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Endless.wonder  作者: 桜月


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14/16

お局さまだって結婚してますがなにか?

お久しぶりです。夏音さん再びです。

 4月に新入社員を迎え、研修期間を経て正式配属になってさらに一月。8月の今現在、ただひとりだけぷかぷか雲より上、さらに斜めに浮いてらっしゃる彼女が第2営業課(うち)にいるのはなぜかしら。


 単なる偶然か、それとも神という名の社長命令(まるなげ)か。風間(かざま)夏音(なつね)旧姓本間夏音28才にはわかるはずもなし。ええ、結婚してもお局さま継続中ですがなにか。




 第2営業課が私の職場。私は事務主任なんだけど、うちの課長と結婚したので、近々部署を移動することになっている。その代わりにと放り込まれたのが彼女、中西さん。


 もちろん、事務主任は私のすぐ下の別の子にかわってもらうことが決まってる。中西さんは事務員として育ててみてはいるけど、この一月成長の兆しが見当たらないことで、そろそろ決断の時期かと思われるわねぇ。



「本間さん、あのぉ」

「終わりましたか?」

「いぇ、そのぉ」

「なにか」


 ふわふわきゃぴきゃぴいつまでも学生気分が抜けないみたいだけど、パソコンでの文書作成すらできないって、どゆこと? ちなみに、仕事は旧姓使用です。


 いつでも合コン行けます、なフルメイク。髪はふんわり巻かれていて、爪もごてごてネイルでキーボード打ちにくそう。なにしに会社に来てるのかしら。結婚(きせい)相手探しよね、そうよね。


「中西さん。あなたにやってもらう仕事はたったひとつです。調べながらでもなんでもいいので、きちんと向かい合ってください」

「え、でもあのぉ、わたしぃ」

「語尾を伸ばすのはやめましょうね。社会人として、きちんとした言葉使いを覚えてください」

「いぇ、そのぉ」

「頑張ってください」


 配属先が決まらない彼女がうちに放り込まれて一月、毎日このやり取りを繰り返してるのだけど、いつになったら理解してくれるのか。そろそろ私が飽きてきたわ。てか、社長。後で絞める。かんわいい幼妻誘ってディナーに行ってやるわ、ざまぁみろ。


「本間さん。会議の資料なんですが」

「はい。んー、大丈夫。コピーお願いね」

「はい」


 もうひとりの新人ちゃんは着々と成長してるのに、この違いはなにかしら。




 去年のあのおバカさんの件以来、表面上は静かだった男性陣は、かわいい(ふっ)新人ちゃんにメロメロらしいわ。あれだけ痛い目を見たのに、喉元すぎたら忘れちゃうのね。あっついの、ダイレクトに流し込んであげようかしら。


 なんのために季節外れの人事異動なんてやったのかわからないのかなぁ。わからないのね、うん、知ってたわ。


 中西さんはぐすぐす泣きながら、わざわざ遠回りで自分のデスクに戻る。私のデスクとふたつしか離れてないのに、なぜか営業デスクまで行ってる。今ふたりしかいないけど、なにがしたいのかしら。


 いじめられて泣いてますアピールかしらねぇ。面倒だわぁ。


「本間、さん。ちょっといいか」


 さすがに課長の嫁は呼び捨てできませんか、空気も読めない男、長沢さんや。年上とは思えない残念っぷりは、去年散々披露してもらったので、もうお腹一杯ですがね。


 てか、また引っかかったの? 覚えてないの? こりてないの? どんだけチョロいの!?


「では、小会議室で。いいですよね、課長」

「ああ。中西さんも来てくれ」

「課長!」

「当事者だろう?」

「かちょぉ! わたしぃ、がんばってるんですぅ!」

「え、あれで?」

「本間!」

「……行こうか」


 いい加減学んでほしいんだけどなぁ。課長が私を野郎とふたりきりになんてさせるわけないじゃないの。




 そんなわけで会議室。

 泣く中西さんと慰めるように肩を抱く長沢さん。私と課長で向かい合う。


 長沢さんはそれを不満そうに見たけど、課長はスルー。当然だと誰もが思うことなんだけどなぁ。会議室に入る前の、うちの女子事務員達の冷たい視線に気づかなかったのか、気づかなかったのね。うん、知ってた。


 そして中西さんの不思議そうな顔。あなた、泣いてたんじゃないの? そんなに私の隣に課長が座るの変なの?


「本間、さんはどうして中西さんを苛めるんだ」


 あー、もう呼び捨てでいいよ。なんかイラつくわぁ。


「長沢さんの仰りたいのは、去年の件と同じことでしょうか」


 その言葉に、長沢さんはビクりと固まった。そうそう、そうやって黙ってて?

 私はテーブルに中西さんにやってもらった仕事を並べる。月曜日から金曜日まで。書類は7枚。


「できないわからない忘れたと言い続けるので、彼女にやってもらったのは一週間でこれだけです。ちなみに、同期のもうひとりはすでに会議の資料を作れるようになってます」


 さらに言うなら、たった一枚の書類でさえ完成はされてない。もちろん、他の誰かが肩代わりしているわ、迷惑はかけられないし。


「それすらも、頑張ってるのにできないと泣かれましたので、現在の彼女はただの給料ドロボーです」

「そんな……っ、ひどい……!」

「これほどまでとはなぁ。社長呼ぶか」

「かちょぉ! わたしぃ! ほんとぉにぃがんばってるんですぅ!」

「本間?」

「彼女が頑張ってるのは、頑張ることを、です」


 そう、彼女は頑張ることを頑張ってる。仕事を、では決してない。頑張ってる自分かわいいでしょ? 的アピールにしか見えない。ぶりっ子は男にしか通じないって知らないのかしら。


 うちの女子達からの苦情は全て課長に届いている。営業の男性からもちらほら相談も寄せられてた。誰彼かまわずすり寄るから、尻軽さん扱いされてたのよね。気づかないのは長沢さん他数人のみ。


「頑張っているのなら、仕事はこなせるはずです。できるように教えているのだから」

「おしえかた、へたくそだったんじゃないのぉ?」


 本性出てきたみたいね。脳ミソカラカラ音するんじゃないかしら。てか、どうやって就職試験クリアしたの、この子?


「あなたは、仕事中でも男性に泣きつきに行ってましたよね?」

「おんなのひとつめたいんだものぉ。わたしにヤキモチやいちゃって。ふふっ」

「仕事もしないで男に媚びてたら、そりゃ冷たくもされるでしょう。これ、証拠ね」


 タブレットには課の男性陣に声をかけまくる中西さんの姿。当然、頑張ってますアピールで課長にもすり寄ってる。ボディタッチにさらっと逃げられてたけど。


 映像を見た長沢さんは、顔色を青くした。ようやく騙されたことを悟ったようだ。遅いけどね。去年、課長が庇ってくれて(というより、他所でやらかさないように監視するためかな)残れたのに、もう無理だろうなぁ。特に手柄もなかったし。


「ていうかぁ、なぁんで本間さんがぁ、わたしにぃ、そんなこと言うんですかぁ? かちょぉはぁ、わたしがぁ好きなんですよぉう?」

「いや、事実無根。女性としても部下としてもあり得ないから」

「でしょうね」

「かちょぉ!?」


 どんだけ自意識過剰。そして発言を受け取らず打ち返す課長。なんで驚くのかがわからないなぁ。既婚者よ、課長? 


「中西さんが不倫希望だったとは思わなかったけど、本人目の前にしての宣戦布告とは恐れ入るわ。やるからには徹底的に叩き潰すけど、よろしくね?」

「ぇえ?」




 その時の私は、とてつもなくいい笑顔だったらしい。ただし目だけは笑わない仕様だったそうだけど。長沢さんが凍ったなぁ、とは思ったけど私だったか。


 キョトーンとした中西さんは、最後まで理解できなかった。さて、どうやって叩いてすり潰してやろうしらと、計画書立ち上げた時点で社長の待ったが入った。ちっ、命拾いしたわね。


 長沢さんは子会社に出向。私に謝罪して去って行った。二度あることは三度ある、見送った。やりそうよね、チョロいし。


 中西さんは縁故採用だったそうで、諸悪の根元である取引先の専務だか部長だかに送り返された。詳しく知らないのは、追撃を恐れた社長にブロックされたから。あらやだ、そんなことされても諦めないわよ? 


 乙女ネットワーク侮るなかれ。すでに追撃は最終段階、完全犯罪達成までカウントダウン。持つべきものは、頭の回転が早くて思い切りのいい友人達よね。


 社長が知らないうちに、全ては終わるわ。こんな黒いこと課長には見せられないけど。知らせるつもりはないけど、知っても課長なら大丈夫とも思うけど! 乙女のプライドとして墓まで持ってくわ。


「というか、お前はいつまで俺を課長と呼ぶつもりなんだ、夏音?」


 ん? そういえばそうね。


「名前呼ぶ前にパパ呼びはいやよねー」

「は? 夏音、それーー」

「ねぇーー」



夏音さん黒っ! な回でした。そして広がりすぎてどこまでいくのか乙女ネットワーク(笑) それでも出ない課長の名前。今回は名字出ましたー。

ブクマ登録ありがとうございます。これからも亀ですがよろしくお願いします。

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