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ごくごく普通の恋をしています  作者: あさづき ゆう
本編

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穏やかな暮らし



 ヒューバートと結婚した後は順調だった。

 あれほど女性関係に悩まされていたにもかかわらず、結婚のお披露目をした後、ヒューバートに秋波を送る女性はいなくなった。

 その差に驚いてしまったが、ない方がいいので特に口にすることもなかった。


「いや、あれだけイチャイチャされたら、割って入ろうとは思わないだろう」


 わたしの疑問にそう答えたのはローサだ。何故かローサはわたし達の新居に時折やってくる。そしてお茶をしながら、仕事や上司の愚痴をこぼしていくのだ。ヒューバートがいる時間に来ることもあるが、いない時に来ることも多い。ローサは王族女性の警護につくことが多いので、色々な噂を知っていた。


「イチャイチャ、ですか?」


 特別イチャイチャしているつもりはない。お姉さまだっていつもお義兄さまと仲がいいし、エイル伯爵夫妻も仲がいい。

 だからとても普通だと思うのだ。独身時代と変わったところは、夜会があれば短時間であっても参加することだろうか。わたしも最小限しか参加してこなかったが、ヒューバートも最小限の参加だった。


 結婚後、爵位がないので参加しなくてもいいと思っていたのだが、騎士団の繋がりの夜会が意外と多かった。長い時間参加することは少ないが、主催者に挨拶し、ダンスを一曲踊って帰る。これを繰り返していた。

 ヒューバートは氷の騎士と言われていたのに、わたしと一緒にいるとその表情は緩みっぱなしだ。見つめる視線は熱いし、いつもどこか触っている。人の目がないと思っているのか、わざと見せつけているのかわからないが、時折、頬や耳にキスをした。


 初めのうちは恥ずかしくて、顔も上げられないほどだったがそれも次第に慣れてしまった。軽くキスをされたら、わたしもキスを返すようになった。それぐらい普通のことになってしまった。


「そんなにいちゃついてはいないと思います。キスだってちょっと触れるぐらいだから」

「すっかり慣らされてしまって……」


 わたしが首を傾げれば、ローサがため息を吐いた。


「また来ていたんですか」

「おかえりなさい」


 まだ夕方前であるが、ヒューバートが帰ってきた。慌てて立ち上がろうとするが、ヒューバートが座っているようにと告げる。


「いいじゃないか。わたしと対等に話せる相手なんてそんなにいないんだ」

「シェリー殿がいるでしょう」

「シェリーと一緒にいると噂がひどくてね」


 ローサはそう言って肩をすくめる。わたしの隣に腰を下ろしたヒューバートが嫌そうな顔をした。


「エレオノーラとの外出は許可しませんよ」

「いいじゃないか、ちょっとぐらい。女同士で軽食を食べに行くのが夢なんだ」


 ローサはにやにやしながら、ヒューバートに言う。彼は途端に機嫌が悪くなった。二人のやり取りを困ったように見ていた。


「……そういえば」


 ローサがふと思い出したように話題を変える。


「コンスタンス王女は修道院へ、バイオレット嬢は結婚したようだ」


 久しぶりにその名を聞いて、ローサを見た。ローサはいつもと変わらない噂話をしているような表情だ。彼女の顔から何も読み取ることはできなかった。


「そうですか」

「バイオレット嬢が手紙を」


 手紙、と聞いてヒューバートが怒りをあらわにする。


「ローサ殿!」

「もちろん手紙の内容はこちらで確認している」


 そう言いながら、ローサは内ポケットから手紙を出してきた。私の前に差し出された。


 封が切られた、何の変哲もない封筒。

 表に宛名も書いていない。


「わたしに、ですか?」

「受け取っても受け取らなくても、どちらでもいい。ただ単に彼女が自分のために書いたものだ」


 自分のため。


 恐らくそうなのだろうとは思う。直接会話を交わす機会はなかったが、彼女には振り回された。色々な感情を知ることになり、自分自身も見つめなおすことになった。

 わたしが手紙を受け取らないので、ローサはテーブルの上に置いた。


「気が向いたら読んだらいい。いらなかったら捨ててもいい」


 ローサはそれだけ言うと、カップに残ったお茶を飲み干した。


「では、今日は帰るよ」

「お見送りします」


 ローサはカレンだけでいいよ、と言って出て行った。残されたのはやや機嫌の悪いヒューバートと私の二人だ。


「手紙、読みました?」

「ああ」


 どうやらあまりよくない内容のようだ。どうしたらいいか、悩みながらじっと見つめた。


「読んでほしくないの?」


 そう尋ねてみれば、ヒューバートは大きく息を吐いた。


「どちらでもいい。罵詈雑言が書かれているわけでも、恨みつらみが書かれているわけでもない」

「だったら読んでもいいのでは?」


 何を心配しているのかわからない。不思議そうに隣に座るヒューバートを見た。


「……そうだが」

「それほど嫌ならば、後で一人の時に読みます」

「それもまた」


 どうもはっきりしない。ため息を吐くと、立ち上がった。


「少し庭を散策しましょう?」

「手紙はどうする?」

「あとで考えます」


 ヒューバートの腕を引っ張り、立たせると二人で庭に向かって歩き始めた。

 日は傾き始めているが外の空気は温かく、散策するには丁度いい。


 ヒューバートが手を差し出してきたので、その手を取る。

 正直手紙はどうでもよかった。彼女がどうなったかもあまり興味はない。幸せになったのならそれでいいとは思うが、その程度だ。


 彼の隣をゆったりと歩いていたが、足をとめた。


「ヒューバート様」

「なんだ?」

「わたし、幸せです。ですから、どんな言葉が書いてあっても大丈夫だと思います」


 ヒューバートがじっとわたしを見つめた。その目を静かに見返せば、彼は大きく息を吐いた。


「そうだな。気が向いたら目を通してくれ」

「わかりました」


 にこりと笑えば、彼も笑った。


 これからも大変なこともあるかもしれないし、ないかもしれない。

 でも二人で歩いていけるのなら、大丈夫な気がした。



Fin.



これで完結です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


なかなか自分でも書かないタイプのヒロインでして、しかもフライング気味に連載を始めてしまいましたが完結できたよかったです。




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