第二クール、スタート!⑦
「あれ?お師匠様、行かなくていいの?」
「ルリに任す。」
ゼロが驚いた様子で俺を見てくるが、俺は行く気はない。…俺なら、負けた直後に師匠から介抱されて目覚めたらイヤだしな。
踊り子お嬢様ご一行を見守る事にするよ。
「なぁ、あの宝箱、何が入ってるんだ?」
かれこれ本当に1時間程、盗賊は地味~に頑張っていた。これでちゃちい中身だったら、本気で泣いてしまうかも知れない。
「う~ん…中身は結構凄いよ?」
なんとなく引っ掛かる言い方だな。
しかも、このエリアでよく出没するリリスも、今日は姿を現さない。
盗賊の静かな格闘を見守るだけで、さすがに飽きてきた。ちなみに、プリンセス・ロードの挑戦者達は、とっくにゴールしている。
その時。
「開いた!!」
盗賊の嬉嬉とした声があがる。
「ああん!待ちくたびれましたわぁ!」
踊り子お嬢様が宝箱の蓋に手をかけた。
「ダメです!」戦士が止めるが、もう遅い。蓋が開くと共に、何かが飛び出して来た。
踊り子お嬢様をとっさに突き飛ばした戦士は、身代わりに「何か」を全身に浴びてしまった。
何だ…?あれ…?
ドロドロの液体のようにも見えるが…動いてるよな…?
「あはっ♪ 捕まえたぁ♪」
突然、リリスの楽しげな声が響く。
もがく戦士に気を取られていたら、何時の間にかリリスが参戦していたようだ。
リリスの前には、ゆらりと立つ魔術師。
「やっちゃって!」
リリスの指示と共に、魔術師の周りに石ころが浮かび、ビュンビュンと飛んで、仲間達を襲いだす。
「いてっ!痛いって!」
「ああっ!痛いですわっ!?」
いつも体を張って踊り子お嬢様を守っている戦士が、なんだかドロドロしたものに囚われているせいで、踊り子お嬢様までダメージを受けているようだ。
スラっち見た後だと、パッとしない魔法みたいに見えるが、全体魔法だし、実は難易度高めの魔法かもしれない。
リリスは「よく出来ました♪」と褒めてから、魔術師から精気をすう。
「キング・ロード、ここで魔術師:リコーロさん、リタイア~!警戒虚しく、リリスの餌食となりましたぁ~!」
キーツの容赦ない解説が入った。
イナバの奏でるピアノの音が、ムーディーなものに変わる。
リリスが出るといつもこの怪しい曲だな。
「出たな、ハレンチ娘。今日はどんなスライムを連れてきた」
格闘家がリリスを睨みつけると、リリスは華やかに笑ってみせた。
「うふふ、今日はスライムちゃん達じゃないわ。そこの可愛い子がお気に入りだった、ケットシーとハイピクシーを連れてきてあげたの」
その言葉に、踊り子お嬢様は目をキラキラと輝かせている。
「まあっ!あの時のフェアリーさんと、長靴を履いた猫さん!また会えて嬉しいですわ!」
それを苦々しい表情で見る格闘家と、泣きそうな顔で絶望している盗賊。
「なんと鬼畜な…!」
「リリスちゃん、可愛いのに、えげつなさ過ぎるっしょ~!お嬢様の前であいつら殺れないしぃ~!」
リリスは笑顔で「お褒めの言葉、ありがと♪」と流している。こいつ、ウチのダンジョンでは一番、性悪かも知れないな…。
「あの子には手を出さないように言ってあるから、お兄さん達、心おきなく私と遊んでちょうだい?」
妖艶に微笑むリリスに、格闘家は刺すような視線を送っている。
「うふふ、そういう反抗的な目、いいわぁ。あなたみたいな人、堕ちると早いのよ…?」
「ふん。ではお望み通り、私が相手をしよう。シーファ、ユーグを解放せい」
言葉と同時に、盗賊が戦士の元に駆け寄る。リリスはそれを、目を細め微笑しながら見ている。
「余所見をするとは、余裕よな」
格闘家の素早い手刀の応酬を躱し、リリスはフワリと空に浮く。
「む…飛ぶのか」
「たまにね」
格闘家の顔はさらに苦い顔をしている。
ちなみに踊り子お嬢様は、ケットシーを撫で回し、構い倒している…。俺が言う事じゃないけど…もうちょっとだけ、お付き冒険者の事も心配してやってくれませんか…?
「ダメだぁ!ユーグのヤツ、痺れてるし!」
盗賊から悲痛な声で報告が入る。
リリスはにっこりと微笑み、格闘家はもはや鬼のような表情だ。
「あはっ♪残念ねぇ」
「お主、知っておったのだろう」
格闘家はギリギリと歯噛みした。




