第49話 アダマンタイト冒険者
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抜かれた剣は青白く輝いている。柄頭にはサファイヤのような輝きを放つ蒼いバラがあしらわれている。
あの剣が青薔薇の魔剣サラリスか。ワルターさんの代名詞でもあり、ワルターさんのパーティー名『ブルーローズナイツ』の由来にもなっている伝説級の剣だ。
今の俺の剣ではまともに打ち合えば簡単にへし折られかねない。それにあのサイクロプスの太い首を一刀で刎ねてしまったほどの剣だ。まとものくらったならどんな鎧を身につけていても一刀で体を切断されるだろう。
試合なのにアダマンタイト冒険者と戦うとなると命懸けだな。……ん?
ソフィアさんがワルターさんのところに向かって行ってるけど、どうしたんだ? あっ! いきなりワルターさんの頭を叩いた。
「ワルター! あんたバカ? そんなので戦ったら相手殺しちゃうでしょう! 少しは考えなさいよ」
どうやら、ソフィアさんが青薔薇の魔剣で戦うのを止めに入ってくれたみたいだ。しかし、意外に口調が荒い。淑女のように見えてもやっぱり冒険者なんだな。
「はい、これでやりなさい。レオン君もこれを使って」
そう言うとソフィアさんはワルターさんと俺にそれぞれ剣を渡してきた。渡された剣は刃引きをされた鋼鉄の剣のようだ。しかしこの程度の剣だと俺たちが戦ったら簡単に折れてしまうんじゃないだろうか?
「その剣はうちらの知り合いの一流の鍛冶屋に耐久力に重きを置かせて打たせた剣だ。こう見えても並みの希少品の剣より遥かに丈夫だから安心して使いなさい」
なるほど。ソフィアさんが言うのだから間違いないだろう。
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
「ああ、私のゴーレムを圧倒した君だ簡単には死なないとは思うけど、ワルターは手加減が苦手だから君も死ぬ気で挑まないとマジで殺されるから気をつけなさい」
いきなり、怖い事を言う人だな。
「ご忠告ありがとうごいます。死ぬ気で勝ちにいきます」
ソフィアさんは俺の答えを聞いてニコリと笑って、
「君は若い頃のワルターやマティアスによく似ているわね。まあ、頑張りなさい」
それだけ言うと俺のそばから離れていった。
現役アダマンタイト冒険者に似てると言われるとさすがに嬉しい。自然と口角が上がってしまう。
「おい、ニヤニヤしてないでそろそろ始めるぞ」
その声を受け俺はワルターさんの方に向き直り剣を構えた。
『レオン様。ご武運を』
『ご主人様。頑張って』
ウイとティアナが念話を使って俺に声援を送ってきた。
俺は2人に一つ頷く。
「心の準備は出来たみたいだな。じゃあ行くぞ。ソフィア、合図してくれ」
「了解! では……始め!」
ワルターさんの指示でソフィアさんが開始の合図を出し戦いの火蓋が切られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
開始の合図と共に互いに一気に間合いを詰める。
ガッキィィィン!!
剣と剣が激しい音と火花を散らしぶつかり合う。その衝撃に弾かれるようにお互い3mほど後退する。
ワルターさんがニヤリと笑う。再び互いに距離を詰めると今度は激しい剣戟の応酬となる。2合、3合、4合と打ち合い続ける。傍から見ていると全くの互角に見える。しかし、俺は焦りを感じていた。
純然たる実力の違い。互角に感じる打ち合いも1合1合打ち合う度に少しずつ自分が追い込まれていくのを感じる。自分がそう動くように決められているかのようにどんどん選択肢が減っていく。まるで動きを操られているみたいだ。
このままだといずれやられる。そう思い【縮地】を使いバックステップで距離を取る。しかし、距離とってすぐに間合いを詰めて俺を追い込んでいく。
くそっ! 身体能力的にやや劣っているとはいえ、どうしてここまで簡単に追い込まれるんだ?
必死に食らいつき、ワルターさんの攻撃をいなしていく。しかし、既に反撃を試みる余裕がなくなって来た。
一か八か、身体強化系のスキルをフル活用して、一時的に自身のステータスを大幅にアップさせる。
本来瞬間的に使用する【剛力】や【縮地】のような武技スキルすら、戦闘中常に発動させていく。その為、HPとMPが時間とともに削られていくのを感じる。
しかし、おかげでパワーもスピードも発動前とは段違いだ。これなら、身体能力でワルターさんを上回れる。
スピードを活かし次々に攻撃を繰り出し、パワーを活かし一撃一撃に必殺の威力を持たせる。
しかし俺の強化された攻撃に対しワルターさんは次々と対応していく。
威力を増した剣戟が激しくぶつかり合う度に火花と衝撃波を創り出す。
あまりのハイレベルな戦いに周りの者たちは声すら出すことも出来ず固唾を飲んで戦いを見守っている。
2人の動きは激しさを増し、常人の想像をはるかに超える領域へと突入していった。
しかし、それでも攻撃が当たらない。いや当たるどころか、戦いの激しさは増せど先ほどと殆ど状況が変わっていない。スキルを常時発動し始めた時は、急激なスピードやパワーの変化もあり一時的に優勢に立てたように見えた。しかしそれも10数秒で盛り返され状況は元通りになってしまった。
なんでだ? 今の状態ならスピードもパワーも完全に俺の方が上回っているはずなのに。それを簡単に覆されてしまう。
俺は死に物狂いで戦っているのに、ワルターさんは楽しそうに笑って戦っている。まだまだ余裕が有るように見える。
これがアダマンタイト冒険者の実力か……。
自分とワルターさんの実力の違いの本質が今の戦いで見えて来た気がする。圧倒的な経験、技術力の差。以前から感じていた今の俺に全く足りていない物、その差をまざまざと見せつけられている。
俺の方が、パワーが上のはずなのに剣と剣がぶつかり合えば押される。スピードが上回っているはずなのに手数で押される。そこに今の俺では越える事が出来ない実力の差を実感させられる。
だけど俺は諦めが悪い方だ。このまま諦めるつもりは無い。
俺は激しい動きから、一撃の重みを持たせた戦いにシフトする。純然たるパワーの勝負に持ち込むため。ワルターさんもその戦いに真っ向から受けて立ってくれる。
剣と剣がぶつかり合うと俺は鍔迫り合いに持ち込む。ギャリギャリと2本の剣は悲鳴にも似た音を周りに響かせ、互いに相手の領域を侵食しようとしている。
「小僧! お前がここまでやるとは正直驚きだ」
鍔迫り合いの中、ワルターさんが声を掛けてくる。しかし俺は必死でそれに答える事が出来ない。
「この強さでまだ15歳とは、いったいどんな人生を送って来たんだか。ホント興味が絶えないガキだ。お前はマティアスが言っていた以上の掘り出しものだよ。だが、その程度の実力じゃまだ負けてやることは出来んな」
それにも俺は答えず、ここで押し勝つためにも更に力を込めていく。少しずつだが、鍔迫り合いは俺の方が押し始める。
よし、このまま押し込める。一気に押し込む為に力を爆発させようとした瞬間、何故か俺の方が逆に吹き飛ばされてしまった。
な……、いったい何にが?
状況が分からず吹き飛ばされた俺はどうにか着地に成功させたものの完全に体勢を崩してしまう。
素早くワルターさんを探すが見当たらない。
どこにいった!? 周りを確認しようとした時……。
「チェックメイトだ」
突然後ろから声が聞こえたと思うと首筋に剣を当てられた。
…………。やられた。
「ま、参りました」
俺は項垂れ降参の意思表示をした。
「それまで! 勝者ワルター」
俺の降参の意思表示を聞き、ソフィアさんがワルターさんの勝利を宣言した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
完敗だ。正直なにも出来なかった。負けるにしても、もう少し何とかなると思っていたが全く駄目だった。間違いなくワルターさんはまだ本気を出していない。だから余計に悔しさがこみ上げてくる。そして、気が付いたら俺の頬を涙が伝っていた。
「ほお、俺に負けて悔し涙を流すか」
そう言ってからワルターさんは俺の肩に組みかかる。
「またいつでも勝負してやる」
その言葉に俺は黙って頷いた。
そして最後にワルターは俺の頭をガシガシ撫でると俺をみんなが観戦していた場所へ連れて行った。
「レオン。凄いじゃないか! ワルターとここまでやれる奴はここ最近見た事が無い。間違いなく王都にはいないぞ」
「そうよ。ホントあなたにはビックリさせられてばかりね」
エリアスさんとカルラさんが真っ先に声を掛けてくる。
「レオン様、カッコよかったです」
「ご主人様、凄いです。ホントすごいです」
ウイとティアナも目をキラキラさせて声を掛けてきた。
俺としては、負けたのだから素直に喜べない。みんなからしたらアダマンタイト冒険者といい勝負が出来ただけでもすごいという事なんだろうけど……。
ワルターさんに負けて悔しがるのは、俺が傲慢で自信過剰な冒険者だからなのか? いや、負けて悔しいのは当たり前。どんなに俺が弱ったとしても勝負に負ければ悔しい。だから次は負けないように努力をするのだから。
今日のワルターさんとの戦いで自分の課題がよく分かった。レベルやステータスに無い強さをもっと身に付けないと。
「自分に足りないものが分かったみたいね。これからの成長が楽しみだわ」
俺の表情を読み取ったかのような言葉をソフィアさんが掛けてくる。
「期待にそえるよう努力していきます」
俺がソフィアさんにそう答えると次にワルターさんが俺の言葉に対して話し始めた。
「おう、ただお前はまだ15だ。経験の思慮も足りない。いくら力があってもたった一つのミスで命を失うのが冒険者だ。常に警戒心を持ち、生き残る事を考えろ。勇気と無謀を履き違えるな。それが出来ればお前はいずれアノ最強の男にとどくかもしれん」
最強の男? 誰の事だろう?
「最強の男って、マティアスですか?」
「違う。マティアスは俺が知る中で№2だな。奴より圧倒的に強い奴がいる。まあ、お前ならいずれ会うさ。それまで楽しみにしてな」
「教えてくれないんですか?」
俺の問いにニヤリと笑うと。
「今教えたら面白くないだろ」
「面白くない?」
「ああ、冒険者をやっていくならいつも楽しまないとな」
そこまで言うとワルターさんはガハハと笑いその後は何を聞いても笑って流されてしまった。
しかし、最強の男か、ワルターさんやマティアスより強い人がいる。早く会ってみたいな。
それから俺達は再びダイニングルームにもどると途中だった食事を再開し、お互いマティアス達との昔話を肴に大いに盛り上がった。
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ワルターのパーティー名を最初『ブラウローゼンリッター』にしようとしたのですが、ワルターでローゼンリッターはさすがにと思いやめました。古いネタですが……。
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