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3-1

3-1


 ルンヘン翁からのレスカへの頼み事は、エルフの世界樹に関わることだった。


「このエルフの里に滞在している間、少しだけ世界樹の手入れを手伝ってくれんかの?」

「世界樹の手入れ、ですか?」

「あの世界樹は、大きいがまだ若木じゃ。それをシルヴィたち世界樹の巫女たちが持ち回りで健やかに育ちやすいように手入れをするんじゃ」

「あの、それにどうして私が?」

「まぁ願掛けのようなものじゃ」


 不確かな内容に訝しむ俺や困惑するレスカ。

 だが、ルンヘン翁は、気にせずに説明を続ける。


「世界樹が若木から成木に生長する期間は、1000年とも2000年ともいわれておる。エルフによっては何世代と掛けて行う巨大事業に等しい。それの安全のための願掛けじゃよ。それにレスカ殿には、世界樹の巫女のシルヴィと共になるべく行動をして貰うついでじゃよ」


 そう言って、レスカは、目を閉じて少しだけ考える。


「わかりました。何ができるか分かりませんが、お引き受けします」

「うむ、感謝する。それと知識欲が旺盛なようだからシルヴィから色々とエルフの里について聞くといい」

「ありがとうございます」


 そう言って、俺たちの朝の話し合いは終わった。

 そのまま、俺たちは、シルヴィとリエルのエルフ姉妹と共にエルフの里の中を歩き、早速昨日は宴会に突入した荷車の整理を行う。


「とりあえず、滞在中の前半は、個人交易をしてもいいですか? 色々と持ってきたんですよ」

「ええ、構いませんよ。何を持ち込んだのですか?」


 大きな物は、代官のパリトット子爵が買い上げているが、個人での小規模交易は、文化交流としての側面があるから認められているらしい。


「この前、採れたばかりの魔物化した野菜から採れたジャガイモの一部と干しコマタンゴ、リスティーブルのミルクで作ったチーズなどです」


 そう言って、交易品として持ち込んだ品を見せるレスカ。


「うーん。動く野菜のジャガイモは、難しいですね。病気や害虫に強いですけど、動く野菜の栽培経験がないんですし、普通のジャガイモも育てています。コマタンゴの方も私たちの森でも採取できるので、どちらもそれほど必要性は感じませんね」


「私は、魔物誘因の動く野菜は、狩りの時におびき寄せる餌に使えるからちょっと欲しいかも。あと、チーズって中々食べられないから私も欲しい!」


 どうやらジャガイモとコマタンゴは、あまり人気ではないようだが、チーズは有用な交易品になりそうだ。

 とりあえず、俺が荷車から持ち込んだ交易品を降ろして指定された交易場所に運び、レスカが中心になってエルフたちと交易を始める。


 その結果――


「これとジャガイモと干しコマタンゴの交換をお願い。あと、チーズも一塊」

「私も一回分の食材とチーズを少し」

「うちも頼む。これから森に狩りに出るんだ」


 開始数十分の間、引っ切りなしにエルフたちが訪れて、物々交換を求められ、俺たちは、その対応に追われる。


「はい。ジャガイモ三つでボタン三つと交換ですね」

「その薬草は、ちょっと処理と鮮度が悪い。三つでジャガイモ一つが妥当だとあたしは思うけど、どうする? 交換成立」

「ん~。この石は何かな? ああ、宝石の原石なんだ。うーん。私、価値が分からないけど、まぁいいか。ジャガイモ五つと干しコマタンゴ三つ、チーズもオマケするから狩りが成功したらお裾分けちょうだいね」


 レスカ、ジニー、ヒビキがエルフたちとの物々交換を成立させていく間、レスカたちの後に立ち、交易品の補充や交換した物品の仕分けに回る。

 そして次第に、対応が追いつかずに、シルヴィとリエルにも手伝ってもらう中、俺の後頭部に視線が集まる。


「なんか、俺が見られているような気がする」


 俺が振り向くと何故か視線を逸らされる。やはり、目付きが怖いのか、と内心落胆するが、シルヴィが手を動かしながら答えてくれる。


「みんな、真竜様を一目見ようと集まったんですね。ただ、見るだけだと邪魔になるから交易のついでのようです」

「それに、みんなその日の食事に使う分だけのジャガイモやコマタンゴ、チーズと交換しているから明日も来るつもりなのかもね」


 そう言って、溜息を吐き出すリエル。


 とりあえず、ルンヘン翁が二人を俺たちに付けてくれなければ、チェルナ目当てで集まったエルフたちと少しトラブルに発展していたかもしれない。

 その点で安堵を覚えると共に、物々交換で集まった品を確認する。


「このペースだと今日一日で持ってきたものが全て放出しそうだが、この集まったものはどうするんだ?」


 主に、一食分の食材との交換のために小物などが多く、その中で木製のボタンなどが多い。

 それに対して、レスカが説明してくれる。


「エルフの里のボタンは、冬場の内職の一つらしいんです。色んな種類の木材で作るボタンは、牧場町に持ち帰れば、それなりの値段になるんですよ。種類分けしてみないと分かりませんけど、芸術的な木工細工のボタンは、銅貨50枚から銀貨1枚で取引されることもあるんですよ」


 牧場町では、革製や動物の角や牙で作ったボタンなどは手に入るが、様々な種類の木製ボタンを一度に手に入れる機会は、そうそう無いとのこと。


「エルフたちは、森の風通しが良くなるように伐採と森林管理を行い、その際に出た木材で木製ボタンのような木工品を作る職人もいますね」


 そう言って、レスカの説明を補足するシルヴィ。

 ただ、シルヴィは、エルフの里ではごく当たり前な木製ボタンを褒められて気恥ずかしそうにはにかんでいる。

 そして、木製ボタンを小さい木箱に集め、次に受け取ったものが多い薬草の束だ。こちらはジニーが目利きして種類と保存状態ごとに分けてある。


「あとでヒビキ姉ちゃんが仕舞ってくれる? 劣化すると困るから。後でお祖母ちゃんにも確認して買い取ってもらえばいいよ」

「い、いま、ジニーちゃんがデレた! 私のことお姉ちゃんって呼んでくれた!」

「うるさい。離れろ」


 ヒビキがジニーに抱き付くが、もはや少しずつ慣れてきたのか抵抗が弱くなってきたジニー。

 薬草に関しては、問題ないとして最後に集まったのは、狩人の男たちが交換していった石だ。


「これは、普通の石より密度が濃くて重いけど、宝石の原石か?」

「そうね。エルフの里の周辺だと川辺で翡翠なんかが多いけど、実際割ってみないと宝飾品として使えるか分からないわね」


 狩人をしているリエルが詳しく説明してくれる。翌々見れば、石の一部に濃い緑色が混じっているのが見え、翡翠の原石だと判断できる。


「エルフの里だと翡翠を掘って彫刻にする石工なんかは、里長と代官との間で高く取引されていますね」


 そう言って、里長の娘としてこのエルフとの交易で扱うものを教えてくれる。

 ボタン、薬草、小さめの翡翠の原石の他にも、食べ物の物々交換としてライ麦パンやカブ、狩りの成果のお裾分けなどを貰い、エルフの里の食材で夕食を取るのだった。

 そんなこんなで、エルフの里との交易二日目は、チェルナ見たさに集まった人たちによって持ち込んだ交易品が少しずつ捌けて一日で終わってしまった。



9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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