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2-4

 2-4:


「……朝か」


 エルフの里の交易団の一員として里に入り、一人部屋で目を覚ます。

 体を伸ばし、着替えて、建物の外に出れば、一際巨大な樹の呼気で朝露が頭上の葉っぱに溜まり、光を乱反射している。


「涼しくて過ごしやすいな。少し散歩でもするか」


 牧場町での生活に慣れて早い時間帯に起きることに慣れた俺は、そのままエルフの里を歩き始める。

 途中でみる畑や家畜としてホーンラビットという魔物を飼育しているのを見ながら、自然と荷車を牽いていた馬やリスティーブルの停められた馬小屋に足を向けていた。

 なんとなく、行く場所はそこしかないように感じたからだ。


『キュゥゥッ~!』

「おっ、チェルナか。おはよう」


 そして、辿り着くと俺の匂いを感じ取ったのか、真っ直ぐに滑空して跳んでくるチェルナを受け止めると、勝手に肩によじ登ってくる。

 チェルナの登場に送れて、レスカとオルトロスのペロ、そしてルンヘン翁の孫娘であるエルフの巫女のシルヴィが姿を現す。


「チェルナ? いきなりどうしたの? あっ、コータスさんおはようございます」

「レスカ、おはよう。どうして、シルヴィと一緒にいるんだ?」


 俺は、チェルナを追って近づいてきたペロの二つの頭を両手で撫でながら聞く。

 その間、ペロは、満足そうに目を細め、少ししてレスカの隣に戻っていく。


「朝、お会いして、リスティーブルの乳搾りに興味があるらしく見学してたんです」

「すみません。真竜様のところにお邪魔してしまい」


 ぺこりと頭を下げるシルヴィに俺は、気にしていないことを伝える。


「それと、レスカさんにさっきお話したんですけど、少しミルクを分けて貰えませんか? 代わりに朝食は、我が家の方で用意します」


 昨日のお二方も誘って、と付け加えるシルヴィ。


「それはありがたい申し出だが、いいのか?」

「はい。昨日は、私とリエルで妨げてしまったお爺さまの話の続きがありますので」


 そう言うと、俺は、何らかの重要な話があることをレスカと目を合わせて頷き合う。


「ジニーさんとヒビキさんのお二方は、リエルが呼びに行きます。先に、我が家にお越し下さい」


 そう言って、案内を始めるシルヴィに従う俺とレスカ。

 手持ち無沙汰で、レスカにだけミルク入りのバケツを持たせるのは申し訳ないので、いつものように代わりに持つ。

 そして、手が空いたレスカは、隣を歩くシルヴィにエルフの里で気になったことを尋ねる。


「エルフの里で家畜がいたのは見ましたけど、やっぱりミルクは貴重なんですか?」

「そうですね。森と共存している側面があるので、あまり広い土地を有効に利用できないので、家畜はどうしても小型の魔物になりますね」


 小型の食肉としてホーンラビット。また、森の中に入り狩猟すれば、他の食肉も手に入るし、鳥の巣を探せば、卵も手に入る。


「あとは、ホーンラビットの角を加工した鏃なども貴重ですね。あとは、ミルクの代わりとして大豆や森で採れた木の実から採れるナッツから作るもので代用してるんです」


 豆乳やナッツミルクなどだろうか。エルフの食文化は、興味深い。

 そんな俺とレスカは、ふむふむと頷き、シルヴィの話を聞いているとくすくすと小さく笑い始める。


「えっ、どうしました?」

「いえ、あなたの叔父様がこの里に交易団として参加した時、同じように説明したんですよ。だから、似ているなぁ、と思いまして」


 そう言って、懐かしそうに、楽しそうに一頻り笑い、対照的にレスカが恥ずかしそうにしている。


「その、すみません」

「いえ、こうやってお話するのは楽しいですよ」


 ニコニコ笑うシルヴィと身内の話を聞いて恥ずかしさに俯くレスカ。俺は、空いた手でそんなレスカの頭を撫でる。


「だ、だから、なんでいつも撫でる!?」

「いや、つい……」


 自然と手を伸ばしてしまいレスカに怒られたが、そんな俺たちの様子にシルヴィがまたまた楽しそうに微笑んでいる。


「お二人は、仲がよろしいんですね」

「まぁ、悪くないんじゃないかな?」


 そう言って、答えると率直な俺の答えにまた俯いてしまう。

 そうして、少しの間、沈黙が流れた後、シルヴィの案内で長老であるルンヘン翁の家に辿り着いた。


「それじゃあ、これから朝食を用意しますからお待ち下さい」

「私、手伝いますね」

「レスカさん、助かります」


 そう言って、ミルク入りのバケツを持ってシルヴィと共に台所に向かうレスカ。

 そして俺は、朝早くに起きているルンヘン翁と昨日交易団を迎えた中年エルフと対面することになる。


「あなたは、真竜様の守護者の……」

「たしか、交易団の……」

「現在、父から里長の地位を継いだシャリオンだ。まぁ、座りなさい」


 そう言って、交易団向けの笑顔ではなく普通の家庭の人間のような少し疲れた顔つきだ。


「ありがとうございます。それで、どうかされましたか?」

「ああ、昨日は、歓迎のための宴会に夜遅くまで付き合ってまして……それで少し疲れが出たみたいだ」


 そう言って、眠そうに欠伸をするシャリオン殿。


「おお、おはよう。シャリオン。それに真竜様にコータス殿。ようこそ、我が家に」


 俺が席についた後、ルンヘン翁も姿を現し、その後、バタバタと騒がしい足音と共に、妹のリエルが姿を現した。


「おはよう、お姉ちゃん! ――えっ、あたしが呼びに行かなきゃ行けないの? えー、面倒くさい。分かったわ、迎えに行くわよ」


 何やら、お遣いに不満な様子のリエルだが、姉にでも窘められたのだろうか。すぐに家の入り口から外に出て行くのが聞こえた。


「すまんな。リエルの方は、お転婆に育ってしまった」

「いえ……気にしません。慣れているので」


 ジニーの反抗や突拍子もない行動になれているつもりだから特に気にしていないことを伝える。

 そして、更に男だけの無言な空間が続き、リエルが、ジニーとまだ眠たげなヒビキを連れて戻ってきた。

 その頃には、レスカとシルヴィの朝食作りも終わりを迎える。


「朝食できましたよ。今日は、シルヴィさんのレシピで、ドングリ粉のパンケーキですよ」

「レスカさんから分けて貰ったミルクを繋ぎに使いました。どうぞ、召し上がって下さい」


 小麦粉で作るパンケーキに比べて、色が茶色っぽいが、テーブルに置かれた琥珀色の蜂蜜を掛けて食べれば、甘さと焙煎されたドングリの香ばしさが口に広がる。


「うん。甘さとほんの少し渋みの組み合わせが美味しいな」

「ドングリを使った料理は初めてだったから不安でしたけど、よかったです」

「私もお客さんにそう言って貰えると嬉しいですね」


 互いに喜び合うレスカとシルヴィの姿を見て、内心温かい気持ちになりながら、パンケーキを食べる。

 今日は、いつも以上に人数がいる食卓のために少し賑やかだが、俺やルンヘン翁、シャリオン殿は、静かにパンケーキを食べ、飲み物のホットミルクを飲みつつ静かに食べ、レスカとシルヴィ、ジニーとヒビキとリエルの組み合わせで話しながら食べていた。


「ドングリ粉は初めて使いました。それに蜂蜜ですよね。エルフの里では養蜂もしているんですか?」

「ええ、貴重な甘味として薬草の群生地近くにミッドビーの養蜂箱を作ったりしています。薬草の花から作られる蜂蜜は、薬の原料にもなるんですよ」

「ミッドビーっていうと、臆病な種類の魔物蜂ですよね。臆病で扱いやすいけど、巣分けの時に居着くことが少ないので、多くの養蜂家は、グノシスビーの養蜂をしているんですよ」

「そうなんですか。この辺りでは、グノシスビーは見ませんね。あと、採れた蜂蜜は、蜂蜜酒にしたり、秋の果物を蜂蜜漬けにして冬場の保存食にしたりするんですよ」


 そうしたレスカとシルヴィのエルフの里の畜産生物や環境関連の話を続けていた。

 もう一方の賑やかなジニーとヒビキ、リエルたちは――


「ねぇねぇ。森の外ってどんな場所なの? 何があるの?」

「うーん。困ったわね。私は、牧場町に来たばかりだから……(と言うか、異世界から来たなんて言えないし……)」

「あたし、父さんと母さんについて色んな町に言ったことあるけど、聞く?」

「ほんと! 是非、お願いするわ!」


 ジニーが牧場町に来る以前の生活や町並みなどを話し始めるとリエルが身を乗り出しそうなほど話に食いついている。

 そして、食事が終わり、食器を片付けて、食後の一杯をゆっくりしていたところで家長であるルンヘン翁が一つ咳払いをする。

 それにより、シルヴィやリエルは、背筋を伸ばし、それに釣られて、俺たちも話を聞く体勢を取った。


「さて、昨日の話の続きを使用かのう。そして、一つ、わしはコータス殿たちに謝らねばならない」


 そう前置きしつつ、交易団が滞在中のエルフの里での過ごし方の重要な話し合いが始まるのだった。



9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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