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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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73「マーゴットとクイン」①





 マーゴット・ライリート男爵夫人は、レイニー伯爵家を尋ねていた。


「――お久しぶりです、クイン・レイニー様」

「久しいな、ライリート夫人」


 クイン・レイニー伯爵は、エンジーの母マーゴットを警戒心を隠しながら上部だけの笑顔で出迎えた。

 執務室で、机を挟んでふたりは視線を合わせたまま逸らさない。

 マーゴットも貼り付けた様な笑みだ。

 どちらも表に出さないだけで、相手を注意深く伺っていた。


「昨日、エンジーがいらしていたようですね」

「さすがライリート夫人だ。すぐれた情報網をお持ちのようだ。立ち話もなんだ、座りなさい」

「失礼いたします」


 執務机から、来客用のソファーに移動しながら、マーゴットに促す。

 彼女は恭しく礼をして、クインが座った後にソファーへ座った。


「飲み物はいかがか?」

「お気遣いだけ頂いておきます」

「ははは、私は毒など入れぬよ。仮にもエンジーのお母上だ」

「仮にではなく、実際に母ですよ。クイン様にしてはあまり笑えないご冗談ですわ」

「これは失礼した。いや、なに、私もいくつか情報網を持っていてね。あなたが無辜な民に毒を飲ませたという話を聞いたことがあったものでね」

「嫌ですわ。毒ではありません、眠り薬です」

「――ほう」

「ちなみに、無辜な民ではありません。借金が払えないからと子供を売り払おうとした愚か者に、自らの身体を使って支払う様にお仕事を斡旋したにすぎません。少々、距離があったので眠っている間に職場まで連れて行って差し上げただけです」

「それはそれは親切なことだ。ちなみに、その時の子供は?」

「夫が経営に関わっている孤児院に入れました。まさか私が子供を売り物にするとでも?」

「まさか! そのようなこと微塵も考えたことはない。しかし、王都ではあなたの金貸しとしての悪い噂をよく聞くのでね」

「借りたものは返す。子供でも知っていることです。盗みは許しませんし、人としても愚かなことです。私は借したお金を取り戻しただけです。犯罪に手を染めてはいません」


 マーゴットの行動はグレーゾーンだ。

 罪にならないギリギリの一線を綺麗に守っているので、今まで追及されたことはない。


「あなたは慎重で恐ろしいが愚かではない。そのことは私も知っている。実際、あなたは昨日、我が屋敷に飛んでくることもできたが、しなかった」

「……エンジーは私の顔は見たくないと思いましたので」

「懸命な判断だ。その判断ができるのに、なぜ、彼を見守ろうとしない?」

「子供が道を誤ろうとしているのであれば、恨まれても正すのが母親の使命です」

「失敗も時には必要だ」

「それは綺麗事です。ルルウッド様は結果的に良い結果になりましたが、エンジーがそうなるとは限らない」

「良き師がいて、良き友がいて、良き家族がいる。たとえ、道を誤っても彼はいつでも正しい道に戻ることができる。我々は、見守るくらいでちょうどいいと思うのだがね」

「前回もこんなお話をしましたね」

「覚えているよ。だが、状況は大きく変わった。レダ・ディクソンの弟子となり、エンジーは大きな偉業を達した英雄となった」

「災厄の獣に関しては存じ上げています。息子を誇らしく思っていますし、レダ・ディクソン殿にも感謝はしていますが……母親として、そもそも命を賭けて英雄になどなってほしくなかったというのは本音です」


 マーゴットの嘘偽りのない本音に、クインは苦々しい顔をする。


「ライリート夫人……あなたはそこまでエンジーを想いながら、なぜそうまで執着する。あの子が人を恐れているのはあなたたちが利用したからだ」


 あまりクインも人のことは言えない。

 息子ルルウッドに、治癒士となった彼と貴族の子女を結婚させようと親心がうまく伝わらず、利用しようとしていると誤解されてしまったからだ。

 今は誤解が解けているが、誤解されたままだとしたらゾッとする。


「私も疑問はそこです。私は確かにエンジーの治癒士の力を使って金を得ました。だが、搾取したわけではない。王都で貴族を相手に金儲けをする治癒士たちよりに比べて善良的な治療費しか請求していません。得た金もエンジーの将来のために、貯めてあります」

「だが、あなたはエンジーをおいつめた。彼の能力を使い、人脈を広げて、事業を手広くした」

「それが何か? 私は私の利益を、エンジーにはエンジーの利益を、治癒を受けた方々にも決して無理強いはしたことがありません。今でも感謝されていますが?」

「ライリート夫人、あなたは悪人ではない。そのことはわかる。だが、もう少し人の心に寄り添うべきだ。エンジーは家族に利用され、友だと思っていた人間に利用されていた。心が傷つき、人を恐れ、いや嫌いになったと言っても過言ではない。そんな彼が、立ち直り、前向きに生きているのだ。邪魔をするのはいかがなものか」

「そこが誤解です」


 マーゴットは眉を顰めて訂正した。


「私はエンジーの邪魔をするつもりはありません。ただ、足りていないところを補ってあげたいのです。レダ・ディクソン殿のことは調べました。善良ですが甘い人間です。正直、ローデンヴァルト辺境伯にいい様に利用されている様にしかみえません」






 もうそろそろエンジーママとエンカウントします。



 双葉社モンスターコミックス様より「おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ~中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる~」の最新14巻が発売となりました!

 1巻〜13巻も何卒よろしくお願いいたします!


 14巻は、13巻に引き続きレダにとっての重要人物の登場です!

 ぜひ応援していただけますと嬉しいです!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
エンジーママの正体は心配性のお母様でしたかw レダさんが都合の良いように、ねえ… 本当にそうなら拷もryティーダさんの心労はもっと少なかったでしょうに(遠い目)
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