第二クール、スタート!⑤
「あれね、ダイヤル4つついてる、からくりバージョンの宝箱なんだよ!今回初めて設置したんだ。解けるかなぁ。~~~ああっ楽しみ過ぎる~!」
なるほど…。
現時点での、難易度MAX宝箱なわけか。
宝箱をじいっと見つめていた盗賊も、ついに情けない声をあげた。
「これ、無理っしょ~。多分解除に1時間くらいかかるしぃ。」
「ええっ!?」
踊り子お嬢様達はもちろん、モニターを挟んでゼロまでが驚愕の声をあげた。
あれだな。
わくわくし過ぎて、難易度あげすぎたパターンだよな。
ゼロは「マジで…?」と呟いて、すっかりしょんぼりしてしまった。モニターの向こうでも、渋い顔で方針会議が行われている。
「他の宝箱、じゃんじゃん開けた方が得策っしょ。これ、開く保証ないしぃ」
「そもそも空かも知れないしな」
盗賊と戦士は、この宝箱は捨てる派だ。
「しかしこれだけ厳重なら、中身も期待できるかも知れぬ。どの道ボスに勝てる勝算はない。時間いっぱい使っても良いが」
「私、ちゃんと待てますわ!」
格闘家と踊り子お嬢様は、この宝箱に賭けよう派だな。2対2で意見が分かれ、全員の視線が、まだ意見を言っていない魔術師に注がれる。
魔術師は、そっと踊り子お嬢様の側に立った。途端、盗賊がガクリと膝をつき、絶望の声をあげる。
「なんでだよぉ~!俺、こいつと1時間も格闘すんの~!?」
「えと…お嬢様、お金持ち…。大体のもの、買える…。今は、お金で買えない、レアの可能性に…賭けた方がいいかも…」
おおっ!ちゃんと長尺のセリフ言った!
…そして、かなりまともな事言ってるな。反論出来なかったのか、すごすごと現最強宝箱に向かう盗賊。
なんと言うか…頑張れ…?
一方レイは、早くもボス部屋に辿りつこうとしている。本当に早い。
プリンス・ロードの対象レベルの上限、レベル12とは言え、一人でここまで無傷で進んでくるとは、恐ろしいヤツだ…。
時間がかかったのは、途中の武器屋と防具屋ぐらいだろう。装備も買い換え、意気揚々と進んでいる。
ついに、ボス部屋の扉を開けた。
「魔法戦士、レイさん!早くもボス戦です!!迎え討つはスラっち!ここまで圧倒的強さで進んできたレイさん、無敗の王者スラっちを、倒す事ができるのでしょうかぁ~!!」
カフェからは、割れるような歓声が巻き起こっている。
「レイ様~!頑張って~!!」
「スライム!やっちまえ!」
「あ~ん、どっちを応援すればいいの~?」
カフェから様々な声が飛ぶ中、戦いの火蓋は切って落とされた。
レイはおもむろに剣を抜くと、真っ向勝負でスラっちに向かって走り込んでいく。
なかなかのスピードで剣が振り下ろされるが、もちろん黙って切られるスラっちじゃない。
ヒラリと躱して、レイに無数のパンチを叩き込んだ。多分。
早過ぎて見えなかったが、ガガガガガっと鈍い音が響いた後、レイが吹っ飛んだんだ。
「イテ…。ちくしょう…魔法だけってわけじゃないんだな」
悔しそうに呟きながら、起き上がるレイ。
そう言えばスラっち、ゼロから「他のスライム達のスキル、全部覚えてね」って無茶ぶりされてたっけ。
あれから暇さえあればスキル習得に勤しんでたし、今は俺も知らないスキルを山ほど持ってるかもしれないな。
多分今のは、格闘系のスキルだろう。
しかしレイはなんかスキル持ってるのか…?俺は少なくとも教えてないが。もしスキルがなければ、結構絶望的な戦いだ。それか、相手の技を見て戦闘中に学ぶかだが…。
でも残念ながら、今のスキルをレイが見よう見真似で再現出来たとしても、スラっちはプルプルボディだから、ダメージは受けないだろうなぁ…。
しかも、相手はスライムだ。
人間からなら見よう見真似で技を盗む事ができたとしても、スラっちがどうやって技だしてるかなんて、俺でも想像つかない。
万事休すだ。
それでもレイは、まだまだ戦う目をしている。むしろ強敵を前に楽しそうですらある。
さすが修行マニアは違うな…。
スラっちは相変わらずぽよん、ぽよん、と呑気そうに飛び跳ねている。
「ちぇっ…ちっちゃい癖に、威圧感ハンパないな…」
呟きながら、レイは懲りずにスラっちに向かって走り出す。
えっ?今、なんて言った?
威圧感…?
スラっちに、威圧感、あるか!?
俺の心のツッコミは、もちろんレイには届かない。真剣な面持ちで、今度は衝撃波を放つ。
気も溜めず、走りながらスキルを使うとは、使いなれたスキルなんだろう。衝撃波を追いかけるように、自身も走り込んでいく。
衝撃波を避けたスラっちを、走り込んで来たレイの剣が捉えた。




