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第20話 ウェンディ

ブックマーク&ポイントありがとう御座います。

 部屋に入ってきた彼女は慣れているのか、かなり落ち着いている様子。

 と言うか落ち着いていると言うより諦めている(?)ような感じがする。


 他の奴隷達は、俺を値踏みするように見る者や、明らかに下に見ている者が多かった。そりゃ、あれだけの容姿が在ればこんな若造の冒険者より大貴族の奴隷になりたいわな。


 そんな中でもウェンディの容姿はずば抜けていると思う(俺主観)

 そんな彼女は特に俺を値踏みする訳でもなく下に見る訳でもない、なにか達観した感じにも、すべてを諦めているようにも見える。


 俺が彼女を観察しているとルパートさんが説明を始める。

「この者の名前はウェンディと申します。歳は15歳、種族は狼人族、初回奴隷でございます。こちらの奴隷、容姿は大変優れているのですがスキルを持っておりません」

 

「スキルを持っていない?」

 あれ? 封印とはなっているけど持ってはいるよな。


『普通の鑑定スキルでは、封印されたスキルは表示されません』

 

 あっ! なるほどね。ルパートさんが俺の言葉を聞いて説明を始める。

「はい、この者には実は『封魔の呪い』という呪いが掛けられており、その為かスキルを覚える事が出来ないようです」

 さすが大手、この辺の説明もちゃんとしてくれるようだ。やっぱり商売は信用が第一だしな。

 しかし呪いアリって奴隷商では値引き交渉の材料になるのかな?


『値引き交渉の材料になる可能性は高いと思われます。

 あくまでも風評ですが、呪いに掛かった奴隷を持つと、その主人にもその呪いが影響すると一般的には言われています。もちろんそんな事は一切ないのですが、ほとんどの者が事実であると信じております。

 おそらくではありますが、彼女も呪い持ちの為売れずにいるのでは無いでしょうか。その点を突けば値引き交渉は可能かと』

 なるほど、それはいいことを聞いた。それなら


「呪いですか……。彼女の事を大変気に入ったのですが、ちなみに彼女の値段は?」

 ルパートさんは呪いと聞いても、値段を確認してきた事に一瞬だけ驚いた表情を見せたがすぐに笑顔に戻り

「こちらの奴隷は容姿端麗ではありますが、呪い持ちの為44万コルドになります」


 思ったより高いな。いやこの中でもずば抜けた容姿をしているのだから、これぐらい当然か。

 さてと、これくらいの金額、今の俺なら5日もあれば充分稼げるから払ってもいいんだが、どうするか。取りあえず彼女と話をしてみよう。


「彼女と2人で少し話をしたいのですがいいですか?」

「はい、問題御座いません。お時間は10分ほどでよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫です」

「では、私は席を外します。10分後にまた戻ってまいります」

 そう言うとルパートさんは部屋を出て行った。


 2人きりになった俺は早速彼女に話しかける。


「答えられる範囲で良いのだけど、なぜ君に呪いが掛かっているのか教えてくれないかな?」

 俺の質問に彼女は伏し目がちに話し始めた。


「私は、生まれた時から村で忌み子と呼ばれてきました。それでも母が生きていた時は村の外れではありますが、村で生活する事を許されていました。しかし私が11歳の時に母は重い病を患い他界してしまいました。それからしばらくすると村長から呼び出され、私の忌み子の力を封じると言われ、封魔の呪いを掛けられました」


「解呪は出来なかったのかい?」


「はい、私に呪いを掛けた者は【永続の呪術】という特殊スキル(ユニークスキル)の使い手だったらしく、普通の解呪方法では呪いを解くことが出来ないそうです」

 特殊スキル(ユニークスキル)の呪いなのか!【解放者】と同じ特殊スキル(ユニークスキル)だが解呪は問題ないのだろうか?


『特に問題ありません。【解放者】は特殊スキル(ユニークスキル)の中でも上位に位置するスキルになります。【解放者】で解呪出来ない呪いは究極スキル(アルティメットスキル)で掛けられた呪いのみです』

 それなら問題ないな。後は


「では、次の質問なのだけど、なぜ奴隷に?」

 なんとなく予想がつくが一応聞いておく。

「はい、私が12歳になった時、村から奴隷商に売られました」

 だと思った。

 その村糞だな。一度行って文句でも言ってやりたい気分だ。

 しかし12歳で奴隷商に売られたのか。



 大陸の奴隷法では奴隷商に売って良い年齢は12歳以上からとある。更に奴隷法では奴隷販売年齢は13歳からともある。つまり奴隷商が仕入れていいのは12歳からで、販売していいのは13歳からという事だ。

 ちなみにこの1年の差は、奴隷としての教育期間と言われている。と言っても実際教育するのは貴族等の販売出来そうな見目麗しい高級奴隷だけらしいが。


 12歳で売られたって事は13歳から販売されて未だに売れて無いって事になる。既に2年も売れ残っていたのか。そりゃ、どうせまた売れないだろうなって思うわな。

 しかし貴族の方々はよっぽど呪いが怖いのだろうな。まぁ当たり前か、誰だって呪いに掛かるの嫌だろうしな。

 だが、これは俺にとってチャンスだ。かなり強い値引き交渉のカードを手に入れられたな。


「話したくない事だったと思うけど、答えてくれてありがとう」

「いえ、よく聞かれる事なので大丈夫です」

「そう言ってもらえると助かる。最後にもう1つ、もし君の呪いが無かったと仮定した場合、戦闘に自信はあるかい?」

「あの、この質問にどんな意味が在るかわかりませんが、一応戦闘には自信あります。母が他界するまではよく森で魔物を狩って生活していましたので」

「そうですか、わかりました。変な質問をして申し訳ない。気にしないでくれ」

「はぁ」

 コンコン!


 ウェンディは微妙な返事を返すとほぼ同じタイミングで、ノックの音が響く。

「レオンハルト様。もうよろしいでしょうか?」

 先ほどのルパートさんが、声を掛けてくる。

「はい、丁度終わったところです」


 俺が返事をするとルパートさんが入ってくる。

 そして、ウェンディに声を掛け、退室させる。

 これで、この部屋には俺とルパートさんだけだ。


「今回ご紹介させていただいた奴隷の中でご希望に沿う者はおりましたか?」

 俺の表情を窺うように聞いてくる。

「ええ、最後の彼女がとても気に入ったのですが……」

「やはり呪いの件でしょうか?」

「ええ、私も冒険者をしていますので、スキルは生命線ですから、封魔はさすがにリスクが高い。なので、もう少し踏ん切りがつく何かが有るといいのですが」

「踏ん切りですか?」

「ええ、踏ん切りです」


 しばらく、悩むルパートさん。おそらく安くしてでも売りたいのだろう。これまで売れなかったのだし、これからだって売れる保証もない。今ならあと一押しで売れる客がいるのだから。

 さぁ、どうするルパート?


「では、10万コルド値引き致しまして34万コルドでいかがでしょうか?」

 おお、思ったより一気に下がったな。これならもう少しいけるか?

「ん~、そうですね……、もう少し安かったら……」

 小声でアピールしながら、悩んだフリをしていると。

 

「分かりました。更に5万値引かせていただき29万コルドでいかがでしょうか。さすがに当方もこれ以上の値引きは出来かねます。ですので、こちらでお願いいただけないでしょうか?」

 よっしゃ! 思った以上の値引きを引き出せた。さすがにこれ以上は今後またこの店を利用するかもしれないからやめておこう。

「分かりました。29万コルドで購入させてもらいます」

 俺がそう答え【神倉】から金貨29枚を渡す。

 明らかに嬉しそうにするルパートさん。

 そりゃ、2年間も売れなかった高額不良在庫が売れたのだから嬉しいだろう。


「ありがとうございます。それでは早速手続きに入らせていただきます」

 そう言うと一度退室したウェンディが呼ばれ入室してくる。


「ウェンディ。こちらが今日からあなたの主人になられます、レオンハルト様です」

 少し驚いた表情をするがすぐに笑顔になり

「ウェンディと申します。よろしくお願いいたします」

 そう言ってスカートと持ち上げ挨拶する。うん、とても可愛いです。惚れ惚れしてしまいます。

「うん、よろしくウェンディ」


「それでは今から奴隷契約を始めさせていただきます。ウェンディこちらへ」

ルパートさんはウェンディの手を取り呪文を唱える。するとウェンディの手に魔法陣が浮かび上がる。

「では、レオンハルト様、この魔法陣に一滴血をお願い致します」

 ナイフを渡されウェンディの魔法陣に血を垂らす。すると魔法陣が光を増しその後消えさった。

「これで奴隷契約が完了しました」

 意外に簡単なんだな。


 さて、これから宿屋に戻ってウェンディの装備でも作るかな。

「レオンハルト様は冒険者でいらっしゃいますよね?」

 そんな事を考えているとルパートさんから話しかけられる。

 

「そうですが、なにかありましたか?」

「はい、冒険者の方でしたらギルドカードに所持奴隷の登録が出来ます。この登録をしておくと奴隷を冒険者登録する際に手続きが簡単になります。こちらで登録出来ますがいかがいたしましょう?」

「それでしたらお願いします」

「では、ギルドカードをお願いいたします」

 

 ギルドカードを渡すとルパートさんが驚いた表情になる。

 何か変な事書いてあったかな?

「失礼致しました。まだ15歳というのに既にシルバーランクになられているとは驚きました」

 言われてみればそうかもしれない。普通登録してからシルバーランクに上がるには3年以上かかるのが一般的で、1年で昇格する者は将来有望だと言われている。

 冒険者は15歳からしか登録出来ない為、俺が15歳だということはつまり俺が1年以内にシルバーランクに昇格したことを示しているのだ。


「いえいえ、運がよかっただけですよ」

「そんな運がいいだけで昇格出来るものではありませんよ。それにレオンハルト様は冒険者の方には珍しく言葉遣いが丁寧であられるのも不思議ですが」

「それは子供の頃、目上の方と接する事の多い仕事をしていた事があり、その時の癖で公の場では、このような話し方に自然となってしまうだけですよ」



 そう、リヨン村にいた頃、まだ幼かった俺は、1日に稼げる金額など知れており、1日薬草を採って廻っても、せいぜい1食分か良くて2食分の稼ぎしかなかった。それを不憫に思った、温泉宿の主人が、3食付きでうちで働かないかと誘ってくれた。それだけでなく、2日に一度小遣いとして銀貨1枚渡してくれた。

 その時に温泉宿の主人から接客中のお客様への口のきき方がなっていないと、散々怒られ今に至る。



「そうでしたか、あっ! 色々詮索してしまい申し訳ございせん」

「いえいえ、気にしていませんから大丈夫ですよ」

「そう言っていただけると助かります。では、すぐに登録を行います」


 作業は簡単なもので、奴隷契約と同じようにルパートさんがギルドカードに呪文を唱え、魔法陣が浮かんだところにウェンディに血を垂らす。そうするとあら不思議。ギルドカードに新たに奴隷という項目が増え、そこにウェンディの名前が書かれていた。こんな感じ


 【名前】 レオンハルト  【年齢】 15歳

 【種族】 人族      【ランク】シルバー 

 【PT】 無所属     【クラン】無所属

 【奴隷】 ウェンディ


 「これで完了になります。本日は誠にありがとうございました」

 「いえいえ、こちらこそ」


 ウェンディを連れて店の入り口まで移動するとルパートさんから

「本日お買い上げありがとうございます。実は私、本来は王都の本店で番頭をしておりまして、明日にはエルセンを出る予定です。もし、王都に来られることがございましたら、王都のお店にもお寄りください。心よりお待ちしております」

「こちらこそ、王都に行った折には伺わせてもらいます」


 最後に挨拶を交わし、店を後にした。

 そうだ、帰りにウェンディの服や、生活必需品も買わないとな。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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