第三クールはスライム祭り!⑤
軽いノリの魔術師に、どこまでも固いノリの侍。薙刀美少女は「兄様…」と、心配そうに見ている。
侍は宝箱に近づくと刀を抜き、立ったまま刀の鞘で宝箱を押し開ける。
「よっ!慎重派!」
茶化す魔術師。
鍵がかかっていない宝箱は、いとも簡単に開いていく。
「…鍵、かかってないんですね…」
「わー、ドキドキするっ!」
薙刀美少女も魔術師も、一心に見守る。
その時。
宝箱から何かが飛び出した。
「っっっ!!」
瞬間、侍の刀が閃く。
飛び出したものは、真っ二つになって侍の顔の両脇を掠めていった。侍は息を吐いて、宝箱を見下ろす。
すげぇ、瞬殺。
侍は宝箱の中身を見て、少し微笑むと、手を伸ばした。中に入っていた物に手を触れた瞬間、
「ぐっ…!」
苦しげな声をあげて、侍が膝をついた。
「えへへ、二段構えのトラップだよ。たまには凝った仕掛けのもあった方が、用心の幅が広がるかと思って」
ゼロは嬉しそうだが、それ、結構悪質なダンジョンへの対策だよな…。ゼロのトラップへの情熱が、これ以上無駄に高まらない事を祈るばかりだ。
「あらぁ、マスターも結構やるわねぇ」
「あ、あなたは…!何故、ここに…?」
長い髪をかきあげながら登場したリリスを見て、薙刀美少女が青ざめた顔で後ずさる。
確かに、リリスはもっと先の宝箱だらけの場所で、よく出現していた。早過ぎる…そう言いたいんだろう。
「うふふ…いつも同じ場所だと、飽きちゃうじゃない?女は意外性も大事よね」
リリスは目を細めて笑っている。
その後ろには、ユラユラと揺れる魔術師。
確実に魅了されてるよな。
薙刀美少女は、トラップの影響で麻痺して動けない侍を後ろに庇う。泣きそうな表情で魔術師を見つめた後、涙が浮かぶ瞳でリリスを睨みつけた。
「あはっ♪かぁわいい!さぁ、お兄さんを守りながら、どこまで戦えるかしらぁ」
リリスの悪役っぷりは健在だな。
「あなたの相手はこっち。私はお兄さんをいただくわぁ」
リリスに押し出され、ユラリと魔術師が前に出る。 虚ろな目で詠唱を始める魔術師を見上げ、薙刀美少女は絶望の表情をした。
しかし、そこからの行動は見事だった。
急に目に生気が宿ったかと思うと、一瞬で魔術師に駆け寄り、薙刀をクルリと回転させて柄の部分でひと突き。
あっと言う間に魔術師を気絶させてしまった。
「あら、凄い。容赦ないのねぇ」
さすがにリリスも驚いたようで、僅かに隙ができた。薙刀美少女は驚くような速さで駆け寄ると、リリスに斬りかかる。
「あっ…!」
慌てて避けるも僅かに遅く、薙刀の刃がリリスを捉えた。
「酷い…!女の顔に傷をつけたわね?」
珍しい、リリスが怒っている。確かに頬に傷ができ、血が流れてはいるが、肩から腕の傷の方が重症では…?
「ホイミン!スーパー!いらっしゃい!」
怒りに顔を赤くして、リリスは叫んだ。
「………ホイミン?」
「ヒールスライムの名前…。スーパーは…多分この前キング・ロードに配置した、スーパースライムの事だろうね」
俺の疑問に、ゼロが答えてくれた。ヒールスライム、そんな名前だったのか…。
ホイミンはともかく、リリスはもうスーパースライムまで手下にしたんだな…。侮れないヤツ。
ちっちゃい薄ピンクのスライムと、でっかいスライムが即座に参戦する。
ホイミンは、参戦するなりリリスの傷を癒し、そのまま去っていった。確か前もそうだったよな。
去り際がいつもクールだ。
「スーパー!あの子が相手よ!」
薙刀美少女を指差して、リリスが命令する。あくまでも自分は侍を何とかしたいらしい。
「くっ…」
薙刀美少女が、悔しそうに顔を歪めた。痺れがとれない侍を守るように、その前で薙刀を構えているのが健気だ。
スーパースライムは、ボヨ~ン!ボヨ~ン!と、大きく2回跳ねたかと思うと、あり得ない早さで薙刀美少女に体当たりした。
「きゃあっ!!」
吹っ飛ばされた薙刀美少女は、侍を巻き込んで、一緒に断崖から転がり落ちる。3mくらい下の出っ張りに引っかかったが、明らかに傷だらけで気絶している。
リリスが慌てて飛んで来て、むしろ心配そうに二人の顔を覗き込んだ。
「ちょっ…スーパー!?気絶しちゃってるじゃないの!!」
スーパースライムは、断崖の上から下を見下ろし(多分)、困ったように左右に揺れた。
「あたし、まだ誰の生気も吸えてないのにぃ~…!」
リリスが残念そうに呟いた。
「キング・ロードの挑戦者の皆さん、残念ですが全員気絶によるリタイアです!」
ああ…侍がどんな戦い方するのか、見たかったな。残念だ。
「じゃ、行って来ま~す」
一方ルリは、ウキウキした様子で回復ルームに向かう。妹が美少女なだけに、侍ももちろんイケメンだ。
おめでとう、ルリ。




