メンテナンスします!⑤
ありがたいカエンの言葉と共に、その日の会議は終了した。
会議が終わって、カフェで新作スイーツの試食をしていたら、アライン王子とユリウスがやって来た。
…もうそんな時間だっけ?
「わ、美味しそうなの食べてるね!食べてもいい?」
キラキラした笑顔で駆け寄って来る、アライン王子。相変わらず、王族の自覚は少なめのようだ。
今日はフルーツカスタードトライフル。長ったらしい名前だが、フルーツとスポンジケーキを見目よく盛り付け、カスタードと生クリームで飾ったシンプルなスイーツだ。
ホント美味しいから、是非食べて欲しい。
「はしたないですよ。アライン様」
言いつつ、自分も食べる気満々のユリウス。しばらく会ってなかったけど、変わりないようだな。
「お、美味だな」
「ん、美味しい!!」
良かった。舌の肥えた人達にも好評だ。
美味しいものを食べながらだと、話も弾む。アライン王子はニコニコの笑顔で、なかなかの難題を切り出した。
「今日来たのはさ。お願いがあって、なんだけど」
「あ、カエンが…3つくらい話したい事があるって、言ってた…?」
ゼロが思い出したように呟くと、アライン王子は「そうそう」と、軽い調子で相槌を打ち、ウインクしながら顔の前で人差し指を揺らす。
「1ヶ月後くらいに武闘大会開きたいってのが一つ目ね」
ああ、前に言ってたヤツな。
「今から国中に公布して、出場者を募るんだけど…。あとの二つのお願いは、その一環なんだよね」
俺もゼロも、頷きながら大人しく聞く。
「騎士は強制参加。兵士と一般からは希望者を募って、最強を決めようかと思うんだけど」
「騎士だけ強制参加って、何か理由があるんですか?」
「この国ってさ、冒険者はもちろん、騎士も結構人気あるんだよ。それなりに実力もあって、鎧もカッコいいし、顔もまあ良いヤツが多いからね。ハッキリ言って人寄せ」
さすがアライン王子。抜け目ない。
「二つ目はね、その騎士と兵士を出来るだけ鍛えて欲しいわけ」
「情けない闘いをされると、威信に傷がつくからな」
アライン王子の説明に、ユリウスも言葉を足してくる。
騎士や兵士の皆さんが可哀想だとか、ちゃんと自分達で鍛えて欲しいとか、言いたい事は色々あるけど…ナギやローラ達によると、ストリートチルドレンはまだまだいるらしい。
財政を立て直すためにも、きっとゼロは協力を惜しまないだろう。そう思ってゼロを見たら、何やら考えこんでいた。
「……ゼロ?」
「あ、ゴメン。範囲がどこまでなのかと思って…。あの、今回の武闘大会って、魔法はありですか?」
…確かに。それによって、対策の範囲が大きく変わってくる。
「魔法か。一対一なら、魔法を発動する暇がないんじゃない?あんまり考えてなかったなぁ」
「いや、慣れてたりレベルが高いと無詠唱でもいけるし、特に冒険者とかは魔法戦士も多いから、結果は相当変わると思う」
アライン王子の楽観的な意見に、冷静にダメ出ししてやった。第一ウチのダンジョンに挑戦してる冒険者だって、それ位はやってのけるぞ。
なんたって、モンスターは人間よりも素早いヤツも卑怯なヤツも多い。冒険者だって対処せざるを得ない。
アライン王子とユリウスは、顔を見合わせている。申し訳ないが、たかだか一ヶ月で魔法にまで対策を打つのは厳しいと思うな。
「とりあえず、第一回の武闘大会は、魔法抜きにしません?」
俺から提案すると、二人は安心したように頷いた。例えば今回は武闘のみ、次回は魔法のみ、その次は総合…とか、やり方を色々変えて見るのも面白いかも知れないし。
「魔法なしなら、色々な武器とか格闘系に対処出来るように、ってのが基本ですよね」
ゼロもホッとしてる。
ただなぁ…。マジで困ったぞ?
「しかし、どうするかぁ~。確かにスキル教室はやってるけど、講師達は初心者の鍛錬専門だからな。熟練冒険者レベル程の実力はないしな」
「だよね…。かと言って、冒険者達に講師になって貰うワケにもいかないしね」
ダメだ。今すぐにはいい案が浮かばない。これは宿題にさせて貰った。
「じゃあ、最後のお願いね」
気を取り直して、アライン王子が最後の難題を口にする。
「参加希望者が多かったらの話なんだけど…武闘大会の前に、冒険者と兵士は、予選会をやりたいんだ。ここで」
確かに1日で出来る試合数なんて、たかが知れている。武闘大会を何日開催するつもりかは知らないが、どっちにしたって、観客が飽きない程度には抑えないとダメだよな。
「それは全然大丈夫です!もし予選会も集客するとしても、耐えられるだけの設備もあるし」
「だな。むしろ、武闘大会前に小規模でやれれば、問題点とかも早めに対策出来るしな」
俺達の「任せて下さい!」に、アライン王子もご満悦だ。 嬉しそうにニコニコしている。




