メンテナンスします!④
昼メシ後は定例の会議だ。応接室に集まって、この5日間の振り返りを行う。メンバーは前回と一緒。スラっちがいないだけだな。
「じゃあ、会議を始めます。いつもの流れで…オレンジ、カフェから報告してくれる?」
ゼロが口火を切ると、いつものごとくオレンジが元気よく立ち上がり、話し始める。
「はい!カフェは問題なしです!ダンジョン外での買い出しも順調です!」
「もちろん私めも絶好調でございますよ!」
「だね。いい感じだと思うよぉ」
ピアノ担当のイナバと司会のキーツも言葉を添える。
「二人は女の子達からプレゼント貰えるくらい馴染んでます!本当に順調ですよ!」
オレンジの言葉に、俺は一瞬固まった。
マジで?
プレゼントなんか貰っちゃってるのか…。
羨まし過ぎる…。
イナバは得意満面だが、キーツは申し訳なさそうだ。ここは触れないでおこう。
羨ましいが!
「じゃ、次はダンジョンの店ね」
ゼロに促され、店代表のホビットが立ち上がる。
「問題っちゅう問題じゃねぇんだが、炎だの雷だの特殊効果がある武器目当ての挑戦者が増えたんだぁ。ドワーフのじいちゃん達も頑張ってっけど、おっつかねぇなぁ」
「そっかぁ…」
ゼロは考えこんでいる。ドワーフを増やすかどうか、考えてるのかも知れない。
「まぁ人気はあるだろうが、量産すんのは、あんまり勧められねぇけどなぁ」
ゼロの考えを見越したように、カエンが釘をさした。
「えっ?どうして?」
「そういう便利な武器に頼り過ぎると、本当の実力があがらねぇからなぁ。まあ、稀少価値がある程度に作る方が賢明だぜぇ?」
なるほど。そうかも知れない。
ゼロも大きく頷いている。
「そっか、そうだよね。元々駆け出し冒険者を鍛えるためのダンジョンなんだもんね。あんまり強力な武器、手軽に買えちゃダメだよね」
さすが年の功。カエンの一言で、ダンジョンの店の品揃えは、増やし過ぎない方向で決着がついた。
話が一段落したところで、ホビットが何か包みを取り出す。
「そう言やぁ、今回も届け物があるんだぁ。ハクと、あと…こっちはグレイに、って言ってたなぁ」
「おーーー!!出来たか!!」
「試作品だから、まだ特殊効果はついてねぇってよぉ。それでとりあえず慣れとけって言うんだぁ」
「分かった!」
練習出来るだけでも、充分嬉しい!
ドワーフ爺さんに感謝だ!
「おっ!あの時話した武器かぁ!?あとで俺様にも見せろよ!!」
カエンも興味津々だ。
ああ!早く見たい!使ってみたい!でも、今はガマンだ。会議は大事だからな、集中、集中…。
「次、ご褒美ルームとスキル教室ね」
今度は知的美人エルフ、ミズキが立ち上がる。
「ご褒美ルームは前回同様、問題なしですわ。スキル教室は格闘講師としてグレイさんが入って、かなり生徒も増えましたわ」
うん、順調だな。
「それで、前回お願いした通り、講師を補充して欲しいんですわ」
ミズキが申し訳なさそうに訴える。
「そうだよね。あとは、格闘、斧、棒、銃…が、必須だったよね?」
「はい。スキルは複数ある方が望ましいですが…」
「分かった。明日、召喚するね」
ゼロは二つ返事で請け負って、最後にカエンを見た。
「カエンは何かある?アライン様はこの後来るんだよね?」
「ああ、3時くらいに来るって言ってたぜぇ。あと、ちっとギルドの方で気になる動きが出てきたなぁ」
「えっ…」
ゼロも驚いているが、俺も予想外だった。ぶっちゃけギルドはノーマークだ。
「いや、問題って程じゃないんだがな。観客が多いだけに、街で相当噂になってるみたいでなぁ。他のギルドに所属してるヤツが、自分達もチャレンジ出来ねぇかって聞いてくるんだわ」
それは…あの血の気の多そうなギルドマスター達は、面白くないだろう。 確かに気になる動きだ。
「ま、今んとこは断ってるから、大丈夫だけどなぁ。ま、気配情報ってヤツだ」
「そっ…か…。さっきの効果付き武器にしても、そういう意味でもやり過ぎない方がいいかもね」
ゼロの言葉に、ルリは小首を傾げた。
「どういう意味よ。武器となんか関係あったかしら」
ルリの怪訝な表情を見て、カエンは「やっぱ、こういう所は、ガキでも人間の方が察しがいいなぁ」と失礼な事を言いつつ、笑っている。
当然ルリもゼロも、ムッとした顔だが…それくらいでカエン様の笑いは収まらない。気が済むまで笑った後「ま、極力目立たねぇようにしてくれよ?程々が一番だ」と妙に人間くさい事を言うカエン。
「やっかみ程面倒なモンはねぇからなぁ。ここにだけある武器。訓練施設。王室のバックアップ。妬みのタネは今でも充分過ぎる。これ位にしとけ」
含蓄がある。
さすが、王室の守護龍ともなると、人間の心の機微にも精通してるんだな。




