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3-7

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 それから数日の間は、レスカがシルヴィと共にエルフの里を見学したり、ジニーとヒビキがリエルと共に精霊魔法の習得に尽力する。

 俺は、受け取ったミスリルの長剣を鞘に入れたまま素振りをして今までの鉄の長剣との重量の齟齬を修正しつつ、レスカの手伝いや他の交易団の人やエルフたちと交流する。

 その過程で捕獲したグリンテッド・モルドは、牧場町のチーズ工房が引き取り、カビチーズ作りに役立てることになった。

 そして、10日というエルフの里との交易期間を終え、牧場町に帰るという日の夜――


「……レスカ。起きていたのか」


 なんとなく、眠れずに起きれば、外の空気を吸いに出れば、先客としてレスカが立っていた。


「あっ、コータスさん。こんばんは」


 微笑みを浮かべて会釈するレスカの隣に並び、頭を空っぽにして空を見上げる。

 森林の中にあるエルフの里の空気は、ひんやりとして肺一杯に吸い込めば、少しだけ体が楽になる気がする。

 これが美味しいということなのだろう。

 俺は、空気を吸って落ち着いたところで、レスカに尋ねる。


「なにか、考え事か?」

「まぁ、そうですね。今回のことや今までのこととか、色々……」


 そう言って、困ったような笑みでこちらを見るレスカ。

 俺は、黙ってレスカの話に耳を傾ける。


「実は、ですね。ルンヘンさんに真っ正面から鑑定されて戦う力がない。って断言された時、ちょっとショックだったんです。シルヴィさんと行動するくらいに守られる側だ。って言われて」

「そんなことはない。レスカの知識は力だし、俺がスタッグ・ビートルと対峙した時、レスカたちを守るためにペロやルインも戦いに加わってた。間接的だがレスカにも戦う力はあるさ」


 俺は、そう思っているが、レスカには嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます。コータスさんにそう言っていただけると少し心が楽になります」


 だけど、と呟くレスカ。


「でも、確かにコータスさんたちの役には立てますけど、私じゃない似た力を持つ誰かでもいいんです。だから、外に出てほんのちょっとだけ、コータスさんたちを助けられる唯一が欲しいって願ってたんです」


 欲張りですよね、と自嘲気味に笑うレスカに俺は頭を手を乗せて撫でる。


「十分、俺たちの特別だぞ。心を、いつも癒やしてくれる」

「なっ!? そ、そんな恥ずかしいセリフを平気で言うなぁ!」


 あわわっと顔を赤くして、荒い口調が出るレスカ。

 励まそうとしたんだが、少し励まし方を間違えたか、と内心落ち込み、レスカの頭から手を引く。


「もう、コータスさん、もう少し恥ずかしくない方法にしてください! いつも心臓に悪すぎます」


 そう言って、俺を残して、宿泊している一室に戻ろうとするレスカ。

 ただ、建物に入る直前足を止め――


「でも、嬉しかったので、許します。おやすみなさい」


 今度こそ、寝るために宿泊している一室に戻っていくレスカ。


「まぁ、自信を取り戻せて良かった」


 そう呟いて、俺もまた眠りにつけそうだったので、少し時間を置いて眠りに就く。


 翌朝、朝から帰り支度をする牧場町の交易団の人たちは、交易したエルフとの別れの挨拶をしている。

 俺たちもレスカにはシルヴィが別れを惜しみ、ジニーとリエルはこの10日ほどでかなり親密になったのか別れたくないと泣き、それをヒビキが慰めている。


(ああ、幼女とスレンダーエルフっ娘を両手に……幸せ……)


 慰めつつも、煩悩が見え隠れするニヤけた顔のヒビキを見て、俺も微妙な気分になる。


「ジニー! 今度は私が人間の町に行くわ! 絶対にエルフの里の外に出るんだから!」

「うん! その時は、あたしが牧場町を案内する! 約束!」


 涙を拭いて、目元を赤くしながら約束する二人。

 そんな様子を孫娘たちを微笑ましそうに見るルンヘン翁とは、目が合ったが互いに会釈をして終わる。

 そして――


「それじゃあ、出発!」


 交易団の代表であるパリトット子爵が号令を掛けて交易団が動き出す。

 エルフの精霊魔法使いたちが帰り道の精霊の道を作り出し、次々に入って牧場町に帰還し、俺たちも荷車に乗り、その後部から顔を出してエルフの里と別れを告げる。

 行きと同じように、白い靄に包まれ、開けたのは、トレントたちがアーチを作る牧場町の外の平原に出る。

 そこでは牧場町側も俺たちの帰りを待っている中に、先任騎士のバルドルがおり、俺たちに近寄ってくる。


「バルドル。留守中は、問題はなかったか?」

「ああ、とりあえず、暗竜の雛に関しては一通り片付いたって連絡が入ったから問題ないはずだ。だけど……」


 言い辛そうにするバルドルに俺は何か大きな問題でもあったのか、と言葉の続きを待つ。

 そして、バルドルの口から出た言葉に俺も目を瞑り、どうするべきか思案する。


「問題が二つ発生した。レスカの牧場の近くで気絶している身元不明の女性を発見した。十中八九、密偵だろうが、記憶喪失なんだよ」

「厄介だな。記憶を失っているって虚言の可能性は?」

「分からん。ただ発見したのは一週間前だ。目立った外傷はないが、数日絶食していたことで多少衰弱していて精神的な錯乱も見られた。今は比較的落ち着いている」


 何かの密偵同士の争いに巻き込まれた? それともチェルナを狙った複数組織との戦闘? でも外傷がないし、仲間と思しき密偵はいない。

 単独での行動は考えづらいし、仲間が密偵を見捨てたのか? 分からないことだらけだ。


「それと、もう一つ問題がある」

「まだあるのか?」

「こっちは、牧場町全体の問題だ。牧場町の各所で魔物の進化が報告されている。いわゆる――魔物の集団進化ってやつだ」


 魔物の集団進化の報告に天を仰ぐ。

 とりあえずエルフの里から帰ってきて、牧場町でも問題の解決に奔走する必要がありそうだ。


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