第二クール、スタート!④
するとレイが動いた。
左のリザードマンに狙いを定めたらしく、高く跳躍したかと思うと、えげつない踵落としをお見舞いする。
多分、首、折れてるな…。あれ。
リザードマンは、横の動きには反応が早いが、上からの攻撃にはやや弱い。弱点をついた見事な攻撃。戦闘センスはやっぱりハンパない。
着地した足で、そのままもう一体の足を払う。
態勢を崩し、仰向けに倒れかかるリザードマンの腹に、何十発もの拳が高速で叩き込まれ、ついに憐れなリザードマンは、血を吐きながら息絶えた。
スゲぇな、こいつ…。
格闘家でもいけるんじゃねぇのか?
レイは、少し長く息をつき、「師匠くらい強くないと、訓練にもならないな…」と、可愛い事を呟きながら立ち上がった。格闘スキルでの戦闘結果には満足したのか、また剣を抜いて歩きだす。
たった一週間で、俺の弟子は凶悪な成長を遂げていた。
グレイに師事して、もっと多くのスキルを身につけたら、どれだけ強くなれるのか、底が知れない。
「なんと魔法戦士でありながら、格闘スキルも身につけているようです!一気にファンを増やしましたぁ~!そしてプリンセス・ロードの挑戦者達、ただ今中間ゲートを越えたようです!」
レイのついでみたいにアナウンスされる、プリンセス・ロードの挑戦者達。それなりに頑張ってるのに、扱いがおざなりだな…。
さすがに可哀想になって来て、少しじっくり見てみた。 フツメン3人組は、一体どんなヤツらなんだろう。
戦士:男:レベル6
戦士:男:レベル6
魔術師:男:レベル6
戦士2人に、魔術師。まあ普通だ。
彼らに変わったところがあるとすれば、それはとにかく「話さない」という事か?
無駄口どころか、戦闘時にすら声をださない。 たま~に、魔術師の詠唱が、ボソボソと聞こえるのみ。
ダメだ。詰まらなさ過ぎる。
「ユキ、こいつら、ずっとこんな感じ?」
「…うん、なんかね、ずっと黙ってるよ?」
それは、見てて飽きそうだ…。
「どうやって戦闘時にコミュニケーションしてんだろうなぁ」
「あのね、モンスターと遭ったら、この大っきい剣のお兄ちゃんが切りこんで、他のモンスターを2人がやっつけてるよ?」
へぇ、低レベルなりに決まった戦闘スタイルがあるらしい。ちょっとだけ感心した。
とは言え、他に特筆すべきところもない。適正レベルだし、地味~にクリアする事だろう…。
一方、背伸び感が否めない、踊り子お嬢様ご一行。
応援するだけの踊り子お嬢様を守りながら、意外にも善戦している。何だかんだで、宝箱いっぱいのエリアまでたどり着いた。
「まあっ!宝箱がいっぱいありますわ!」
「お~~~!もしかして腕の見せ所じゃないの!?」
盗賊が嬉嬉として宝箱にとびつく。
「油断するなよ。ここのダンジョンは結構罠もあるからな」
戦士の言葉に、盗賊は舌をペロリと出してウインク。
「そこがまたそそるっしょー!集中すっから、邪魔しないでなっ!」
「楽しそうですわ~。ちょっとだけやってみたいですわ」
あまりにウキウキと宝箱に向かう盗賊を見て、踊り子お嬢様は物欲しげに指をくわえている。
「危険です!我慢してください!」
慌てて止める戦士と、不満げな踊り子お嬢様を、格闘家はため息まじりに見ている。
「皆、緊張感が足りん。このダンジョンでは、このエリアでリタイアが続出しておる。リリスもよく出現する危険地帯ゆえ、周囲を警戒すべきだろう」
宝箱にむかう盗賊を囲み、周囲に注意を向ける4人。
宝箱の鍵をカチャカチャと探る、微かな音だけが響く。
ピン!
「きたっ!」
小さな爆ぜる音と共に、ひとつ目の宝箱の鍵があく。盗賊は目をキラキラさせて、宝箱の中身を取り出した。
「あー……。トラップ、解除されちゃったかぁ…」
後ろから、ゼロの残念そうな声が聞こえてくる。結構、自信作だったらしい。
トラップは、ある意味ダンジョンマスターと冒険者の智恵比べでもある。ましてやゼロは、ブラウと日夜面白いトラップについて協議してるしな。思い入れも深いんだろう。
宝箱から出て来たのは、HPを10%アップしてくれるティアラだ。かなり高付加価値な防具が入ってたって事は、難易度の高い宝箱だったんだろう。
盗賊はティアラを踊り子お嬢様に投げると、すぐに次の宝箱に向かう。
踊り子お嬢様は「きゃ~~っ!素敵!とっても綺麗ですわ!」と、大喜びだが、盗賊はもはや誰の声も聞こえてないようだ。
真剣な眼差しで宝箱を見つめている。
…が、なかなか手を出さないな…。
ちょっとイライラしてきたところに、ゼロが喜色満面でモニターに近付いてきた。
うわぁ、目がキラキラしてる。




