第二クール、スタート!⑨
「なんかもう、可愛い光景じゃない?」
「それで、引き離すの可哀想だねって、話してたとこ」
「スライム達、リリスが大好きなんだね!」
ルリ、ゼロ、ユキが、口々に状況を説明してくれる。うん、今日もダンジョンは平和だな…。
楽しそうな3人を見ながら、今度こそ俺は眠りについた。グレイ、熱血イケメンを引き取ってくれて、ありがとう…!
グッスリ眠って爽やかな目覚め。
見ればゼロも寝転がって魔道書を読んでいる。これは…聖魔術の魔道書だ!
「それ…聖魔術の魔道書だよな…。ありがとな」
「あ、おはよう、ハク。…マジで聖魔術、結構手強いね。何日か、かかるかもだけど、頑張るからね」
ゼロの笑顔が神々しい。俺、爆睡してたのに…。ホント、申し訳ない。
「ゼロ様は本当に勉強熱心ですな。さ、お好みの温めのアップルティーです」
静かにベッド傍にティーカップをおき、グレイはゼロに柔らかく微笑んだ。
「ハク殿は夕食後に特訓ですな」
う…そうですね…。
グレイの笑顔がちょっと怖い。今夜はめっちゃしごかれそうだ…。
カエンも帰って来て、皆で晩メシ。
今日はカツカレーとシーザーサラダだ。
男の人数が多くなってきたからか、この頃はガッツリ系のメシが多くて、個人的に嬉しい。この後修行だしな。
「今日、レイがプリンス・ロードに挑戦したらしいなぁ。ギルドでも噂になってたぜぇ?」
カエンが、早速レイの話題を持ち出す。
さすがに情報が早いな。
「へぇ、どんな?」
ゼロが興味津々の顔で続きを促した。
「あいつ、すげぇ勢いでレベルアップしてるからなぁ、ギルドでも注目株なんだよ。でも今日はもっぱら格闘スキルと炎の剣の話題だったぜぇ?お前ら、面白ぇモン、売ってんじゃねぇか!」
「ああ、あのドワーフ爺さんの試作品か」
「はぁ!?試作品!?」
思わず漏らした俺の言葉に、カエンは激しく反応した。
「ギルドのヤロー共、買う気満々でダンジョンに挑戦するって言ってたぜぇ?なんか炎が飛んで、火炎魔法みたいだって…」
ヤバい。誤解されてる。
「あれ、今んとこ多分、炎纏った剣なだけだぞ?レイの放った衝撃波に、炎が乗って飛んだだけだと思うけど」
俺の指摘に、ゼロもうん、うん、と頷く。
「マジでか!」
「衝撃波使える人なら、同じ効果出せるかも知れないけど…ねぇ…保証は出来ないな」
そう言って、ゼロも難しい顔でう~んと唸っている。
「ああ、ギルド員には事実を伝えた方が良いと思うぜ?」
「うわ~ヤツら、ガッカリするだろうなぁ。気が重いぜぇ」
珍しく頭を抱えるカエン。どれだけギルド員の期待が大きかったのかが偲ばれる。なんとなく申し訳ない気持ちでいたら、カエンはあっさりと「ま、いっか」と顔をあげた。
「衝撃波が使えりゃあ、やりようで炎飛ばせる可能性はあるしな。腕次第、って方が良いのかも知れねぇな」
さすがカエン。なんとも前向きだ。
それからひとしきり、今日の踊り子お嬢様ご一行の事や、スライム・ロードの話で盛り上がった。
楽しい晩メシの後は、本日の修行だ。
今日はゼロが聖魔法に集中するため、カエン、グレイ共に手が空いている。
チャンスだ。
実は、新しいダンジョンでボスデビューするにあたり、考えていた武器がある。
二人に助言を貰えたら、凄いのが出来そうな気がするし、ドワーフ爺さんも含め4人で話す時間がとれるのはラッキーだ。正直武器に関しては、実戦経験が少ないゼロだと、使い勝手とかは分からなそうだしな。
その夜は男4人、近距離も中・長距離もいける、攻撃にも防御にも優れ、戦闘の見栄えも良い、夢の武器について語り合った。
それを作れるか、作れたとして使いこなせるかは別として、こういうのは考えるだけで楽しいしな!
途中から何故か酒盛りになり、出来そうもない事も含めて盛り上がる。
週明けだというのに、俺達はその日、明け方までベロンベロンになりながら語りあった。翌朝ゼロからは激しくすねられ、ルリには正座で説教をくらう。
…くそぅ、ルリめ…!
男のロマンが分からないヤツ。
グレイという新たな仲間を得て、ダンジョンオープン2週目は、少しだけ余裕もできた週となった。
毎日挑戦者を受け入れつつも、レイの訓練に充てていた時間を使って、ゼロと一緒にスライム・ロードを整備したり、魔法の訓練をしたり、グレイからスキルを習ってみたり、忙しくも充実した日々。
俺は、ボスデビューに向けて、毎日確実に成長している!




