第三クールはスライム祭り!⑦
いつもの余裕シャクシャクな魔族魔術師とは思えないくらい、見た目でハッキリ分かる程、慌てている。仲間達も怪訝な顔で、魔族魔術師を眺め始めた。
しばらくジタバタした魔族魔術師は、がっくりと肩を落とすと、戦士姉弟に向かって両腕で×の字を作って見せた。
眉がすっかり下がって、やや涙目。
「え……?グリード…?まさか…魔法が、使えない…の…?」
「マジで!?」
戦士姉弟は、ポカンとした表情だ。
そして、爆笑し出す弟戦士。
「すげー!!グリードが魔法封じられたの、初めて見た!!メッチャ困ってるし!!あはははははっ!すっげえ~!」
「笑い事じゃないわよ!回復も出来ないのよ!?…第一グリード、魔封の耐性凄い高いのに…あり得ない!」
何が嬉しいのか、弟戦士は爆笑し続けてるし、魔族魔術師は悔しそうに唇を噛んでいる。あ、ついに弟戦士の頭を杖で殴った。
…杖は、酷くないか?
魔族魔術師が使いものにならないワケだから、どんなに厳しくても、3人で何とかするしかない。
やっと笑いの止まった弟戦士も戦線復帰し、改めて3人VSスライム達のバトルが始まった。
「この金ピカのスライムだけは逃がせないわ!私に任せて!」
「 え~~~…つまんねぇのー!」
弟戦士はブツブツ言いながらも、ウィップスライムと対峙する。
一方盗賊くんは、魔族魔術師を苦しめていたミラースライムをたった今倒したところだ。地味だが、良い仕事をしている。…と言うか、第二ステージでスライムを倒せてるのは、今のところこの盗賊くんだけだ。
盗賊くんはすぐさま、残るワープスライムに鉾先を向ける。
ただなぁ…このスライムは、ぶっちゃけ微妙なんだよな…。
転移石と合成したから、レアなワープの能力を持ってるんだけど…いかんせん、攻撃力、防御力がたいした事ないんだよ。
ワープを駆使して逃げ回ってて、一撃もくらってないから、今は倒そうと躍起になってくれてるが、実は放っといてもいいくらいだったりする。
地味な頑張り屋さんの盗賊くんが振り回されてるのを見ると、何となく申し訳なく感じるが、こればかりは仕方ないか。
そして、ゴージャススライムに振り回されっ放しだった女戦士は、漸くヤツを追い詰めたようだ。
「観念なさい!!」
威勢のいい声で脅している。
「いやぁね、ゴージャススライム、傷だらけじゃないの!せっかくゴージャスなのに、少しは考えて欲しいわ!」
そしてルリ様はご立腹だ。
ゴージャススライムは、どうやら女心を激しく揺さぶるらしい。
…ていうか、女王様が二人も。
嘆かわしい。
しかし追い詰められたゴージャススライムは、一転、攻撃に転じる事に決めたようだ。
突然女戦士に体当たりをかました。
ガツっと鈍い音が響く。身体のあちこちに宝石がキラキラしているゴージャススライムは、当たると結構痛そうだ。
「~~~~っ!!」
女戦士は瞬間、メッチャ痛そうな顔をしたが、なんとか体勢を保つと、体重を乗せた重い一振りで、ゴージャススライムをついに両断した。
いやぁ、執念の勝利。
そして女戦士は、これ迄で一番いい笑顔を見せた。よほど嬉しかったらしい。
ちょっとだけ勝利の余韻に浸ったあと、女戦士はすぐさま弟戦士の救援に走る。なぜなら、ウィップスライムが思いの他強敵だったからだ。
「くっ…いってぇ!!ちくしょー!」
ウィップスライムにとって、ジャングルというフィールドは、能力を思う存分発揮出来る場所だったようだ。
乱立する樹を足場に変えて、バネのように不規則に跳ね回っては手痛いダメージを与えている。ムチと合成されただけあって攻撃力も高いし、凄いスピードで跳ね回り、上下左右から襲って来て、始末に負えない。
逆に戦士は生い茂る樹に阻まれ、剣を思うように振れていない。手出しが出来ない魔族魔術師も、さすがにヤキモキしている。
女戦士は、少しだけ弟戦士から離れた場所で立ち止まると、目を瞑って静かに剣を構えた。
モニターからは、ウィップスライムが樹々の間を跳ね回る音と、弟戦士があげる「いてっ!」「ニャロー!」といった呻き声だけが聞こえてくる。
突然、女戦士が動いた。
えっ!?
弟戦士に斬りかかった!?
反射的に避けた弟戦士の鼻先を、剣が掠める。髪の毛が数本、パラパラと落ちるレベルで、紙一重でかわしたようだ。
そしてその剣は、ウィップスライムを真芯で捉えていた。
「あ……あぶっ……」
際ど過ぎて、弟戦士は言葉が上手く出ないらしい。
「これ位は避けてくれるって、信じてたわ。良かった、期待通りで」
と、女戦士はにっこり笑う。
…姉ちゃん、スパルタなんだな…。




