ひとりごと
昔から人の顔が覚えられない。母も「皆同じに見える」と笑っていた。どうやら遺伝らしく仕方ないと諦めているが、たまに男女の区別さえつかないときもあって、会話すらままならないときもある。服装や顔、身体、髪色や声などで判断したり特徴を覚えるようにしたりしているけれど、深く人と関わらなければそれほど困ることはなかった。
ここでお世話になると決まったとき、正直どうしようと思った。親しくなれば顔を覚え、名前と一致させなければならない。幸いセーラムさんやゼオさん、ルーファスさんはとても特徴的で覚えやすかった。でもまだ会えていない他の人もいるし、何よりホールの接客はとても不安だ。
人に打ち明けてもあまり理解はしてもらえない。物覚えが悪いだの、頭が悪いだの、なんだかんだ言われて最終的には「努力が足りないからだ」と訳のわからない理由で片付けられる。
他人が理解できないのは仕方ないと思う。自分が体験しなければ本当に理解はできないから。わかったつもりになっていても、結局全てわかることはできないから。中には理解しようと寄り添ってくれる人もいる。でも、自分の小さな物差しに無理やり当てはめて、的外れなことを偉そうに言う人は多い。
他に理由もあるけれど、それもあって人とは関わりたくない。できることなら一人でひっそり静かに生きていたい。でも人として生きていく以上、ある程度は誰かと関わらなくてはいけないのだろう。
とりあえずやるしかない。接客してみて、どうしようもなかったらセーラムさんにちょっと相談してみよう。それでもダメなら――その時、また考えよう。




