7-3
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最後にアラドとの念話でとんでもない置き土産を残していったか、と荒んだ気持ちを腕の中に収まるレスカに少しだけ心を落ち着ける。
だが、いつまでもレスカを抱き締めている訳にもいかず、離せば、名残惜しさを覚える。
対するレスカは、俺に抱き締められていた事実を思い出し改めて、顔を真っ赤にして俯いている。
「……その、すまない」
「い、いえ! ふ、不可抗力です! 大丈夫です! 明日には平気です!」
と、言うことは、一晩は引き摺るのだろうか、と思ってしまうが、突っ込めば藪蛇になりそうで黙る。
「…………」
「…………」
そして、互いに長い沈黙が訪れる中、レスカが先に口を開く。
「その、ごめんなさい!」
「レスカが謝ることはないと思うが……」
「いえ、謝ることはあるんです!」
そう言って、顔を赤くしつつ真剣な表情のレスカが俺を見つめる。
「私に【願望反映】の内包加護があって、大きな願いなんて望んじゃいけない。と思いました。でも、やっぱり世界一の魔物牧場の夢は諦められないんです。だから、コータスさんには、今まで以上に迷惑を掛けると思うんです!」
だから、ごめんなさい。とレスカは、頭を下げるが、俺は小さく吹き出してしまう。
「レスカは、世界一の魔物牧場に何を望むんだ?」
「えっと……それは、美味しい畜産物が採れる幸せな牧場ですか?」
「なら、問題ない。俺にその夢を見せてくれればいい」
もしもレスカが世界一の魔物牧場の種類に拘らないなら、軍事活用できる魔物牧場で世界一を目指すことができる。
軍用犬や軍馬、偵察のための魔物など、【願望反映】で望むままに既存のものを超える存在に進化させる可能性がある。
だが、そうした争い事を真に望まないレスカだから、【願望反映】も成されない、止める必要もない。
「レスカは、魔物牧場をやりたいようにやればいい。俺の【頑健】の加護は、そこで起こるトラブル解決に向いているんだ」
「コータスさん……」
「悪かった。夜分遅くに呼び出して」
俺は、そう言ってレスカも晴れやかな笑顔を浮かべて自身の部屋に戻っていく。
俺も色々な事実を知り疲れた。とベッドに横になるが、直前にレスカを抱き締めた柔らかさや熱、匂いを思い出し、悶々とし出す。
「……精進が足りない」
俺は、この煩悩を振り払うために、圧縮木刀を片手に外に出て疲れて余計な考えをしなくなるまで素振りを続けるのだった。
そして翌日――
完全に寝不足な中、レスカは昨日届いたエルフ絹のスカーフや手拭いをジニーやヒビキ、魔物たちに身に着けられるか、色々と試していた。
リスティーブルのルインは、体格が大きいので難しく、オルトロスのペロはレスカから貰った首輪があるので拒否した。
その代わり、暗竜のチェルナとコマタンゴの妖精のマーゴは、エルフ絹の肌触りが気に入ったのか寝床の持ち込んでシーツ代わりに敷き詰め、マーゴはマントのように羽織っている。
そんな個性溢れる様子を眺める俺にヒビキがそっと近づいてくる。
「ねぇ、コータス。あんた、昨日レスカちゃんを部屋に呼んだけど、何したの?」
「……気づいていたか」
「ええ、それはもう夜分遅くに男女が同じ部屋って、あれでしょ? むしろ、今まで良く手を出さなかったと思うわよ。むしろ、私がレスカちゃんと同じ部屋で寝たい! むしろ同じベッドで寝てパジャマ姿を堪能したい! とさえ思ったのよ!」
相変わらず、煩悩が溢れすぎではないだろうか。この賢者、と胡乱げな視線を送る。
「ヒビキの想像するような事実はない。俺は、少しアラド。真竜の知識をレスカと共に教えて貰っただけだ」
「あら、そうなの?」
そこから、ヒビキにもレスカの【育成】の内包加護について説明する。
朝の段階でレスカから確認を取ったが、最低限ジニーとヒビキには伝えることにしたらしい。
それを聞いたヒビキは、興味なさそうにしている。
「まぁ、結局は、どんな加護も使いようね。第一、人を傷つけるだけなら【剣術】の加護持ちが剣で斬る方が手っ取り早いわよ。魔王なんて生み出す必要なんて無いわよ」
「……身も蓋もない」
溜息を吐き出すが、ヒビキの言葉は、真理を突いている。
「まぁ、レスカちゃんの内包加護についてはわかったわ。ところで……本当に、なにもなかったの?」
そんなレスカの加護よりもヒビキは、二人っきりで部屋に入ったことを更に追求してくる。
「……何もなかった」
「本当に? 下心とかはなかったわけ?」
「…………」
追求され続け、言葉を窮する俺は、黙ってしまう。
そして、それを聞いていたレスカが近づき――
「もう、ヒビキさん。私とコータスさんの間には何もなかったですよ。あったとしてもこのエルフ絹のハンカチを先に渡しただけです。はい、ヒビキさんの分です」
「まぁ!? レスカちゃんが私にプレゼント! お義姉ちゃん嬉しいわ!」
鬱陶しいほどにレスカから受け取ったハンカチや手拭いを受け取り喜ぶヒビキ。
その際、追求を逃れた俺と恥ずかしいことを掘り返されずに済んで安堵し、視線を合わせる俺とレスカだが、その様子をヒビキは見逃さない。
「で、やっぱり、本当になにも無かったの?」
「「…………」」
不意打ちのように尋ねられて、互いに黙る。そして、抱き締め、抱き締められたことを思い出し、顔が赤くなるのを感じる中、救いはあるようだ。
「コータス兄ちゃん、レスカ姉ちゃん、ヒビキ姉ちゃん。今日も修行にきた!」
「ジニーが来たか。冒険者の修行を付けてやらないと」
「わ、私も朝食の準備をしないと……」
「あっ、逃げたわね! まぁいいわ。私もジニーちゃんとの魔法談義の準備を整えないとね」
新たな仲間と新たな事実を得ても、俺たちの牧場町の日常は流れていく。
そして、季節は、春を終え、雨季が近づき、夏が迫ってくる。
モンスター・ファクトリーの第三章を読んでいただきありがとうございます。
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