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ごくごく普通の恋をしています  作者: あさづき ゆう
番外編

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恋にも色々ある1 - バイオレット -


 連れてこられた部屋にいたのは、国王陛下と両親、それと見知らぬ男性だった。

 国王陛下に膝を折り、頭を下げる。


「よい、顔を上げよ」


 許可をもらい姿勢を正した。久しぶりに見る両親はどことなく疲れていた。きっとわたしのせいだろうけど、それ以上の感想は出てこなかった。そのぐらい、婚約破棄の後は繋がりがなかった。


「そなたはコンスタンスの何が悪かったのか、理解できているか?」

「申し訳ありません」


 わからなくて正直に答えれば、その場にいた人たちがため息を吐いた。


「コンスタンスがあんな性格だから、仕方がないのだろうな。甘やかしたツケか」


 がっくりと肩を落とした国王陛下は一気に老けて見える。


「発言を許可してもらえますか?」

「なんだ?」

「コンスタンス王女殿下はどんな処遇になるのでしょう?」


 それだけが気がかりだった。よくわからないが、コンスタンス王女は大国ではしてはいけないことをしてしまい、婚姻を白紙にされた。表向きはそうであるが、実は国外追放の形になっており二度とあの国へは入れない。それだけの罪を本当に犯したのか、という疑問が頭のどこかに残っていた。


「わからないのなら、説明しておこう。のちの禍根になる可能性もあるからな」


 そう言って説明されたことに驚きを隠せなかった。他国の王族の王命を侵したということは、戦争をされてもおかしくないということを知った。しかもコンスタンス王女のとった行動は王太子の祝福、つまり王太子が認めていたことを否定したとみなされるようだ。


 たかが平民の婚約ぐらいで、と思ったところでようやく気がついた。大国の平民がひれ伏すのは己の国の王族のみ。まだ婚姻をしていないコンスタンス王女は大国の王族とは同列ではなかった。


「では……処刑されても仕方がないことだったということですか」

「そうだ。たまたまコンスタンス個人の資質の問題だと割り切ってくれたおかげで、こちらには責任追及されていない。コンスタンスに関しても、大国に足を踏み入れない限り、処罰内容は問わないそうだ」


 優し気な笑みを浮かべるオーランド王子を思い出し、彼ならそうするだろうなと頷いた。そして今までの会話の中で、気を付けるようにと再三注意していることにも初めて気がついた。オーランド王子にはコンスタンス王女の性格に気がついていたのかもしれない。


「それでコンスタンスだが、修道院へ入れることになった」

「では、わたしも同じ修道院でしょうか?」

「ああ、そなたは修道院ではない。彼と結婚してもらう」


 結婚?


 驚きに目を見開いた。



******


 新しい生活は穏やかに始まった。


 国王陛下の温情によって整えられた結婚相手は子爵家の次男の後妻だ。オリバーは現在36歳で、主に兄の子爵の補佐をしている。領地をあちらこちら回っている生活のためか、補佐と言いながらも体は鍛えられており騎士のように逞しい。36歳らしく、目じりには少し皴があるが、本人の持つ人当たりのいい雰囲気が年齢よりも若く感じさせた。そのおかげか、年の差は15歳もあるのだが、まったくと言っていいほど気にならない。


 先妻は幼馴染で体が弱かったらしく、子供を作らずに10年前に亡くなっていた。そこから一人暮らしをしていて、子爵家の本邸から時々彼の住む別邸の方へ手伝いがくる程度だったらしい。


 コンスタンス王女の侍女に抜擢される前は裏方の仕事をしていたため、ある程度の家のことはできる。今までこの別邸に通っていた使用人を使いながら、気負いもなく家の管理を引き受けた。

 別邸は二人で住むには十分であるが、家族で暮らすには少し手狭な大きさだ。わたし一人でも十分管理することが可能だった。それに忙しくしていた方が何も考えずにいられるので、黙々と生活感のない家をわたしが過ごしやすい様に整えた。


 わたしは今まで手付かずだった侍女であった時の給金を使って、一つ一つ物を揃えた。

 二人で使う食器、場を華やかにする花瓶、クロスには自分で刺繍を刺す。

 1年経つ頃には、居心地の良い空間に変わっていた。


 季節折々の花を飾り、夕方になれば手をかけて夕食の準備をする。


「ただいま」


 夕食を作っている時にオリバーは帰ってくる。結婚以来、よほどのことがない限り、同じ時間に彼は帰宅した。


「おかえりなさい」


 そう出迎えれば、オリバーはちょっとだけ屈んでわたしの頬にキスをした。初めは恥ずかしくて慣れなかったが、彼には当たり前のようで毎日繰り返されるうちに気にならなくなった。オリバーは初婚でないためなのか、とても自然に家族の距離を取る。その距離感は居心地がよく、わたしも自然と接することができた。


「お土産だ」

「何かしら?」


 紙に包まれたものを渡されて中を覗けば、美味しそうな菓子が入っていた。一口大の焼き菓子だ。形が整っているところを見ると、手作りではなさそうだ。


「どうしたの?」

「義姉上にもらった。なんでも今流行りの菓子だそうだ」


 流行りの菓子と聞いて、視線をオリバーの方へ向けた。彼はひょいっと菓子をつまむと口に入れる。あまりに嬉しそうに目を細めるので、驚いてしまった。


「お菓子、好きなんですか?」

「……可笑しいか」

「意外でしたけど、お好きならお茶の時にでもお出ししましょうか?」


 断られるかもしれないと思いつつ言えばオリバーは嬉しそうに微笑んだ。


「手間でなければ出してほしい。バイオレットの好きな菓子でいいから」

「ちなみに何が好きですか?」

「菓子は甘すぎない方が好きだ」


 照れながらも教えてくれる彼を見ていると、なんだか不思議な気持ちになってきた。最近よくあるのだ。オリバーと話していると、言葉にならないもやもやとした感情が出てくる。もやもやしながらも嫌な感情ではない。ソワソワしてしまって、なんだか落ち着かない。


「わかりました。これからはお出ししますね」

「ありがとう。バイオレットの作るものは何でもおいしいから期待しているよ」


 いつもと変わらない言葉。

 それなのに強烈に恥ずかしさがこみあげてきた。言葉が出ずに混乱していると、オリバーがわたしの目を覗き込んだ。突然の距離の近さに息を飲む。


「どうした?」

「あの、その……夕食を用意してきます」

「バイオレット?」


 自分がよくわからなくて、適当なことを言いながら慌てて台所へと逃げ込む。オリバーの問うような眼差しにも気がついたが、あえて振り返らなかった。

 台所に入って耳をすませば、微かに足音が聞こえた。その音が聞こえなくなって、ようやく体から力が抜けた。

 ほっとして、台所にある椅子に腰を下ろす。


「なんなの、これは」


 顔が熱い。

 両手で火照った頬を包み込んだ。冷たい手のひらが徐々に火照りを収めていく。

 夫婦になったのだから、当然夜の営みもある。穏やかな彼との生活はときめくことはないけれど、居心地がよく暖かだ。年の差がそう思わせているのかもしれないが、守られているなと感じることも多い。

 それだけでも幸せだと思っていたのに、自分の不可解な気持ちに戸惑った。


「バイオレット」


 ぼんやりとしていると、声をかけられる。慌てて立ち上がった。ゆったりとした部屋着に着替えた彼は難しい顔をしてわたしを眺めている。


「はい」

「疲れているのでは? やはり住み込みの手伝いを入れた方がいいのではないか?」


 疲れているのかと聞かれて、目を瞬いた。どうやらわたしの挙動不審の行動が疲れと勘違いさせたようだ。


「心配しなくとも日中は手伝いもいますから、大丈夫ですよ」

「しかし」


 オリバーの基準が前妻なので、大丈夫と言ってもなかなか納得してくれない。わたしも自分でも持て余している感情を素直に言うわけにはいかないのでどうしようかと悩む。


「時々、義姉上にも手伝いに呼ばれているだろう?」

「ええ」


 お茶会をしたり婦人会をするときに、わたしは本邸へ手伝いに行っていた。わたしの淹れるお茶を気に入ってくれたらしく、ここ何回か、お茶会の準備に駆り出されていた。それも気にしていたらしく、オリバーはむっつりと不機嫌そうだ。


「断っていい。茶会は義姉上の仕事だ」

「わたしの楽しみだとしてもですか?」


 楽しみ、を強調すればオリバーは黙った。しばらく沈黙が続いた後、彼は大きく息を吐く。そして大きな手でわたしの頭をわしわしと撫でた。


「無理はしないでほしい」

「わかりました」


 先ほどのような熱は込み上げてこなかったことにほっとしながら、夕食の準備に取り掛かった。



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