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Endless.wonder  作者: 桜月


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8/16

いつまでも何度でも君を望む

タイトル決めるのが一番難しいですな。

麻木コーポレーションが中小企業の枠を突破しそうです。社員多そう(笑)

 どこで、間違えたんだろう。


 なにを、間違えてたんだろう。


 そこそこ有名な短大を卒業、中の上の企業に就職、目立つタイプではなかったのに、イケメン上司に見初められてプロポーズ。


 断る理由をあれこれ考えてる間に、外堀埋められてあれよあれよと流されて。


 21才で結婚、寿退社。専業主婦になってはみたものの。


 結婚一年目に旦那の浮気が発覚。


 一年半目で一回目の離婚の危機。

 無理矢理元サヤに収められても女の気配は消えなくて


 二年半目に再度の浮気疑惑。


 興信所を使って調べた三年目。

 四人の女と関係があったことを知る。


 証拠をそろえ、旦那に離婚を迫った三年半目。

 まともに取り合おうとしない旦那と闘う日々が始まる。


 弁護士を間に立て、条件付きの離婚届けにハンコが押されたのは四年目のこと。


 なぜか四年分の慰謝料と生活費を貰うことになり、月に一度元旦那と食事をするのが条件だと知らされ。


 元旦那はヨリを戻す気満々で。てかなんであたしにそんなにこだわるのか。


 大槻梛。とりあえず、独身に戻った25才の春。


 しばらく男はいらないとしみじみ思う。そんな結婚生活だった。


ーーなのに。


 あたしの頭には学習機能がついてないのか壊れてるのか。基本的にあたしに平穏な日々は望めないのか。

 

 日常はドラマチック? そんなわけないでしょ夢見すぎでしょ。


 ーーだけど。


 出逢いはすぐ近く、逃げられない所までーー。





 ………………なにがどうしてこうなった。


 離婚して、友人のおごりで飲みに行ったのは覚えてる。

 そこに、多分年下の男達が声をかけてきたのも。

 ナンパをするようには見えない、てかする必要なくない? て感じのイケメン達だったと思う。


 …………じゃこれはそのイケメン達の一人か?


 壁際のダブルベッド、高級感溢れる室内はホテルだろうか。

 ひかれたカーテンから光が射し込んでる。朝か。


 朝。さわやかな朝。いくら飲んで記憶がなくても二日酔いになんてならない自分の身体が憎い。

 二日酔いになっても記憶が欲しかった……!


 なんであたし裸なんだーー!?




 そんな朝から逃げ出した日から一週間。

 あたしは新しい職場での仕事をスタートしていた。

 服を着るなり逃げ出したあたしは、実は相手の顔を見ていない。

 だから、目の前で微笑んでいるこの人がそうだとしてもわからない。

「覚えていませんか?」

「……なんのことでしょう」

 秘書として上司に引き合わされたあたしと、上司の木之本部長。

 初対面なはず。はず。

 なのに、壁どんされて逃げ場なくしてキスできそうなほど近くにあるこの顔。

 見たこと、ある?

「朝起きたらいなくて、どれだけガッカリしたか。こんなことなら、連絡先を交換しておけばよかったと後悔しました」

 だらだらと、冷や汗が流れる。

「藤矢、と。あの晩あんなに呼んでくれたのに」

 もしかしてもしかしなくてもというかやっぱりあの頭はあなたですかーー!?


 アパートに帰ってすぐシャワーを浴びた。てか帰りつくまでが大変だった。腰はいたしいだるいし、身体中関節きしんでる感じだったし。

 服を脱いだ時の自分の身体を見たときの衝撃といったら!

 今まで経験のないくらい身体中につけられた赤い痕。

 キスマークってこんなところせましな感じでつけるもの!? と動揺したのは記憶に新しい。

 それをしたのがこの人だと?

「梛さん?」

「……ごめんなさい。あの夜のことは……記憶がないんです」

「……記憶が、ない」

「で、ですので、できたらお互い忘、れっ!?」

 なんで!? ここキスするとこ!?

「んっ……ぅん!?」

 やだヤバい。なんでこの人あたしの気持ちいいとこ知ってるの。

 力入らない。立っていられない。どうしてっ……!

「おっと」

 かくん。膝から力が抜けたあたしを簡単に支えて木之本部長は笑った。

「あなたのことは覚えてます。どこに触れれば感じるか。声をあげさせるにはどうすればいいか。あの夜あなたの全てに触れましたから」

 耳元でささやかれて、肩が跳ねた。

 弱いとこ全部知られてるっぽい。マズい気がする。

 記憶はないのに身体が覚えてるみたいな。怖い。

 けど、また職探ししてもここより条件のいいとこなんてそうそう見つからないし。

「逃がしませんよ?」

「……!?」

 なぜバレた!

「逃がさないし離さない。ああ、上司命令でもしましょうか? とりあえず一緒にいてくれないと仕事しません」

 なんていう脅し!

 年下なのに! 年下のくせに!

「諦めてください」

 できるかーー!!



 仕事は完璧だよ木之本部長。さすがその若さで部長なだけあるよ。海外留学してスキップしまくったのだって納得だわ。

 こんな上司ならいくらでも仕事しますよ。いい職場にあたったなぁ。

 ……と思うのは仕事中だけで。

 いや、あれ以来そういうことはないけどね?

 存在自体がエロいってどうなの。

 こちとら何年もそんなのとは無縁なわけで、そりゃもう振り回されてるのですよ。

 無視無視。仕事します、忙しいんですよ。

 おかげで離婚のあれこれも忘れて走り回ってる。

 ノックの後、書類を抱えて会議室のドアを開ける。

「失礼します」

 中に入ってお客様を見て固まった。

「梛……?」

 なんで元旦那がいるの。

「大槻と申します。ただ今木之本も参りますので少々お待ちください」

「梛」

「お掛けください、今お茶をお持ちいたします」

「梛」

「失礼します」

「梛!」

 バン! 開けようとしたドアを押さえられた。

「梛?」

「大槻です。名前で呼ばないでください」

 あたしとあなたは赤の他人です。

「俺は諦めないって言ったけどな」

「あたしにそのつもりはありません」

 距離をとりつつ答える。出入口からは遠ざかったけどしょうがない。

 しかし、田崎グループが麻木コーポレーションと取り引きがあったとは。4年の歳月は浦島太郎並だったみたいだ。

「半年後にはまた籍いれるつもりだけど?」

「お断りします」

 無駄にした4年間をさらに無駄にするつもりはない。

「渡部部長のまわりには綺麗な方がたくさんいるでしょう。あたしじゃなくても、満足させてくれる人が。一人を共有できる人達と一緒にしないでください。あたしはお断りです」

 冗談じゃない。なんのための一夫一妻制だと思ってんの。他人の女に触れた手で触られるのなんて絶対嫌。

 だから、結婚生活4年の内身体の関係があったのは最初の半年にも満たない。

 触れてこようとする手が気持ち悪くてしょうがなかった。

 拒否して逃げたあたしを不思議そうに見たあなたには理解できないだろうけど。

 吐くほどの拒絶にさすがに諦めていたけど、だからといって浮気をやめるでもなく。

 解決策のないループは延々回った。

 価値観の違いなの。

 絶対に相容れないの。許せないの。だからもう2度と元には戻らないのに。

「あなたに触れられるくらいなら死ぬか、別の人と結婚する」

 浮気しない人を探す。

「なら、その候補に僕をいれてもらえますか?」

 声と共に入ってきたのは木之本部長で。

「あなたに死なれるのは困りますし」

 スマートな仕草であたしを背にかばってくれた時には安心して座り込みそうになった。

 そして今さら気づく自分の気持ち。

 いくら酔ってたってなんとも想ってない人と事には至らないでしょう?

「梛さん? 大丈夫ですか?」

「は、はい」

「遅くなってすみません。もう一人にはしません」

 いや、仕事中にそれは無理でしょう。やりかねないけど。

「さて、まさか渡部部長が梛さんの元ご主人だとは。世間は狭いですね」

「木之本部長がお帰りだとは思いませんでしたよ。せっかくいない隙にものにしたのになぁ」

 ……ん? お知り合いですか。

「本当に。梛さんは隙だらけですが、あなたの好みとは違うからと油断しました。もうしませんけど」

 ……まさか。脈絡のない外堀埋めとかあの結婚に関する諸々は。

「……部長?」

 確認する意志が伝わったのか、木之本部長がうなずいた。

「そうです。彼は僕があなたを好きだったのを知っていて横取りしたんです。昔から僕の欲しいものを取り上げるのが好きなんですよ」

 昔から? 好き? てかいつから!?

「5年前に一度会ってるんです。覚えていないでしょうけど」

 はい、すみません。覚えてないです。

「僕があなたに一目惚れする瞬間を見られていましてね。彼の好みとは違うからと自分に言い聞かせて留学したんですが、まあすぐに奪われまして。ショックから帰国することができなくて」

 ……てことはなにか。

 元旦那は木之本部長をからかいたくて好きでもないあたしと結婚したと?

 タラシでコマシでいい加減で下半身ユルユルだとは思ってたけど、ここまでバカだとは。

 いや、それに流されたあたしはもっとバカだ。

「渡部部長」

 飄々としてる奴を見る。

「とりあえずあの離婚の条件は破棄してください。もう2度とプライベートで会いたくないし、あなたとのことはあたしの黒歴史なんで」

「……残念」

 苦笑いで肩をすくめたのを確認して木之本部長を見上げる。

「部長、続きは終業後に」

 あたしはこれ以上奴に続きを聞かせるつもりはありません。

 小さく呟くと、部長は意味がわかったのかすぐ仕事のを始めた。

 ふう、やれやれ。



「んっ……!」

 終業後問答無用で木之本部長の部屋に連れ込まれたあたしは、玄関でキスされている。

 靴も脱いでないのに。いやむしろここまで我慢したことを誉めるべきなのか。

「……ずっとこうしたかった」

 ほんの少し離れてそう言うその唇が濡れてる。なんていうかもう色気、艶? あたしより綺麗な顔が嬉しそうな、それでいて苦しそうに揺れる。

 力が抜けて膝から落ちるあたしを片腕で支えると、髪をまとめてたピンをはずされた。

「あなたがあの人に奪われた日、僕の全ては終わりました。あれからどうやって生きていたのかわかりません。けれど、3年前あなたが離婚しようとしていると聞いたとき、僕の時間はようやく動き出した。今度こそあなたに気持ちを伝えるために、僕は日本に帰ってきたんです」

 きつく抱きしめられて、耳元に聞こえた声はとても熱くて。

「あなたが好きです」

「部ちょ……」

「あの夜あなたに会ったのは偶然でした。だけど2度とないチャンスでした」

 ……ごめん覚えてない。

「今まで待ったんです。あなたが僕を受け入れてくれるまで待ちます。だから」

 そばにいてください。


 ……ちょっと待て、なに自己完結してる。

「木之本部長?」

 ぱしぱし胸を叩いて顔を上げる。効果がないのでばしばし力を込める。

「藤矢」

 名前を呼んだ瞬間びくりと震えた人の顔は見えないけど。

「なんで告白しといて返事聞かないの」

 仕事中はあんなに強気なのに、なに怯えてるの。

「嫌いだなんていってないし、イヤならキスだってしないし。そもそもたとえ酔ってたとしても心を許さない人に身体を許すわけないことくらい気づいてよ」

 あたしのこと好きなんでしょう?

「あたしは大好きですけど?」

「……! ああもう! 梛さん愛してます、僕と結婚してください!」

「……あたしバツイチだけど」

「かまいません。そんな過去は気になりません。これからの未来を僕と一緒にいてください」

「……はい。……半年後でよければ。その時に気持ちが変わってないのなら。はい、お願いします」

「変わりません、絶対に」


 その夜はものすごく全力で愛された。

 あたしが力尽きても終わらなかった。

 4年分の愛はとてつもなかったです。


 半年後、変わらないどころかそれ以上の愛でもってプロポーズされたあたしはイエス以外の返事はなく。


 流されることもなく、自分の意思で彼を愛するあたしの隣には、あたしだけを見てくれる藤矢がいる。


 もう間違えない。

 もう流されない。


 満たされた心に、さらなる幸せはもうすぐここに。

 新しい命を二人で待てるのすら愛しい。

 会えるのを楽しみにしてるの。

「ね? あたし達の愛しい宝物ーー」




ここまで想われてたら本望かなと。本望であろう、梛さんや。

渡部部長はあちこちに出張る予定の下半身ユルユルのイケメンナンパヤロウです。

仕事はできるのになぁ。

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