第三クールはスライム祭り!④
「ウインドカッター!」
ローラの可愛い声が響いた。
魔法まで!?
「良かった、ちゃんと使えてる」
ルリがホッとしたように呟いた。
「え?ルリが教えたのか?」
「違うわよ。あの子達、午前中はスキル教室で勉強してるの。冒険者達見てて、やってみたくなったみたいね。なかなかスジもいいのよ?」
知らなかった…!
そう言われて見てみると、確かに力がないから一撃は弱いけど、型も太刀筋も悪くない。ローラのウインドカッターも、風の刃の数は少ないながら、正確な軌道で目標に向かっていた。
スキル教室、役に立ってるじゃないか…!
ちょっとコボルト達に手加減感は感じるものの、立派に戦ってる姿を見ると、親心が湧いてくるのが不思議だ…。
ナギが斬り込んで敵を撹乱し、トマスが剣で渡り合う。トマスは戦闘中でも元気がいいな。「行っくぞー!」「どりゃー!」と、絶えず何か叫んでるし。
マークは戦闘中でも静か。トマスとナギが激しく動きまわるのをじっと見ていて、背後から近づく敵を意外と的確に射抜いている。
集中力がハンパないな…。
まだ子供ながら、4人はコボルト達を倒し、先に進んでいく。
カフェからは「ローラちゃん、頑張れ!」とか、野太い声援も響くが…チビ達はお客さん達からも可愛がられてるみたいだな。
街の片隅でその日のメシにも困っていた事を思えば、今はお客さんにも可愛いがられ、それなりの躾もされて、望めばスキルも学べる…悪くない環境だと思う。
このまま、素直に育ってくれるといいが。
「おーーーっと!ついに、スライム・ロード最初のボス、スーパースライムの登場だぁ~~~!!!」
柄にもなく感傷に浸っていたら、キーツの大声が耳を襲う。
…ビックリした…。
「でかっ!これスライム!?」
弟戦士の素直な感想。スーパースライムは腰丈くらいまであるもんな。
「…的がでかくて、当てやすそう」
珍しく発言したかと思うと、盗賊が酷い事を言う。まあ、スーパースライムは気にした様子もなく、ボヨ~ン、ボヨ~ン、と嬉しそうに跳ねてるけどな。
「楽しみね!」
「いっちょ小手調べと行きますか!」
女戦士は言葉と共に跳躍し、スーパースライムに斬りかかる。同時に魔族魔術師からも、大きな火球が放たれた。
大きな体から、ボヨ~ンという間抜けな音を発しながらも、スーパースライムは素早くとびすさる。こう見えても、素早さはなかなかのものだ。
女戦士の剣と、魔族魔術師の火球を、一跳ねで避けてしまった。やるじゃん、スーパースライム!
「チッ!」
女戦士は悔しそうに舌打ちすると、剣を乱舞させながら、スーパースライムを追い詰めていく。
ビュッ!ビュッ!と、鋭い音をたてて剣を右へ左へ振り回す女剣士。
一方、ボヨン!ボヨン!ボヨ~ン!ボヨっ!ボヨ~ン!と、変則的な動きで軽やかに避けていくスーパースライム。
「ああっ!ついに、魔法が炸裂しましたぁ!」
避けた先に、広範囲の火焔魔法が待ち構えていたもんだから、さすがのスーパースライムも避けきれず、炎を全身に受けてしまった。
さらに、動きが一瞬止まったところに、容赦なく、盗賊が放ったナイフが突き刺さる。
おいおい、大丈夫か?
確かスーパースライムは回復魔法は持ってないよな?
ステータスを見てみたら、HPがかなり削られている。まだ半分以上は残ってるけど、結構この調子で攻撃をくらうと厳しいよな…。
「おーっとぉ?これはどうしたんでしょうか。スーパースライムの体が、みるみる縮んでいきます!」
確かにキーツが言うように、スーパースライムは体をぎゅ~っと細めている。
次の瞬間。
体のサイズが一気にボヨ~ン!と、元に戻る。
その反動で、スーパースライムに刺さっていたナイフが一斉に弾かれ、今度は盗賊を襲った。
「うわぁっ!!」
予想外の攻撃に、盗賊はかなりの深手を負ってしまったようだ。
スーパースライムのヤツ、器用なマネを…。
間髪おかず、巨体が高く宙に舞う。
ズシ~~~~ン!!!
重低音を響かせて、巨体が女戦士目がけて降ってきた。これは…スキル:プレス…か?
「アイカちゃん!!!」
あ、ヤバい…。
女戦士が深手を負うと、魔族魔術師に魔王様が降臨してしまう…!
巨体の強烈なプレスを受けて、女戦士はぐったりと横たわっている。
魔族魔術師の素早い回復魔法で、すぐにHPは回復し「アイカちゃん…良かった…。」魔族魔術師からもホッとしたような声が漏れた。
そして同時に、魔族魔術師の体から、ブラックオーラが噴出する。
………きた!!魔王様、降臨!!
そのあとは、最早目も当てられない惨状だ。お子様には見せたくない、残虐シーンが繰り広げられる。
「ああ~~…スーパースライム……」
ゼロも涙目。
可哀想に、スーパースライム…。
ご冥福をお祈りするしかない。そして弟戦士、今回マジで空気だったな…。
魔族魔術師の怒りをかって、あえなくスーパースライムが倒された頃、キング・ロードにも新たな動きがあった。
侍、魔術師、槍手の3人パーティーは今、かなり困惑している。
断崖絶壁の細い道を進むパーティーの行く手を阻むように、道のど真ん中に、大きな宝箱が現れたからだ。
「わお。何、この明らかに怪しい宝箱」
魔術師がちゃかすように言う。
それを見たゼロが、ダッシュでキング・ロードのモニターに駆け寄って来た。
「わぁ、きたきた!今日の僕とブラウの自信作!どうなるかな~!」
うわぁ…イヤな予感だ。
「…トラップなのか?」
「あんな道のど真ん中に置いた宝箱、トラップはそりゃ仕掛けてるよ」
さも当然、という顔で答えるゼロ。
「開ければモンスター、避けて通ると……ふふっ……」
楽しそうだな…。ていうか、開けても避けても何かあるワケね。可哀想に…。
「…我が開けよう」
侍がスッと前にでる。このパーティーは盗賊がいないからなぁ。潔く誰かが開けるしか道はない。
「何かあったら、回復は任せといて!」
「…離れておれ」




