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第29話 温泉

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「うわぁ!!」

 【転移魔法】を使った瞬間、周りの景色が一変してリッカ村の入口まで来ていた。

 日が陰り暗くなった村の入口に、俺達が突然目の前に現れた事で門番の青年は大声をあげ腰を抜かして驚いている。


 俺は青年に詫びをいれ、クルトさんはもう戻っているかと聞くと。

 10分ほど前にここを慌てて通り村長に家に駆けこんでいったと教えてくれた。

 

 礼をいい俺達もアヒム村長宅に向かった。



「それは、本当なのか?」

「ああ、レオンハルト君がスキルで確認した。今、レオンハルト君達が身を挺してゴブリン達を抑えてくれている。今のうちに男衆を起こして戦う準備をしないと間に合わなくなるぞ。それに早馬出して冒険者ギルドにも報告しないと」

「しかし、戦うと言ってもゴブリンロードなど我々ではどうしようも無いぞ」

「ならどうする? 村人みんなで逃げてもすぐに追いつかれてしまうぞ。それよりも村の門を閉じてエルセンからの援軍を待った方がより生き残れる確率が高い」

「うむ、クルトよ、今ならまだみんな起きている時間じゃ、すぐに村の者全員を集会所に集めよ。闘うにしろ逃げるにしろ全員で対応せねばこの村は全滅じゃ、時間が無い、急げ!」

「了解だ!!」


 緊迫した会話に家に入るのを躊躇していると、クルトさんが飛び出して来た。

「うおお!! レオンハルト君!! 無事だったか。良かった、そうだゴブリン達の状況はどうなっている?」

 俺につかみかからん勢いで聞いてくるクルトさん。

「クルトさん、落ち着いて下さい。もう大丈夫ですから」

「何を言う、レオンハルト君、もうすぐゴブリンロードの軍勢が攻めてくるかもしれないと言うのに落ち着いておれんよ」

「だから、大丈夫ですって」

「おい! クルト、何をしておる。急いで村の者に伝えに……レオンハルト殿!! 無事だったか。良かった。よし、クルト、話はわしが聞く、お前は村の者に知らせてこい」

「分かった、後は頼んだ」

 そう言い再び走り出そうとするクルトさんを、

「ちょっと待って!!!」

 俺の大声を上げクルトさんを止める。

「どうされた、レオンハルト殿?」

「ちょっと落ち着いて俺の話を聞いて下さい」

「急がねばいけない時にいったいどうしたと言うんだ」

 少し苛立たしげにクルトさんが聞いてくる。

「だから、もう大丈夫だと言っているんです」

 俺の言葉に頭の上に明らかに? マークが付いている。

「もうゴブリンは攻めてきません。ゴブリンロードも倒しました。もうこの村は安全です」

「…………」

 固まる2人。

 

 そして先に立ち直ったのはアヒム村長だ。

「何を言っているのだ、レオンハルト殿? ゴブリンロードじゃぞ、下手をしたら緊急討伐依頼が発生するほどの災害指定の魔物じゃぞ。それを倒したなどと本気で言っているのか?」

 さすがは村長、立ち直りが速い、クルトさんは呆然自失といった感じで固まっているのに、俺の言葉を一応は分かってくれているようだ。信じてはいないようだけど。

「はい、倒しました。証拠もあります、ゴブリンロードの死体です。『アイテムボックス』に入っているので、どこか広い所に移動して出しましょう」

「わ、分かった。取りあえず、うちの裏にお願いする」

「分かりました」


 

 アヒム村長宅の裏に移動した俺は早速【神倉】からゴブリンロードの死体を出した。

 上半身が焼けただれ、全身に傷を負った巨大なゴブリンロードの死体が目の前に突然現れたのを見て、アヒム村長とクルトさんは脅えた表情で一歩後ろに下がる。


「もう死んでいますから大丈夫ですよ」

 2人の声を掛けると少し落ち着いたのかアヒム村長がようやく声を出した。

「こ、これをレオンハルト殿達2人で?」

「ええ、かなりギリギリでしたが何とかなりました。他にもゴブリンジェネラル、ゴブリンウィザード、ホブゴブリンウォーリアなども含めて35体のゴブリンがいましたがすべて討伐しました。あっ! 後、念の為巣になっていた洞窟は土魔法で塞いでありますし、掘っ建て小屋も壊しておきました」

「な……、なんと……そ、そんなに……」

「まぁ、質はともかくゴブリンの総数は35体とそれほどの規模では無かったので俺達2人でもなんとか対処できただけですよ。さすがにこの倍の数がいたら抑えるのは難しかったと思います」

 ゴブリンの数は【神倉】に入れてから数えたので正確だ。

 

 ちなみに今回討伐したゴブリンの内訳は、ゴブリンロードが1体、ゴブリンジェネラルが2体、ゴブリンウィザードが2体、ホブゴブリンウォーリアが5体、ホブゴブリンが10体、ゴブリンが15体の総勢35体の群れだった。


「なんと言ったらよいか……、レオンハルト殿には感謝の言葉もありません」

 アヒム村長はそう言って深く頭を下げる。

「いえいえ、仕事ですから当然ですよ」

「そうだ、何かお礼を……」

「そんな、いいですよ。ホント依頼でしただけなので依頼料だけで充分です」

「そんな……、それでは私に気持ちが収まりません」

「ん~、それでしたら今晩温泉を少しの間、貸切りに出来ませんか?」

「温泉ですか?」

「はい、実は今回リッカ村に来た本来の目的は温泉だったんですよ」

「そうだったのですか!! では、すぐに手配いたします。少しと言わず一晩貸切りに致しましょう。宿屋の方にもそのように手配しておきます。宿代もこちらで持たせて頂きます」

 「そんな一晩は悪いですよ。他に宿泊されている方もみえるでしょうし、それに宿代も自分達で払いますから」

「温泉に関しては気にされなくても大丈夫ですぞ。このゴブリン騒動が起きてから旅人の足が遠のきまして、現在宿泊客はおりません。それに大恩あるレオンハルト殿に宿代を出させてはリッカ村の恥になります。どうか、今回は私の顔を立てると思ってお受け下され」

 そこまで言われたら仕方ないか。

「分かりました、では今回はお受けします。次回からはちゃんと払わせてくださいね」

「ありがとうございます」


 取りあえず話がまとまり、その後はアヒム村長とクルトさんに、ゴブリン討伐の詳細を改めて説明した。ただし、『魔皇石』の事はギルドに相談してからの方が良さそうなので伏せておくことにした。




 そして俺とウイは現在にリッカ村唯一の宿『湯あみの宿亭』の一部屋にいる。

「俺今から温泉に入って来るけどウイはどうする?」

「私も入りたいのでご一緒致します」

「そ、そうか。じゃ~、温泉まで一緒に行こう」

「はい」

 と嬉しそうに返事をするウイ。尻尾もフリフリしているので本当に嬉しいのだろう。

 それに比べ俺はご一緒という言葉に一瞬ドキッとしてしまった。温泉は男女別々になっているだろうに。


 部屋を出て温泉に向けて移動を始めるとウイが

「レオン様、て……、手を繋いでも良いでしょうか?」

 頬を赤らめ聞いてくる。

「なっ……、う、うむ、いいよ。では手を繋いで行こう」

 うむ、じゃね~よ、動揺しすぎてしゃべり方が変になってるし。

 しかし、ウイのやつ、急にどうしたんだろう。やっぱり俺が死にかけたから不安になっているんだろうか? でもなんか少し違う気もするけど……。まぁ、いいやもうすぐ温泉だし何も考えずのんびり入る事が重要だ。


 しばらく、2人で手を繋いで歩いていると、ようやく温泉の入口が現れた。入口はちゃんと男湯と女湯に分かれていた。ほっと、安心して胸をなでおろす一方、心の中でガッカリしている自分がいるのが悩ましい。


 2人は分かれ、脱衣所で服を早々に脱ぎ去ると早速温泉だ。

 温泉は所謂露天風呂だ。


 空を見上げると満点の星空が広がっている。そこに1人露天風呂につかり空を見上げているとまるで星空の中を漂っている気分になってくる。

「ああぁ~、最高だな~。やっぱり温泉いい、入ると今までの疲れが一気に癒えるようだ」

 本当に温泉は良い、特に露天風呂は最高だ。【転移魔法】もあるし余裕がある時は出来るだけ温泉に入りに行こう。うん、そうしよう。

 

「湯加減いかがですか?」

「ああ、丁度いいですよ」

 ん? 今日は貸切りのはずだけど……てか、聞き覚えのある声……

 振り返るとそこには生まれたままの姿のウイがタオルで前だけを隠し立っていた。

 と言いますか直に見ると素晴らしすぎるプロポーション、それに白く美しい白磁のような肌、その姿にムスコが大人に進化してしまいそうです。


「な、な、な、なんで……?」

 動揺しまくりで出たセリフはそれだけでした。

「どうやら、この温泉、入口は男女別々になっていましたが、中は一緒のようですね」

 ウイは意外に冷静のようだ。

「マジで?」

「はい」

 ウイさん何でそんなに嬉しそうなの?

生のお尻から生えた尻尾がぶんぶんすごい勢いで振られている。


「お隣いいですか?」

 マジですか? しかし断るのも不自然だし、すごく期待した目を向けられると、とても断れない。

「う、うん、いいよ」

 そして俺はそう答えるしか選択肢はなかった。



 どうしてこうなった。いや良いんだけどね。

 今俺の隣では、ウイが俺の肩にしな垂れて気持ち良さそうに温泉につかっている。


 どうしたんでしょうか。ウイさん積極的過ぎやしませんか?

「ウイ、今日はどうしたんだ?」

 今日はとは言ってもまだ会って3日目なんだけどね。それでも聞かずにはいられなかったのです。

「……、やっと一緒にいたいと思える方に会えたのに……」

 ウイはそこまで言うと空の星を見上げる。

「そんなレオン様がまるで死んでしまったように倒れているのを見て、レオン様が死んでしまったらと思ったら怖くて怖くて仕方なかったんです。だからレオン様が目を覚まされた時は本当に嬉しくて嬉しくて……」

 そこまで言うとウイは俺の顔をじっと見つめて来た。

 そして満面の笑顔を見せ

「私はレオン様とずっと一緒にいたいです」

 それだけ言うとウイ俺の胸の中に飛び込んで来た。

 ここまで来ると経験が足りない俺でもウイが何を言おうとしているかさすがに分かる。

 俺もそこまで馬鹿じゃない。いや、まぁ色々馬鹿だけど……。

 俺はウイを強く抱きしめた。

「ありがとう、嬉しいよ」

 俺の言葉にウイは幸せいっぱいの笑顔を見せてくれた。

 

 そして俺は人生初のキスをした。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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