第二クール、スタート!③
「可愛い~~!!フェアリーさんと、長靴を履いた猫さんですわ!」
なんと踊り子お嬢様が、モンスター達に駆け寄る!
「お嬢様ぁぁぁ!ダメです!それはっ!モンスターです!!」
戦士が体を張って踊り子お嬢様を押しとどめ、その間に大慌てで他の3人がモンスター達を仕留める。
「ああん、見えませんわぁ!ユーグ、意地悪しないでくださいっ!」
仕留めたモンスターを見えない所に必死で隠す3人。
「ああ、お嬢様!彼ら森に帰っちゃいましたよ~。いやぁ、残念!」
盗賊の白々しい声が響く。
え……。
何?この茶番劇…。
俺、このへっぽこパーティー、ずっと見るわけ…?
呆れてものも言えないでいると、後ろから「ブハッ!!」と、噴き出す声が聞こえた。
振り返ると、グレイが声を殺して笑っている。肩がふるふる震えているところを見ると、相当ツボだったんだろう。
「グレイ、大丈夫…?」
ゼロが声をかけているが、ここは放っといてやるのが優しさじゃないだろうか。
「だ…大丈夫…。いや、ダンジョンにいるというのに、なんとも微笑ましいパーティーですな…!」
確かに緊張感は一切感じないけどな。
まだ肩を震わせているグレイに、ゼロがさらに尋ねる。
「ツボった?」
ぶり返したのか、またもや噴き出し、後ろを向いて笑い始めてしまった。
カエンといい、グレイといい、笑いの沸点が低すぎだろう。種族特性なのか?…俺がおかしいのか!?
やっと笑いの波が去ったらしいグレイは、キング・ロードのモニターチェックを代わると言い出した。よっぽどこのパーティーが気に入ったようだ。
ゼロにサポートを頼み、せっかくだからレイの実戦の様子も見てみる事にする。
前回ダンジョンで見た時は、防御一切なしの、傷だらけの戦い方だったが、少しは成長しただろうか…。
「どうだ?うちの熱血馬鹿弟子は。少しはマシな戦い方になったか?」
「もう、段違いに良くなってるわよ!?別人よ、別人!」
ルリが興奮している。
モニターを見てみたら、かすり傷ひとつ負わず、汗すら浮かべていない、レイの姿があった。 ……ここまでくると可愛くないな。
戦いぶりも確かに違う。
今回も盾などは持っていないものの、左腕の小手を使い、敵の攻撃を上手く流している。
考えれば、俺の攻撃を躱せるようになってきたんだ。プリンス・ロードくらいのモンスターの攻撃なら、躱せて当然かも知れない。太刀筋は変わらないが、防御面と全身の使い方が格段にレベルアップしている。
ちょっと成長が早過ぎてムカつくが、それでも弟子が強くなるのは嬉しい。これなら、そう簡単には死なないだろう。
少し安心して、ユキが見ているプリンセス・ロードを見てみると…なんとも普通な駆け出し冒険者が、なんとも普通にダンジョンを進んでいた。
ま、ここは問題なさそうだな。
「おーーーっとぉ!?真ん中のモニター、プリンス・ロード!挑戦者レイさん、どういうつもりでしょうかぁ!?」
突如、キーツの驚愕の声が響き渡った。
驚いてモニターを見ると…
「なんと、モンスターを前に、剣を収めました!」
キーツの実況通り、レイは剣を鞘に収め、ここ1週間で習ったばかりの、格闘の型をとっている。
ここまであまりに順調に進んだせいで、格闘を実戦で試してみたくなったんだろうか。
相手はリザードマン3体だ。
複数の相手との乱戦は訓練外だが、だからこそ楽しみでもある。レイはどう戦うつもりだろうか。
リザードマンの武器は、その強靭な肉体そのもの。筋力やスピードは、当然人間よりも優れているし、なにより鋭い爪と尖った歯は、簡単に人の肉を裂いてしまう。
人型だから、ある意味、格闘でも戦いやすい相手かもしれないが、肉体的に全ての要素が人よりも優っている種族3体に、素手で挑むのは勇気がいるよな。
レイから攻撃して来ないのを見て、一体のリザードマンが咆哮をあげながら襲いかかった。
長く頑丈な爪が、空を裂く。
レイは、僅かな動作でリザードマンの腕を払い、態勢をくずした隙を捉えて、眉間と鳩尾に拳を叩きこんだ。
間髪いれず、レイの体がふわっと浮いたと思ったら、次の瞬間には、リザードマンの後頭部に、鮮やかな回し蹴りが炸裂していた。
「きゃ~~~~っ!!!レイくん、かっこいい~~~!!!」
ルリとカフェから、耳をつんざく黄色い声援があがる。
う~ん…さすがイケメンだな。
リザードマン一体を軽々と仕留めたレイは、またも構えて敵が襲いかかって来るのを待っている。
…そりゃそうだよな。
俺の訓練では、俺の攻撃をいかに凌いで反撃するかが主体だし。自分から攻撃するバージョンは、あんまり訓練してないもんな。
苦笑しつつ見守っていると、残り2体のリザードマンが、一斉にレイに向かって走り始めた。単体では勝てないとふんだんだろう。
いい判断だ。




