第32話 王都とレベロ商会
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エルセンを出発してから5日目、俺達予定通りウインザー王国、王都ウインザーに到着した。
王都ウインザーは人口130万人を擁する大陸最大の大都市だ。
俺が子供の頃住んでいたラングスター王国の王都ですら人口30万人であった事を考えると、あまりの規模に腰が引けそうになってしまう。
王都を囲う街壁は、エルセンの街壁の2倍以上の高さがあり、圧倒的な存在感を醸し出している。
城門の列に並ぶ乗合馬車に乗って待つこと30分ようやく王都の内に入る事が出来た。
「ふん~!」
馬車から降りた俺は馬車の中で凝り固まった身体を伸ばす。
ふと、ウイを見ると、同じように身体を伸ばしストレッチをしていた。
俺の視線を感じたのか、ウイと目が合うと、少し照れくさそうに微笑んでくる。
いい、この感じすごくいい。なんか幸せだな。
「お疲れ、ようやく到着したね」
「はい、お疲れ様です。馬車での移動とは言え5日の移動となるとさすがに疲れますね」
「そうだね、先ずはレベロ商会に行く前に宿を取りに行こう、折角御者さんにおすすめの宿を聞いたんだしね」
「はいです」
そして俺達は乗合馬車の御者さんおすすめの宿屋に移動を始めた。
メイン通りはエルセンの3倍近い広さがあり、多くの人が行きかっている。
行きかう人種も色々で人族を中心に、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、鬼人族、龍人族など多岐にわたる。
メイン通りの街並みも石造りの建物で統一されており、見る者の目を奪う。
そしてメイン通りの先にそびえ立つ白亜の城、ウインザー王国の象徴、王城白き美姫は、その美しさと大きさで見た者を圧倒している。
さすがは大陸最大の都市だな。色々楽しみだね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここのようですね」
馬車を降りてから30分後ようやく、御者さんおすすめの宿に到着した。
「うん、看板にも『風月亭』と書かれてあるから間違いないよ。しかしデカいね」
そこにはエルセンで泊まっていた『懇篤の美女亭』の5倍近い大きさの宿屋が建っていた。
「そうですね。御者さんの話でも、ここ王都でも五指に入る大きな宿屋のようですしね」
「て、このまま眺めていても仕方ない。早速入ろうか」
「はいです」
中に入るとすぐに受付があり、中年のおじさんが立っている。
「いらっしゃい。初めてお目にかかりますね。食事ですか? それとも宿泊ですか?」
この人、来るお客さんすべての顔を覚えているんだろうか?
「宿泊です。取りあえず3人で1週間ですが大丈夫ですか?」
「3人部屋がありますから大丈夫ですよ。値段は1日2食付きで1500コルドになりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」返事をして料金を払う。
「それでは、部屋まで案内します」
と言うと受付のおじさんは手元のあった鈴を鳴らす。
少しすると、20歳くらいの女性が現れ部屋まで案内してくれた。
部屋は懇篤の美女亭の2人部屋の倍くらい広さがあった。
「広い部屋ですね」
「そうだね。なんか広すぎて落ち着かないな」
「そうですね」
クスッと笑いながらウイが答える。
この笑顔はいつ見ても癒されるな。
「少し休憩したら、早速レベロ商会に向かうとしようか」
「はいです。店に場所はだいたい分かりますから案内しますね」
「うん、よろしくお願いするよ」
それからしばらく、2人でおしゃべりをしながら1時間ほど休憩を取り、それからレベロ商会に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
風月亭を出てから1時間後、俺達はレベロ商会の前にたどり着いた。
しかし、まさか店まで1時間もかかるとは、さすがは130万人都市、広さも半端ない。
メイン通り沿いとはいえ、ウイの案内が無かったら、行き過ぎているじゃないかと不安になっていたところだ。
王都でも1、2を争う商会だけあって、まるで王宮のような店構えだ。
エルセンのレベロ奴隷商会の建物もすごかったが、王都のレベロ商会の建物は大きさ。質、共に桁違いだ。
「さすがにすごいね」
「ここは、レベロ商会の本店ですからね。エルセンのお店と違い、扱う商品も奴隷だけでなく、宝飾品から魔道具、高級衣料品、高級家具といった上流階級を対象にした商品を多く取り扱っていますし」
俺のつぶやきにウイが説明をしてくれる。
「なんか、俺、場違いな所に来てる気がする」
「そんな事ないですよ。ミスリルランク冒険者と言ったら充分一流の証になりますよ」
「そうかな。ありがとう」
とは言ったものの今までの自分を考えると一流とはもっとも離れた次元で生きてきた俺にとっては全くしっくりこない。
まぁ、今更だけど。
「じゃあ、入ろうか」
「はいです」
「いらっしゃいませ」
店内に入ると早速数人いた店員の中から若い男性店員が声を掛けてくる。
「あの、冒険者のレオンハルトと言うものですが、ルパートさんがお見えですか」
男性店員は一瞬ウイを見て驚いた表情を見せた気がしたが、すぐに普通にもどり
「ルパートでございますか?」と対応し始める。
ウイはずっとここに居たのだから当然顔見知りなのだろう。
「はい、以前エルセンのお店でお世話になりまして」
「そうでしたか、すぐに呼んでまいりますので、少々お待ちください」
そう言うと一礼して店員は奥に入って行った。
「お待たせしました。レオンハルト様」
5分ほどするとルパートさんが呼びに行った店員を伴って戻って来た。
「ルパートさん、突然押しかけて申し訳ないです」
「いえいえ、こちらこそご来店いただき誠にありがとうございます。ウェンディはお役に立っておりますか?」
「ええ、すごく助かっていますよ。命も助けられましたしね」
ウイを見て言うと少し恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
ウイの呪いを知っているルパートは一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻り。
「そうでしたか、お役に立っているようでよかったです。ところで本日はどのようなご用件でしょうか」
挨拶もそこそこに本題へと話題が変わる。
「実は新たにパーティーメンバーになる奴隷を増やそうと思いまして」
「そうでしたか。パーティーメンバーということは戦闘が出来る事が前提となりますね、その他に何かご希望はございますか?」
「それなんですが、ウイから聞いたのですが、こちらにティアナという名の龍人族の娘がいると聞いたのですが、その娘と購入を前提に話すことは出来ますか? もちろん購入する事になった場合は実際に販売される時の価格で購入させてもらいます」
俺の言葉にルパートさんは少し考え。
「構いませんが、ティアナはまだ奴隷教育が終了しておりませんがよろしいですか?」
俺としては、普通の奴隷と同じように扱うつもりはもともと無いから特に問題ない。
「ええ、大丈夫です。どの道俺は冒険者ですから、あまり細かい事は気にしませんしね」
「そこまで仰られるのでしたら構いません、それでは今からティアナを連れて参ります」
そう言うと先ほど対応してくれた店員を呼び寄せ
「ティアナを第3商談室に連れてきてくれ」と指示を出す。
「レオンハルト様、お待たせいたしました。ではこちらへ」
そしてルパートさんは俺たちを先導して奥に向け移動を開始した。
通された所はエルセンで通された部屋をより豪華に、それでいて華美にならず落ち着いた雰囲気を演出している部屋だった。
ルパートさんに席を勧められ、ソファーに腰掛けると、ウイが後ろに立とうとする。
「ウイもソファーに座りなよ」と声を掛けるが、「大丈夫です」とやんわり断られる。
元々いた奴隷商のお店だから座りにくいのかなと思い、少し寂しいが無理に座らせる事を諦めた。
しばらく用意された紅茶を飲んで待っていると、ノックの音が部屋に響く。
「ティアナを連れて参りました」
先ほどの男性店員が声掛けをする。
「入れ」
その声にルパートさんが応えると扉が開き1人の少女が一礼をして入ってきた。
龍を思わせる縦に割れた瞳孔の金瞳が印象的な、小柄な少女が、
「ティアナと申します」
そう言うと再び一礼し俺に向け微笑み掛けてきた。
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