今日は休日!③
「あっ、ハクも教えて欲しいんだよね。…ヌンチャクだっけ?」
「ああ…。ヌンチャクと…ついでにムチも教えて欲しいな。」
グレイはにこやかに微笑んだ。
「いいですよ。時間が空いた時にレクチャーしましょう。ちなみに私は、ムチが一番得意です」
良かった。
約束を取り付けると、早速グレイをスキル教室に案内する。エルフ達はこれ以上ないくらい、喜んでいた。格闘講師、マジで望まれてたんだな…。
穏やかな物腰で、すぐに馴染んでいる様子のグレイ。これなら大丈夫だろう。
安心した俺達はマスタールームに戻り、晩メシまでダンジョンの構想を話しあった。なにしろ明日からまた5日間、俺はムサ兵士達やレイの相手で忙しい。ダンジョンの造りに口を出すなら今日しかない。
一番戦力が整っているのはスライム・ロードだ。
3つの新ダンジョンのうち、最初のオープンは、スライム・ロードでいいんじゃないかという話になった。
それなら地形さえ整えば、すぐにでもオープン出来る。
「でもさ、せっかく新しいダンジョン作るなら、今までからは、ダンジョン自体も進化させたいよね」
「進化?どういう意味だ?」
「例えば、ハクのダンジョンは僕、3階層くらい欲しいなって思ってるんだ。で、階層ごとに違う状態異常が出てくるイメージ」
…それ、相当たちが悪いダンジョンな気がするけど…。
俺、そこのダンジョンのボスなのか。
嫌なヤツっぽいな…。
「スライム・ロードもなんか違う事したいよね。」
「違う事か…。でも、モンスターだけでも充分特殊なダンジョンじゃないか?」
俺は個性に富んだスライム達を思い出しながら答えた。
「スラっちはもちろん、今度はスーパースライムも、あの5色のスライム達も居るわけだろ?充分面白いと思うけどな」
つうか、充分濃いメンツだ。
「そうか!そうだよね!スライム達のキャラを活かせばいいんだ」
閃いたらしい。
愛用ノートに、ザッとしたダンジョンの見取り図を書いていくゼロ。それによると、ダンジョンは3つのステージに分かれていた。
まずは草原のステージ。ここはスライムをはじめとした、攻撃力も可愛らしいスライム達の、牧歌的なステージだ。はっきり言って、冒険者達の敵ではない。
もちろん、奥へ進む程スライム達が強くなっていき、草原の奥にある洞窟に入ると、スーパースライムが待ち受ける。
十人リキのスーパースライムを倒せたら、2つめのステージへの扉が開く。
そこは湿度の高いジャングル。そこかしこから、特殊能力を持ったスライム達が襲いかかる。
樹木が多い上に、けして大きくはないスライム達。どこに潜んでいるかがわかりにくく、冒険者達も戦い辛いに違いない。
このステージを守るのは、大木のウロから入った部屋に陣取る5体の影。そう、5色のスライム達だ。
このパーティーは能力が様々だから、チームとして機能するときっと面白い。ゼロもそこを見越して、5体纏めて配置しているんだろう。
彼らを倒したら最終ステージだ。
最終ステージはゴツゴツした岩肌に間欠泉、周りに広がるのは砂漠だ。スライムメイジ達を中心としたスライム達の中でも最高戦力を集めている。
それでもここを抜けた強者だけが、スライムの王者、スラっちと戦える仕組みだ。
「難易度高過ぎないか!?」
スラっち瀕死がクリア条件だが、俺でもクリア出来る気がしない。
それでもゼロは笑っていた。
「いいんじゃない?宝箱もたくさん置くし、レベルアップに使ってもらえば。見ても面白いダンジョンだと思うよ?」
鬼だ…。
難易度を下げる気はないらしい。
そうこうしていると皆が帰ってき始める。カフェから美味しそうなシチューも届いたし、晩メシにするか。
「あのね、今日はね、ブラウやナギ達と街に行ったんだよ!たぁ~っくさんお店があってね、お菓子もいっぱい、買ったんだよ!」
初めて街に出たユキは、もう大興奮で話してくれた。 子供達はお小遣いを貰って嬉しかったのか、皆でワイワイと街に繰り出したらしい。
ブラウもなんだか分からないオモチャを山ほど買って、メシもそこそこに、夢中であれこれ触っている。
「コラ、メシが終わってからにしろ!」
小言とアラームをお供に、今日もカエンの登場だ。
「まったく、ここはガキばっかだからなぁ。こういうところの躾がなってねぇ」
ブツブツ言いながら、カエンが食卓につく。
自由奔放な筈のドラゴンも、さすがに数百年も王家の守護龍なんかやってると、躾やマナーが気になるらしい。
ユキとブラウは、今度はカエンを相手に、どんなに楽しかったかを一生懸命話している。
ホント、微笑ましい光景だな…。




