第45話 氾濫(6)
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サイクロプスは鬱陶しそうに前衛の3人に向けメイスを振り回している。しかし、持ち前のスピードを活かし、その攻撃をことごとく躱していく3人。
そこに、練り上げた魔力を両手に俺とエリアスさんが近づいていく。それを見た前衛の3人は俺達の作戦の意図を理解したのか動きが変わる。今までは、足元を中心に攻撃し目線を下げさせて、魔法部隊から視線を外させるように動いていた。それが今度は上半身、特に顔の近くを飛び回るように動き始めた。
流石歴戦の戦士。俺達がやろうとしている事をなんとなくでも理解して、サイクロプスを挑発しているようだ。
チャンスはそうそう来ない。1回で必ず成功させないと、2度は喰らってくれないだろう。
前衛3人がチャンスを作ってくれている間、俺とエリアスさんは更に魔力を練り上げていく。ここまで来てしまうと魔力を魔法に転嫁する事はもう出来ない。ここで魔力を暴走させてしたら俺もエリアスさんも消炭になってもおかしくない。だがしかし、俺達は危険域を超えても更に更に魔力を練り上げていく。いずれ来るチャンスの為に。
そしてそれは突然来た。いや狙っていたのだから必然的に来たと言った方がいいだろう。
前衛の3人は次第に攻撃を顔に集中し始める。サイクロプスも鬱陶しいその攻撃を腕やメイスで振り払おうとするが全く捉える事が出来ていない。業を煮やしたサイクロプスは目の前を通り過ぎようとしたクレメンスさんに大口を開けて喰らいつこうと迫る。
俺とエリアスさんはこの時を待っていた。俺達は一気に跳躍する。そこにカルラさんの風魔法が俺達の真後ろで弾ける。俺達の体は信じられない加速をして一気にサイクロプスの口の中に突っ込んでいく。
「いっけ――――!!」「死ね――――!!」
2人の叫び声が周りのこだまし俺とエリアスさんはサイクロプスの口の中に飛び込んだ。そして……。
俺達がサイクロプスの口の中に飛び込んだ数瞬後。サイクロプスの口から赤い光が漏れたかと思うと、そこから一気にサイクロプスの上半身は巨大の火球に包まれてしまった。周りの魔物も冒険者も何が起こったのか分からずその場で立ち尽くしている。
サイクロプスを包んだ火球は5分近くも燃え続け、その炎が小さくなり始めた頃、まるで巨木が倒れるようにサイクロプスの巨体は、多くの魔物を巻き込みなが大の字に倒れた。
「やった……。ウオォォォ!! やった――――!!」
戦場の冒険者は一気に湧きたち、士気が跳ね上がる。逆に、魔物達はサイクロプスが倒れた事で動揺が広がり、呆然と立ち尽くすもの、逃げ出すもの、むやみやたらに暴れ出すもの。まさにパニック状態になった。
俺とエリアスさんは焼け爛れた両手に痛みを感じながら、やや離れた場所でその光景を眺めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サイクロプスに飛び込んでいった俺達は飛び込む瞬間、今まで何とかギリギリで制御していた魔力を一気に解放した。これにより俺達の制御を完全に失った火属性魔力の塊は、俺達を中心に暴走を始める。俺達の腕を焼き一気に膨張を始めた魔力を確認した俺は、作戦の成功を確信し、ニヤリと笑いながら一気にエリアスさんを連れて短距離転移を使いサイクロプスの口の中から脱出した。
外に出た俺達はすぐに自分達のいる場所を確認する。
周りには魔物はおらず冒険者が数人いた。どうやら冒険者側に転移出来たようだ。ただ前線からやや離れた場所に出てしまったみたいだ。
そこからすぐにサイクロプスを探すと、上半身を火球に包まれた巨人を発見する。
何とか上手く行ったみたいだ。エリアスさんと目が合いお互い作戦が成功した事を確認しあうように2人大きく頷く。
やがてその巨体が倒れるのを見てようやく俺とエリアスさんは安堵の表情に変わった。
他の冒険者達も一気に湧きたち、この勢いで魔物を殲滅し始める。
サイクロプスを倒した事により冒険者側が攻勢になったのを確認すると、俺は自分とエリアスさんの両手の火傷を『ライト・ハイヒール』を使い回復させる。
「これ程までの回復魔法まで扱えるのか。君にはホント驚かされるな」
エリアスさんは治療を受けながら感心している。
「それにあのバカげた作戦。いや作戦にもなっていない、命知らずのただの特攻アタックを考えてそれを実行してしまうんだからね」
いやいや、エリアスさんもこの作戦に乗っていたじゃないですか。とは思ったが大先輩なので流石に言えない。代わりに
「エリアスさんやカルラさん、それに盾役の3人の助けがあったからこそ成功出来たんですよ」
それを聞いたエリアスさんは満足そうに。
「分かっているじゃないか。じゃあ、この戦いが終わったら、俺達全員1杯奢れよな」
とニヤリと笑い言ってくる。
「もちろんですよ」
と俺も笑って答えた。
今回の作戦を簡単に言うと。
外が堅くてダメなら中から攻撃したらいいんじゃないか。と言う事で、口の中から攻撃する事に。そこで威力だけなら魔法よりはるかに高い魔力暴走で攻撃を行う事にしたのだが、魔力暴走は術者を中心に起こるもの。そこで魔力暴走を実行するにあたってサイクロプスの口の中に入って行う必要が有った。という事で俺がサイクロプスの口の中に突撃して、そこで魔力暴走を起こし俺の【転移魔法】で脱出するという作戦を立案したのだ。これにエリアスさんは俺も付き合わせともらうと言ってきたのだ。
ちなみにこの作戦で一番心配だったのが俺の魔力だ。『スーパーノヴァ』の事もあり下手をしたらこの周辺が消滅しかねない威力になるんじゃないかと危惧いていたが、それは【魔力精密操作】スキルを切った状態で制御できるギリギリの魔力量で抑えれば問題無いと【ロラ】のお墨付きを貰った。
こうして無茶な作戦だったが、思った以上に上手く行ったようで何よりだ。
そう思っていた時、俺はある事に気が付いた。サイクロプスが倒れ、勝利に興奮しいてその時は気が付かなかったが、少し落ち着いた事でそれに気が付いたのだ。それは……
おかしい……。レベル差30以上あるもある魔物を倒したのにレベルが一つも上がっていない。
大人数で戦ったから経験値が分散されたのだろうか? それならいいが、もしサイクロプスが死んでいなかったら?
嫌な予感がする。
すぐにサイクロプスの方を見ると特に動く様子は無い。だが、何故か奴は死んでいない、そう思えてならない。俺はエリアスさんに一言サイクロプスの様子を見てくると言って、倒れた巨体に向け走っていく。
そしてその予感は当たってしまった。最初は手がピクリと動き、やがて俺が近づくにつれ、サイクロプスは徐々に動き始めた。そして俺が目の前に到着した時、サイクロプスは上半身を起こし周りの冒険者や魔物に向け、1つ目から魔力の光線を放ち周り一帯を薙ぎ払ってしまった。
なっ! 頭の中にサイクロプスのユニークスキル、【殲滅の魔眼】という文字が浮かんでくる。
魔力の光線が直撃した地面は、高温で焼かれたようにブスブスと音を立て溶けている。いったい今の一撃で何人の冒険者がやられたんだ? とんでもない威力だ。
咄嗟にウイとティアナを探すが2人とも無事のようだ。
しかしどうする? 今の一撃で冒険者達は完全に浮足立ってしまった。
サイクロプスの状態を見ると、先ほどの俺達の攻撃がかなり効いたようで、上半身の皮膚は焼けただれ、中の筋肉が所々むき出しになっている。口の中からも大量の血が溢れ出ており、かなりのダメージを負っている事は分かる。これなら何とかなるか?
サイクロプスを観察していると、再び1つ目に魔力が集中し始める。また【殲滅の魔眼】だ。すぐさま俺は冒険者を守る為、耐魔法結界を張る。その数秒後、サイクロプスから再び魔力光線が放たれた。しかし魔力光線は結界に弾かれ、魔物達が密集している所を襲い焼き払う。
周りの冒険者達はその光景に湧くが、俺にはそんな余裕はない。今の一撃は何とか防げたが、1撃目より強力になっている気がする。これ以上威力が増すと流石に不味いな。
何とか手を打ちたいが、三度【殲滅の魔眼】が放たれる。だが魔力光線は再び結界に阻まれる。今の攻撃も何とか結界を張って乗り切れたがしかし、これではこちらの魔法攻撃も結界が邪魔で使えない。
盾役の3人と遊撃部隊の3人がサイクロプスの隙をついて攻撃を仕掛けていく。先ほどに比べ多少ダメージを与えられているみたいだが決定打にはならない。そしてサイクロプスが目に魔力を溜め始めると俺が張った結界内に逃げ込まざるおえない。
4度の目の【殲滅の魔眼】が放たれた時、いよいよ結界が悲鳴を上げ始める。くそっ! やっぱり明らかに【殲滅の魔眼】の威力が撃つたびに強力になって来ている。
すぐに結界を修復したが、次の一撃防げないかもしれない。
そしてサイクロプスの目は、5度の【殲滅の魔眼】を撃つために魔力を溜め始める。
どうする? 何かないか? くそっ!
必死に方法が無いか模索するが、この状況ではいい案なんて浮かんでこない。サイクロプスの目には今まで以上に大きな魔力を感じる。不味い! あれは耐えられない。
いよいよサイクロプスの目から【殲滅の魔眼】放たれようとしたその時。サイクロプスの首元を光が一閃する。そしてサイクロプスは突然その動きを止めた。
一瞬の静寂が訪れ、やがてサイクロプスの巨大な頭部がズルリとずれる。そして、サイクロプスの巨体はその場で崩れ落ちた。
そこにいる冒険者全員が呆然とその光景を眺めている。さっきまで凶悪な魔力光線を何度も放ってきていたサイクロプスの頭部が突然無くなりその場で崩れ落ちたのだ。誰もが何が起きたか全く分かっていない。
俺自身も何が起きたか全く分からない。結界が破られると思った瞬間突然サイクロプスは目の前で倒れてしまったのだから。
いったい、何が起こった? 混乱する頭の中【マップ】&【探知術】を使い状況を探る。
そしてサイクロプスの真後ろに一人の男を見つけた。
おさまりの悪いやや癖のあるくすんだ金髪。小柄だが無駄なく鍛え抜かれた体格。隙の無いその引き締まった表情は歴戦の戦士であることを物語っている。見るからに強者。そんな気配を漂わせる男がそこに立っていた。
そして周りの冒険者達も男に気が付いたようで、周りがザワザワしだす。
「あれ、ワルターさんじゃないか?」
「本当だ! ワルターさんだ!!」
そんな感じの声があちらこちらで上がり始める。
聞いた事のある名前だ。いや、王都にいる冒険者なら必ず知っている名前だ。
あの人が、現在世界で5人しかいないアダマンタイト冒険者の1人なのか。
よし、この距離なら鑑定出来そうだ。
【名前】 ワルター・フォン・ゼッレ 【年齢】 34歳
【種族】 人族
【職種】 冒険者 ・名誉士爵
【レベル】93(B+)
3年前に昇格した一番新しいアダマンタイト冒険者だ。剣士として、その動きの速さ、剣撃の速さから疾風の剣士と言われる王都最強の冒険者だ。
初めて本物を見たが想像以上の化け物だ。レベルもそうだが、あの剣撃。不意打ちとはいえ、わずか一刀でサイクロプスの巨木のような首を刎ねてしまうなんて……。これがアダマンタイト冒険者の実力か。
そこから、戦況が一気に冒険者側へと傾く。ワルターさん達と共の行動していたオリハルコン冒険者も加わった事により魔物達は一気に殲滅され、この戦場で冒険者の勝利が確定した。
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氾濫編の終わりがようやく見えてきました。
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