予想通りというか、流石魔法特化だけあってかなりの殲滅力を持っている。特にエヴァは、魔法と弓を見事に使い分け、状況に応じて最善策と思える行動を常にとっているように見える。――まあ、それが最善策かは俺じゃあ判断が難しいんだけど。
迷宮に入って5時間。戦闘は全てニーナとエヴァの2人だけに任せているが、全く苦戦する事無く5層までたどり着いた。【マップ】の力が有ったとはいえ、それでも2人だけで5層までをこのわずかな時間でたどり着いたのはすごい。
「2人とも疲れてないか?」
見た感じ問題なさそうだが、迷宮初体験の2人だ。見た目では分からない疲労があるかも知れない。
「大丈夫です。それどころか何故かどんどん力が湧き上ってくるみたいです」
「わたくしも問題ありませんわ。いくら魔法を使っても疲労感がありませんし、弓も今までよりも簡単に引けて疲労を感じる事もありませんわ」
ニーナに関してはレベルがどんどん上がっているからだろう。迷宮に入る前はレベル12だったのに今はレベル18になっている。レベルが6も上がればそれだけステータスも上がる。当然本人からすると力が湧き上ってくるように感じるだろう。
エヴァは【創造神の加護(下位)】によるステータス上昇もそうだが、それ以外に共有スキルとして【魔の神才】【補の神才】【魔道術】を設定した事で、今まで以上に魔法の能力が上がっている事が要因になっているのだろう。
ともかく、今のところ2人とも自分の力に振り回される事無く、使いこなせているようだ。
これならもう、迷宮都市ノヴァリスに向けて出発していいかもしれないな。取り敢えず明日、人魔迷宮を10層まで行ってみて問題が無ければ、早速ノヴァリスに向けて出発しよう。
そんな事を考えながら、本日の迷宮探査は終了したのであった。
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