第三クールはスライム祭り!⑥
「…俺、ジャングルって初めてだけど、湿気が凄いよな」
「でも、木が沢山あって、結構落ち着く」
一方スライム・ロードでは、第二ステージのジャングルを攻略中だ。
弟戦士と盗賊が簡単にジャングルへの印象を述べていた。二人はなんだかんだ仲が良さそうだ。年も同じくらいだし、元々友達だったのかもな。
彼らが進むジャングルは、鬱蒼と茂る多種多様な木で、視界が悪いのが特徴だ。
蔓を絡ませた背の高い木から、広い葉っぱをもりもりと茂らせた、背丈よりちょっと大きいくらいの木。腰下くらいを広範囲にカバーする、シダ系植物。
それを掻き分けながら、進んでいる。
温度も湿度も高いから、ところどころ霧も発生してるし、挑戦者達は滲み出る汗を滴らせていた。歩くだけで、そこそこ体力を使いそうなステージだ。
前を歩く盗賊と弟戦士の二人に、いきなり蔓のようなものが襲いかかった。
風を切る、ヒュッと言う音の直後に、バッチ~~~ン!!と、痛そうな音が響く。二人は弾かれて、倒れ込んでしまった。
「っっ痛ぅ……!」
「痛ってぇ!うわっ!最悪!泥だらけになったじゃねぇかよ!」
可哀想に、弟戦士が倒れた先は足場の悪い泥溜まりだ。底なし沼でなかったのは、むしろ幸運かも知れない。
「え…?蛇…?」
「蔓じゃなかったのか?」
女戦士と魔族魔術師が、怪訝な顔で見る先には、蛇のようにとぐろを巻いて、飛びかかる隙をうかがっているヤツがいる。
蛇でも蔓でもない。
ここには、植物系も爬虫類系も配置してないし、いるのはスライム系オンリーだからな。何を隠そう、鞭系の武器と合成したウィップスライムだ。
あ、跳ねた。
バネのように、なぜかビヨ~ン、ビヨ~ン、と伸び縮みしている。
初めて見る不思議スライムに、思わず挑戦者達も食い入るように観察。
「うわっ!来た!!」
魔族魔術師目がけ、バネを活かした大ジャンプ!!それを合図に、木の影から、様々なスライム達が現れた。
女戦士に飛びかかったのは、金色のゴージャスなスライム。
金の王冠と合成したら、金ピカでところどころに宝石が煌めく、冒険者なら一度は倒してみたいスライムになってしまった。
素材が素材だから防御力はそれなりに高いが、金目当ての冒険者達に狙われそうで、とっても心配だ。
「凄い綺麗!」
「姉ちゃん!そいつ、絶対逃がすなよ!」
戦士姉弟は、明らかに目の色が変わっている。
「そっちに行ったわ!」
「くそー!剣が振り回し辛れぇ!」
逃げ回るゴージャススライムに、いいように躍らされてるな…。
しかも、そっちを追うのに一生懸命で、他のスライム達から与えられるダメージはシカトするという徹底ぶり。
割合、残念な光景だ。
それにひきかえ、盗賊くんは真面目かもしれない。ゴージャススライムは二人に任せたとばかりに、他のスライム達と対峙している。
今戦っているのは、一角スライム。なんの角だかは分からないが、ドワーフ爺さんが持って来た武器の中にあったヤツと合成した。
盗賊くんが繰り出すナイフの攻撃を、体から飛び出した角で上手く受け、キン!キン!と小気味良い音をたてながら戦っている。
と思った瞬間、なんと角がミサイルみたいに飛び出した!
利き腕にダメージを受け、呻く盗賊くん。
面白い技だけど…それ、一発放つと角なくなってる…。大丈夫なのか?一角スライム…。
魔族魔術師のスピーディな回復で復活した盗賊くんは、丸腰の一角スライムを瞬殺してしまった。ああ…やっぱりな…。
そして、魔族魔術師も、実は珍しく苦戦している。
「くっそ、腹立つ!」
魔族魔術師の服はすでにボロボロ。さっきから何発か属性を変えては放っている魔法が、尽く反射されはね返ってくるからだ。
「あれ…ミラーガードと合成した子だね」
ゼロが呟く。そう、魔法反射の効果がある盾、ミラーガードの能力だろう。魔術師には鬼門の能力だ。
「ちくしょう!こいつはムリだ!代わってくれ!」
ついに諦めたのか、魔族魔術師が盗賊くんに話しかけた。
その時。
ふいに木の影から現れたのは、黒いスライム。そいつは魔族魔術師に軽く体当たりしたと思ったら、あっと言う間に去って行った。
「あれ…不思議玉と合成したヤツだよな」
名前も、ステータスも、スキルも、全てが謎な不思議スライム。
行動も謎だった。
「……?なんだったんだろうね?」
「ああ…たいしてダメージも与えずに行っちまったな。」
ゼロと顔を見合わせるが、もちろんワケが分からない。首を傾げつつ、またモニターに目を向けた。
モニターの向こうでは、ゴージャススライムに翻弄されて、戦士姉弟がそこそこ傷だらけになっていた。……二人がかりでどんだけ手こずってんだ?
「グリード!回復お願い!」
女戦士のお願いに、魔族魔術師はちょっと呆れたように杖を掲げ…
何故か、青くなった。




