第三クールはスライム祭り!②
「ちょっと強くなってきたかしら」
「なんかスライム図鑑みてるみたいだな!色々出てき始めた!」
戦士姉弟が無邪気に笑い合う。彼らの前には今、この前合成したばかりのスライム達がわらわらと集っていた。中でもスキル低めの、可愛いスライム達だ。
「おっしゃ!じゃあ、いっちょ闘るか!」
弟戦士が剣を抜いたのを合図に、スライム達も動き始めた。
「グリードは魔法はまだよ!温存しといて!」
「リョーカイ!」
攻撃に参加しない魔族魔術師を狙って、灰色のスライムが飛びかかる。
「どいて、どいて!」
弟戦士が乱暴に魔族魔術師を押し退け、灰色スライムの体当たりを大剣で受ける。
ガキーーーーン!!!
スライムらしからぬ音がした。
プルプルボディを犠牲にして、カッチカチな体による物理攻撃と、なかなかの防御力が自慢のロックスライムだ。
弾かれたのが悔しかったのか、弟戦士に狙いを定め、ロックスライムは何度もジャンプしている。
「うわっ!?いてっ!」
何回か被弾しているようだ。
デカい石が意思を持って飛びかかってくると思うと、確かに厄介だな…。
「しょーがねぇ」
魔族魔術師が呟いたと同時に、ロックスライムの体を丸い水の球が包んだ。出られずにもがくロックスライム。
「10秒たったら水球ごと斬れ」
言い置いて、魔族魔術師はさっさと向こうへ行ってしまった。弟戦士はポカンとした表情でその背中を見送った後、悔しさをぶつけるようにロックスライムに刃を向ける。
ズバッと横に一閃。
今度は真っ二つに切れてしまった。水分を含んで、すっかり柔らかくなってしまったらしい。スライムの母とも言える水分が弱点になるとは、何と言うか…皮肉なもんだな…。
「んもう!何なの!?このスライムの大群はっ!ジャマなのよっ!」
弟戦士がロックスライムに手間どっているうちに、あちこちからスライムが集結して来ていたようだ。パーティーの周りには、色とりどりのスライム達が跳ねている。
あっちから炎が、こっちから稲妻が、水が、小さな竜巻が…。各々の威力は大きくないのに、次々に放たれるスライム達のプチ魔法に、パーティーはすっかり翻弄されてしまっている。
「くそっ!ちょこまかと!」
盗賊が悔しそうに叫ぶ。
数が多すぎて、的を絞りにくいんだな。
「デカいの一発、ぶっ放そーかぁ?」
魔族魔術師が物騒な事を言う。
「大丈夫よ、見学してて!」
「見てろったってなぁ…。ヒマだしぃ~…何このもぐらたたき状態」
魔族魔術師の言葉に思わず吹き出した。
確かに…!!
あっちこっちでピョンピョン跳ねるスライムを追っかけては、1体ずつ叩いていくその姿…!まさに…!
カフェからも爆笑が聞こえてくる。
まさか攻撃力も可愛いスライム達を集めた、のどかな第一ステージで、こんな面白い光景が繰り広げられるとは!
頑張れ!スライム達!
スライム・ロードだけを見てると腹筋が壊れそうだし、少し他のダンジョンを見てみるか…。
おっ!キング・ロードに、一目で異色さを感じる挑戦者が。さすがにキング・ロードに挑戦するくらいのレベルになると、職業も多種多様だな。
侍:男:レベル27
魔術師:男:レベル25
槍手:女:レベル20
「わぁ!刀に薙刀って、こっちに来てから初めて見たよ。防具も何となく着物っぽいかも…!」
ゼロは何だか嬉しそうだ。
ゼロが刀、薙刀と言った武器は、細身だが僅かに刀身が反っていて、切れ味は鋭そうだ。
さて、どんな戦い方をするのか…。
早速うちのダンジョンモンスター達とエンカエウント。すると、薙刀を持ったサラサラ黒髪ストレートの美少女が、すっと前に出る。
「兄様、ここはお任せを」
袖を紐で捲って、キュッと鉢巻。
勇ましいけどな。
薙刀美少女は、軽く地面を蹴ると、一瞬で間合いを詰めた。
素早い!
俊敏なワイルドキャットを一撃で倒し、断崖絶壁の足場の悪さをものともせずに、崖の小さな突起を利用して駆け上る。
跳躍したかと思うと、薙刀の長いリーチを活かして、グレートイーグルに切りかかった。
翼を痛め、地に落ちるグレートイーグル。鳥類を通常武器で仕留めるとか、すげぇな。
「ハッ!」
薙刀の一振りでとどめを刺し、一礼。
「お見事!」
仲間の魔術師が拍手する。
刀を差した侍が、無言で薙刀美少女の頭をナデナデすると、薙刀美少女は本当に幸せそうにほほえんだ。
見ているこっちも「良かったね」と言ってやりたくなるくらい、いい笑顔だ。




