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Endless.wonder  作者: 桜月


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新しい恋のススメ

 その爆弾が投下されたのは始業前のことだった。

「結婚!?」

 同期の真鍋が叫ぶ。いつもならうるさいとばかりに蹴飛ばす私も、その単語に目を見開く。

「そう。結婚」

 さらっと言った本人だけが普通のテンションを保っているのがどこか変。

「俺、金澤律人は昨日入籍しました」

 けろっと言うんじゃないわよ驚いたわよ頭真っ白になったわ!!

「えーと、おめでとう。だけど俺より先ってお前……聞いてないよ?」

 真鍋は先日正式に婚約したばかりだ。相手は同期で総務の茜ちゃん。

「うん。一昨日急に決まった」

 急に? て一昨日は母親からの電話で急いで帰ったんじゃなかった?

「役所で婚姻届もらってこいって魔女に言われた。ああ、そうかと」

 説明になってないわよ、金澤。

「俺が奥さんにしたいって魔女は知ってたから。日色が就職煮詰まってるの気づいて、ハッパかけられた」

 さらりとノロケながら、金澤はパソコンでネット検索をかけている。

 結婚指輪のリサーチ? 今頃?

「そりゃまた、ずいぶん片想いしてたのな。俺はてっきり米田と……!?」

 ガツッと真鍋のすねに蹴りを入れる。余計なことを言うな。

 確かに私は金澤が好きだ。仕事ではいいパートナーだから、このままプライベートでもそうなりたいと思ってた。

 いや、もうそうだと思ってた。言われないけど金澤も私を、と。

 会社終わりに飲みに誘っても断られたことはないし、一日で一番長く一緒にいた私は、当然のように金澤のそばにいたし、まわりもそういう雰囲気だった。

 米田翠鳥(よねだみどり)26才。人生設計が狂った初夏。



 話を聞けば、お相手は年下の幼馴染みだそうだ。

 あー、失恋かぁ。

「お話し中悪いんだけどさー? そろそろ仕事しようかー」

 のんきに割って入る声。見ればうちの主任が笑ってるようで笑ってない笑顔で立ってた。

 第一営業課の有沢主任程ではないけどモテる人だ。

 真鍋はまた後でーとフィードバックしていった。奴はちゃんと営業課で仕事してるんだろうか。

「米田これ頼む」

 ファイルを受け取ってしまったと思う。

「金澤、米田借りるな」

「主任、米田俺のじゃないですよ」

「あ、そうか。じゃあ俺もらっていい?」

 いいわけあるかぁっ!!

「イヤです」

「あははは。よろしく~」

 笑ってない目で笑うのやめて。なに考えてるかわかんない人だ。



 受付からの電話に出ると金澤にお客様だった。

 会議中だから伝言残して下に降りると、可愛らしい子がソファーに座ってた。

 もしかしてあれが幼馴染みの新妻?

「失礼します」

 声をかけて前に立つ。

「金澤の同僚の米田です」

「あ、りっ……金澤がいつもお世話になっております」

 ペコリと頭を下げた彼女は、手にうちの封筒を持ってた。

 あんまり慣れてないのか、ちょっと居心地が悪そう。そうね、みんなスーツだしカジュアルにしてもオフィス仕様だもの。

「忘れたみたいなんです。渡していただけますか?」

「いえ、もうすぐ来るはずですからお待ちください」

 いい子なのね。

 なんか、ちょっと意地悪なこと考えたのが馬鹿みたいだわ。

 金澤が好きだった。告白もできなかったけど、本当に好きだったわ。

 過去にするけど、もう過去のことだけど。ちょっと悔しいなんて言えないけどっ。

「あの、りっ……いえ、金澤会社ではどんな感じですか?」

「そうねぇ、仕事に集中しすぎてお昼食べそこねたり、面倒だからそのままだったりとか、でも企画のプレゼンする時は別人でそのギャップがよくてモテる、とか?」

「……モテますかモテますよねそうですよねやっぱりモテるんですねー……」

 落ち込むかな、とは思ったけど本当に沈まれるといたたまれない。ごめん。

「そんな金澤君、こないだ真剣に結婚指輪のデザインリサーチしてたわ。いいの見つかった?」

 ボンッと真っ赤になって左手を隠す。かわいいわー。

「あれはあなた以外女に見えてないわよ。安心して」

 ポンポンと頭を撫でた所に金澤が走ってきた。慌てすぎてファイルつかんだままだわ。

「日色っ」

「あ、りっちゃん」

 幼馴染み最強ね、りっちゃん呼びか。

「忘れ物ですってよ」

「え? ああ! 助かった、ありがとな」

 甘々ね。デレてる姿を見た受付嬢が固まってるわよ。あの子金澤狙ってたもの。

 私も初めて見たしねぇ。気持ちはわかるかも。

「先に戻るわ。もうすぐお昼だし、このままランチしてきたら?」

 金澤からファイルと封筒を取り上げると、手で追い払う。

「あ、米田さん。ありがとうございました」

「いいのよ。また今度ね」

「はい」

 礼儀正しく挨拶できる。いい子よねー。反省反省、心を入れ替えて仕事します。

 乗り込んだエレベーター、ボタンを押してため息をつくと、後ろから笑い声。

「桂木主任……」

「お前ホンと俺に対して礼儀ないよねー。げって顔すんなよ」

 ちっ、最低。よりによって二人きりなんて。

 桂木大雅(かつらぎたいが)29才。もうすぐ昇任するとのウワサあり。

「してませんよ」

 しれっと言いきる。

「そう?」

 この人がモテるのがいまいちわからない。

「で……もう金澤はいいの?」

 ……だからこの人いやなのよ。わざわざ口にだすこと!?

 人があきらめようと決めたこのタイミングで!!

「主任に関係ありません」

「あるよ?」

「なんでですか」

「俺が米田好きだから」

「……は?」

 なに言ったのこの人。

 後ろに寄りかかってた主任は、私の隣で顔をのぞきこんできた。

「身も心もフリーになったんだろ? ならもう遠慮しなくていいよね?」

 覚悟してね。

 さらっとなにか言ったけど、いまいち理解できない。

 えーと。つまり。そういうこと?

「~~~~~~~~~!?」

「とりあえず、今夜メシいこうな」



 これからどうなるからわからないけど、私を見て笑うこの人が、心からの笑顔だったので、結果が出るまで見届けてみようと思う。

 私が幸せになれるかどうか、を。

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