充実した一日の終わり
「やっぱり一番欲しいのは、格闘スキルの講師みたい。なんせ要望が多いんですって」
「格闘かぁ。練兵場にも引き続き配置して欲しいって話だから、2人必要ってことだよね」
ルリは頷きながら続ける。
「出来れば、2つ以上スキルがある方がいいらしいわ。その方が教室を円滑に運営できるみたいよ」
ま、そりゃそうだろう。多ければ多い程、教えられる幅も増えるしな。
「あと、斧と鞭、棒、銃までが必須ですって。魔術は自分達で覚えるから大丈夫って言ってたわ」
「分かった。来週生徒さん募って貰って、その間に召喚しようかな」
「そうだな。ゼロ、銃はお前も習えよ」
究極の飛び道具だ。力がないヤツでも威力に影響が出ない、数少ない武器でもある。なにしろ敵に近付かなくていいってのが一番のポイントだよな。
「銃かぁ。せっかく剣と魔法の世界なのに、銃か…」
ゼロはよくわからない独り言を呟いている。銃に不服がある感じなのはなんとなく伝わるけど…。
「嫌なら無理にってワケじゃねぇからな。魔法も使えるんだし、そもそも戦う場面もあんまねぇしな」
そう言ってから、あとはメシに集中する。決めるのはゼロだ。
「考えてるとこ悪いけど、さっきの格闘系講師、一人だけでもすぐに召喚して欲しいって言ってたわよ?」
「えっ?そんな急ぐの?」
「だから本当に要望が多いんだってば。まあ私も一週間くらい我慢しなさい、とは言ってきたけど」
ああ…エルフ達のやる気は、ルリでさえ止められなかったのか。 ゼロはまた、う~ん…と唸っている。今日は唸りっぱなしだな。
「ま、メシ食ってからでいいだろ?今日は色々あり過ぎだ。ちょっと脳みそ休ませた方がいいぞ?」
それからはスライム達の合成の話で盛り上がったり、俺のクラスチェンジの話から、各々が自分にも新たな表示がないか探してみたりと、他愛ないやり取りが続いた。
「おし!じゃ、今日もやるかぁ!」
どんなに疲れていても、カエンによる格闘指南はもちろん休みなしだ。特に聖龍への道が見えた今の俺は、スラっちやエルフ並にやる気に満ちている。
やるぞ!
「あっ!待って、ハク!」
ゼロの声にいきなり出鼻を挫かれた。
なんなんだ、もう…。
「レベルあげてからにしたら?」
…レベルが上がるのは嬉しいけど、なんでまた急に?
疑問が顔に出ていたのか、ゼロが軽く補足してくれる。
「ハク、寝る前にコアに魔力放出するんでしょ?MP増やしとけば、毎日の聖魔力の消費MP高くなるんじゃない?」
なるほど、一理ある。
早速レベル40になるまで経験値を振り込んで貰った。これで、クラスチェンジ条件の大部分は満たした事になる。
一歩一歩、階段を登っているみたいで嬉しい。自然足取りも軽くなる。カエンを相手どっての組手にも熱が入る。
「おいおい、えらくご機嫌だなぁ」
「当たり前、だろっ!聖龍に成れるかも…知れねーんだ!」
「聖龍は俺様も見た事ねぇなぁ。……ちっ、さすがに時々攻撃があたるようになってきたな」
やった!
真芯じゃねぇけど、今日は何発か、カエンの体に攻撃が入ってる!
苦節3週間にしてやっと…!
いつもより長時間頑張って、回復温泉、魔力放出とやるべき事をやったら、猛烈な睡魔が襲ってきた。
満足感と共に今日もコアを抱いて就寝。クラスチェンジまでは漏れ出す魔力さえ惜しい。
枕元には聖魔術の本。
明日は一日、勉強しまくってやる!




