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 暗竜の雛が食べられるものを探すレスカは、雑食性ということで色んな種類の食べ物を用意しつつ、竜系の生物の飼育記録などの研究などを調べていた。

 その結果、用意された生肉や焼肉、燻製肉、野菜も生野菜、温野菜、果物、乾燥野菜、穀物、雑穀、乳製品などを取りそろえる。


 ヒビキの方も魔の森で見つけたものを用意したが、大抵狩猟の対象となる獣や魔物が倒した直後のままだった。

 これは血抜きして解体しないと食べられないので却下して、残った物が何やら動いていた。


「……ヒビキ。これは何だ?」

「さぁ? なんか、移動する先に池があって邪魔だから池の中身を無限鞄で吸い上げた時に一緒に残ってた。他の魚は、サバイバル生活で私が美味しく食べたわ」


 何とも逞しいと思う反面、余り物のこれをこの場所に出すなんて、と思い見ているとビチンビチンと体を捩るように動かしている。


「ヒビキさん、これもしかしたら新種の魔物ですよ! ナマズ系の生き物ですけど、他の種類と特徴が違います!」

「えー、ホント? 一応食べられると思うわよ。前に魔物から逃げる時の囮の餌にしたけど、毒とか無さそうだったし、一応、鞄の中には他にも何匹か生きたままいるけど、どうする?」

「じゃあ、残りのナマズさんたちは、水生系を得意とする牧場主さんに預けて一匹は試食しましょうか」


 そう言って、レスカは、自身の体の半分ほどの長さのナマズを鷲掴みにするが、体表の粘液の所為で上手くつかめずに逃げようとする。

 だが――


「ああ、逃げちゃいます。駄目ですよ。」


 容赦なく、エラに指を深く差し込み、ガッチリと掴み、引き摺るように台所に移動させる。

 その際、床に粘液が着いて汚れているが構わずに、台所まで運ぶパワフルさ。そして、エラを掴まれても逃げようとするナマズを締めるために頭に真っ直ぐに釘を打ち付け、生板の上に固定する。

 しばらくは、生きるために抗っていたが次第に抵抗も弱くなり、後は、動かなくなる。


「さて、とりあえず先に粘液を洗い流した後で捌いてみましょうか。もしかしたら、暗竜の雛も食べるかもしれませんし」


 そう言って、大量の塩をナマズの体に刷り込んでから、ピュアスライムの水と化粧水を作る時に使われるポッペゥの実を熟して腐らせて残った繊維のタワシでヌメリを落とし、完全にヌメリが無くなったところで、包丁で腹を捌き、色々と確認しながら、切り分ける。


 大体骨は取り除かれ、大きな二枚のナマズの切り身になったものを更にぶつ切りにして、少しだけ焼いて食べ、何かを考えるように目を瞑る。


「やっぱり、淡水魚特有の淡泊な味わいですね。これならあの料理ができそうです」


 そう言って、レスカは手際よくナマズの切り身を磨り潰し、そこに匂い消しの野菜などを混ぜ込み、スープの団子にしていく。

 他にも、切り身に塩コショウで味付けして、小麦粉を塗した切り身をフライパンでソテーする。

 他にも、下味をつけた切り身に小麦粉、ランドバードの卵液、そして荒く卸したパン粉の順番で潜らせたものを温めた油の鍋に入れて揚げていく。


 しばらくして、ナマズ料理が完成したのか、テーブルに並べていく。


「できました! ナマズのツミレスープに、ナマズのソテー、そして、ナマズのフライです」

「すごい。私、あんなの絶対に料理できないと思ってたのに」


 そう呟くヒビキだが、できないと思うなら何故出した、と問いたい。それを調理できるレスカの料理技能も凄い。


 暗竜用とは別に並べられた食べ物の他に新たに並べられたために、食べ盛りのジニーとペロが身を乗り出すようにして皿を凝視している。


 その頃になって再びお腹が空いたのか、暗竜の雛が目を覚まし、テーブルの上に置かれた食べ物を目にするが、卵の殻ほどのような反応は見せず、卵の殻は、まだ半分以上残っているのに食べる気配はない。


「この中には無いんでしょうか?」

「無さそうだね、レスカ姉ちゃん、でも、これ美味しいよ」


 レスカとジニーが用意したナマズ料理を食べる一方で、暗竜の雛も出された食材を一通り見ているがその反応は芳しくない。

 食べたいけど、まだ体が受け付けないと言った感じの様子を見守っていると、ジニーが俺のために取り皿に取ってくれる。


「うん。意外といけるな」


 ナマズのツミレ団子スープは、淡泊な味だが柔らかい。だが、少し魚の臭みを感じるがすぐに香味野菜の香りが消してくれるために、好きな人には好きな味だろう。

 次にナマズのソテーとフライだが、ソテーはニンニクと植物油で焼かれているために臭みも消え、ふわっとした白身のナマズの身が解れる。

 フライの方は、パン粉のカリっとした食感と簡単に解れる身にこちらも食べやすく、高温で加熱しているために臭みも気にならない。


「おいしいけど、ちょっと物足りないわ。はぁ、醤油や味噌、ソースが欲しいわ。カバヤキとか食べたいわぁ」


 早速、でき上がったナマズ料理に手を伸ばすヒビキは、よく分からない単語を使う。

 多分、ナマズに合わせる食材か何かなのだろう。郷愁の念を思い起こさせるほどの物だったんだろう。


「って私、今魔法使えるじゃん! よーし、魔法で再現して見せるわ!」

「落ち込んだり、やる気を出したりして忙しい奴だな」


 フォークを片手に拳を掲げるヒビキに対して溜息を付く俺だが、見守っていた暗竜の雛は、一つの食材に行きつく。


「牛乳ですね。けど」


 取り皿に用意した牛乳を飲もうと顔を下げても頭が重い暗竜の雛は顔から突撃して、お皿をひっくり返してしまう。

 そのために黒い鱗が牛乳の白に染まり、慌てて俺が抱き上げ、レスカがミルクに濡れた雛の体を拭いていく。


「どうやって食べさせましょうか?」

「大変だな。暗竜の子どもを育てるのって」


 皿を零してしまったことが悲しいのかピィピィと甲高い声でなく暗竜の雛をあやす俺とレスカを見て、半目で俺たちを見るヒビキは、思わぬ言葉で俺とレスカに投げかけてくる。


「なんか、コータスとレスカちゃんのそんな姿を見てるとまるで子守りをする夫婦なのよね」

「えっ、あ、わ、私とコータスさんがふ、夫婦!?」


 言われたレスカは、顔を真っ赤にして驚き、俺と暗竜の雛を交互に見る。


「こ、これはそんなつもりじゃなかったからな!」

「分かったから、とりあえず落ち着こう」


 俺は、そう言ってレスカを落ち着かせるが、互いに変に意識してしまい気恥ずかしさを感じる。


 そんな俺たちを見かねて正直に戻したのは――ペロだった。


『『グルルルッ、ワンワン』』


 双頭の頭が咆え、暗竜の雛を預けろと言うように俺の服の端を引くので、身を掲げて差し出せば、ミルクに塗れた体を一生懸命舐めていく。

 それが嬉しいのか、キュイキュイと嬉しそうな鳴き声を上げて機嫌を戻す暗竜の雛を今度は、背中に乗せて、牧場の外に駆けていく。


「おい、何処に行くんだ!」

「コータスさん、追いましょう!」


 俺たちは、暗竜の雛を背中に乗せたペロの後を追う。

 背中に乗せてもらい走るのが楽しいのか、楽しそうな声が聞こえる中で、ペロが向かった先は、牧場の牛舎であり、ペロの様子を感じ取ったのか、リスティーブルがのっそりと姿を現す。


『『ワンワン!』』

『キュイ?』

『ヴモ~』


 何かを訴えるように咆えるオルトロスのペロとリスティーブルを見上げて首を傾げる暗竜の雛。そして、溜息のような鳴き声を上げるリスティーブル。


 そして、リスティーブルの体の下にペロが潜り込み、丁度、暗竜の雛が飲みやすい位置にある乳を咥えて直接牛乳を飲み始める。

 しばらくして、リスティーブルのミルクを飲み終えた暗竜の雛は、お腹をポッコリを膨らませて眠たそうにしている。

 口には、ミルクが付いており、毀れたミルクが背中に乗せていたペロの体にも落ちているのをレスカが綺麗に拭い、抱き抱える。


「最初は、真綿に浸して少しずつミルクに慣れさせたら、ミルク粥、次にお肉とかでしょうか」


 そうして、背中を軽くポンポンと叩くと、ケフッと可愛らしいげっぷを出す暗竜の雛に俺たちは、自然と笑顔になる。


 暗竜の雛が孵り、どうなることかと思ったが、これなら少しは面倒を見れそうだった。


【魔物図鑑】


 魔女ナマズ


 新たに魔の森で発見された新種の魔物。

 長いヒゲとヌルヌルとした体が特徴的な魚で、発見時の証言では池の底に生息していた。

 その後の飼育観察の結果、体表面のヌルヌルした粘液による保湿により、陸地をある程度の距離ワーム系の魔物のように動いて移動することが可能である。

 魔物としての強さは、高くはないが、そのヌルヌルした粘液によって攻撃を逸らし、体の中に蓄えられた脂肪で衝撃を吸収することで生存性を高めていると思われる。

 雑食性でどのような環境にも生きるために天然物の味は、泥臭くハーブや香味野菜などで臭みを消す必要はあるが、養殖管理された魔女ナマズは、味は淡泊であり、カバヤキは発見者の魔女の発案で新たな料理として浸透していく。

 なお、名前の由来は、新種の発見者には命名権があるが、発見した魔女は、命名権を放棄し、観察する農家の方が、新種の発見に対する感謝と便宜上の呼称として『魔女の見つけたナマズ』から『魔女ナマズ』と命名されたという逸話がある。

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