第2話 決意
『では、楽しみにしておるぞ』
そんな言葉がどこかで聞こえたような気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
??……ここは……、どこだろう?
俺はなぜか見知らぬ部屋でベッドに寝かされていた。
確か俺は、巨竜の戦いに巻き込まれて……その後どこかに……、
ダメだ、その後の事が思い出せない。
ここ何処なのだろ? あの白金竜が言っていた良き所なのだろうか?
でもどう見ても普通の部屋だよな。
辺りを見回すとベッド以外は机と椅子が1つずつあるだけで他には何もない。
しばらく、ぼ~っと部屋を見ているとドアをノックする音が聞こえ、一人に男が入って来た。
「おっ!! 目を覚ましたかレオン。身体の調子はどうだ? 痛いところとかないかはないか?」
「マティアス!!」
そう、王都で会ったあの冒険者が部屋に入って来たのだ。
「おう! 元気じゃねえか。で、調子はどうよ?」
マティアスの言葉に自分の状態を少し確認してから
「たぶん、大丈夫かな。ね~マティアス、ここは何処? 俺はなんでマティアスと一緒にいるの?」
俺の質問にマティアスはしばらく考えて
「ここは王都から西に1日離れたカイム村だ。でだ、ドラゴン達が去った後、王都を見回っていた時に西門近くでお前が倒れているのを見つけてな、ちっとも意識が戻らんし、王都はもう人が住める状態じゃなかったから仕方なく連れてきたんだ。もし王都に戻りたかったら王都まで連れてってやるがどうする?」
ん~どうするも何も、もう王都は人が住めるわけでもないらしいし、元々俺は孤児だし、スラムでゴミみたいな生活をしていたからどこに行っても一緒だしな。
「いや。王都には戻らない」
とは言ったもののこれからどうするかな……
「そうか、ならしばらく俺たちについてこい」
「へっ!?」
思わぬ言葉に変な声をだしてしまう。
「これから俺たちは大陸西部にあるサリエル王国を目指す予定だ。あの国は移民や孤児に対して寛容な国だからお前みたいな孤児でも生きていくに困らないはずだ」
その国なら今より多少マシな生活が送れるかもしれないか・・、よし
「分かったよ、一緒についていくよ」
俺の返事に笑顔を向け
「よし、俺が無事に送り届けてやるから安心しろ」
と言い頭を撫でてくる。
「まぁ、お前はまだ目が覚めたばかりだから出発は明日にする。それまでゆっくり休んどけ。いいな!」
それだけ言うとマティアスは部屋から去っていった。
俺はマティアスが去った後、まだ頭が重く本調子でないと感じ再び布団に潜り寝ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、マティアスの仲間の冒険者とカイム村を出た。その後は驚きの連続だった。
【転移魔法】を使って馬車で1日がかりの距離を一瞬で移動してしまったり、【召喚魔法】を使い、地竜を召喚して馬車を引かせたり、魔物が出て来れば強そうな魔物でも一瞬で倒してみたり、野営をする時には【空間魔法】を使い何もない所からテントや食べ物を出してみたりと今まで見たこともない事が次々とおこり俺は戸惑ってばかりだった。
「冒険者ってみんなあんな事できるの?」
俺の隣で一緒に食事をとる女魔道士のマルカに聞いてみた。
「あははは、うちはかなり特別だよ。こう見えても私たちは大陸でもトップレベルの冒険者だからね。これが普通と思うなよ」
そう言うと背中をボンボン叩かれる。なんとも豪快な女性だ。
これは後から知った事なのだがこのマティアス達はシューティングスターという名のクラン(同じ目的や思想をもった冒険者同士で作るチーム)を結成しており、このクランはわずか7人と少人数にもかかわらず大陸でも十指に入る実績を持つ軍団らしい。
ちなみにクラン:シューティングスターのメンバーは
名前 性 歳 タイプ ランク
リーダー マティアス 男 29歳 魔法剣士 アダマンタイト
サブ エドガー 男 40歳 重戦士 オリハルコン
マルカ 女 27歳 魔道士 オリハルコン
ホレス 男 32歳 軽剣士 オリハルコン
イネス 女 26歳 治癒士 オリハルコン
クレメンス 男 38歳 魔道士 オリハルコン
ミルコ 男 28歳 魔法剣士 オリハルコン
といった感じだ。
ちなみに冒険者ランクでアダマンタイトは最高ランク、オリハルコンは次点のランクだ。
しかし10万人以上いると言われる冒険者の中でアダマンタイトランク冒険者は大陸でも4人しかおらず、それだけでもマティアスがどれだけ規格外の人間かよく分かるというものだ。
そんな化物集団に守られて俺は旅を続けていた。
ちなみに移動に【転移魔法】が使えるのになぜ馬車移動も使っていたかと言うと、「私の魔力量ではこの人数を転移させようとすると馬車で1日移動出来る距離くらいしか転移出来ないからね」とは【転移魔法】を使う女魔道士マルカの言葉だ。その為【転移魔法】と馬車を交互に使用して移動していくのがこのパーティーの常らしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カイム村を出てから約1ヶ月半後、目的のサリエル王国南部にある温泉が評判の小さな村、リヨン村に到着した。
サリエル王国は大陸西部に位置する小国群の1つだ。
小国ではあるが、国は裕福で、多くの移民を受け入れ貧しい人でも生活していけるだけの素地がある国だ。
俺はこの国でしばらく生活して行くことになる。
そして、マティアス達ともここでお別れとなる。
「な~マティアス、俺、冒険者になるよ」
マティアスが旅立つ1日前、マティアスの拠点の一つの家で俺とマティアスは最後の会話をしていた。
「おお、なれなれ。冒険者は自由だ」
軽い口調で応えるマティアス。
「うん、そしてマティアスを超える冒険者になってやる。だからマティアスは俺のライバルだ」
マティアスはニヤリと笑い
「生意気なガキだ。……うしっ! この家をお前が15になるまでタダで貸してやる。それと先輩から一つアドバイスだ。冒険者になったら迷宮都市ノヴァリスを目指せ、あそこには一流の冒険者になるための必要な物がすべてある。俺を超えたければな」
それだけ言うと、俺の肩をポン叩きそのまま自分の部屋に行ってしまった。
迷宮都市ノヴァリスか……
うん、最初の目標が決まったな。
そしていずれは守りたい者をすべて守れる最強の冒険者になる。
あの少年の事が頭に浮かぶ。
旅の途中、マティアスは少年も助かって、はぐれていた両親と再会をはたし、王都を一緒に出て行ったと俺に話してくれた。しかしそれはおそらく嘘だと思う。
俺が言うのもなんだが、あの状況でとても助かったとは思えない。俺を落ち込ませない為の嘘だろう。
だからという訳では無いが俺は人を守れる冒険者になる。
子供ながらに決意した夜だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、マティアスはリヨン村を旅立っていった。
その日から俺は薬草などの採取や宿屋の仕事の手伝いをしてお金を稼ぎ、空いている時間は剣の訓練をして冒険者になる為の準備を始めた。
冒険者に登録出来るのは15歳から。それまで出来るだけ己を高める為に……
そして月日は流れ、4年半が過ぎた頃、俺はリヨン村を旅だった。
最初の目的地はウインザー王国の中西部に位置する中継都市エルセン・シティ。
そこで冒険者登録をする。道程を計算して有るので、15歳になった頃にはエルセン・シティに到着するだろう。
こうして俺は冒険者としての第一歩を踏み出したのだ。
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