新たなるスライム達②
スライム達が各々合成素材を決めている間に、ゼロは直訴に来た5体のスライム達を連れてマスタールームに戻る。
何をする気かと思ったら、カタログを取り出した。なんとこの5体には、カタログから素材を選ばせるらしい。
ルリとユキをスキル教室から呼び戻し、直訴スライム達の世話をするようにお願いすると、俺達はまた錬金部屋に逆戻り。なかなかに忙しい。
錬金部屋では、合成素材を決めたスライム達が、きちんと列を作って待っていた。
「ゴメン、待たせちゃったみたいだね。早速やろうか。ハク、錬金釜のむこうでかき混ぜてて」
「えっ!?俺もやるのか!?」
驚愕。
見守るだけだと安心してた…。
まさか、生命の神秘に自ら手を加える事になろうとは。
「失敗したくないから…僕とハクは運が異常に高いから、一緒に作業に入れば成功確率が底上げされると思うんだ」
マジでか…。
喉がゴクリとなる。
今ならブラウが震えてた気持ちも分かる。そしてゼロが殺気だつ気持ちも理解出来る。
素人オンリーで、失敗出来ないオペを今から何十体もやるって…無茶過ぎるだろう…。
気軽に「スライム達がやりたがってんだから、合成してやれば?」って思ったのを反省する。謝るから、勘弁して…くれないか、やっぱり。
覚悟を決めて、錬金釜の前に立つと、釜の中では何とも言えない色の液体が、グツグツと煮たっている。
無造作に突っ込まれていた棒を手に、得体の知れない液体を混ぜ混ぜしていると、ブラウがスライムを抱っこして釜の前に立った。
いよいよか…!
俺も緊張するが、ブラウは腕がガクガクと震えている。 ただ、どうあがいたところで、ブラウのスキルは「てきとう錬金」だ。思い切って、てきとうにやるしかない。
「ブラウ!思い切って、やれ!」
ブラウを勇気付ける。
スライムの気持ちもあるから、「てきとうに」の部分は伏せておいた。
ブラウの手から、スライムが釜にダイブ!慌ててブラウは瓶から液体を垂らす。
釜の中身が激しく光り始めた。
すげぇ!
錬金の現場、初めて見る!
「ハクさん!高速で混ぜて下さい!」
高速!?
スピード関係あるのか!?
マーリンの檄に、力任せにグリグリ混ぜる。
つ、疲れる…!
「今度はゆっくり!」
見兼ねてゼロが代わってくれた。
ゼロがゆっくり、ゆっくり、丁寧にかき混ぜていくと、そのうち、釜から発する光がだんだんと優しい色に変わってきた。
「もうちょっとですぅ!ブラウ、最後はブラウだけでかき混ぜて!」
ブラウがひと混ぜ、ふた混ぜ。すると、一際明るい光が錬金部屋を満たした。
釜の中から飛び出す何か。
それは、明るいピンクのスライムだった。
くるくるっと空中で華麗に回転し、着地を決める。うん、明らかに成功だな!
「やったぁ!良かったよ~!!」
ブラウは号泣している。
ゼロはダッシュでマスタールームに走り込んだ。
「凄い!メガヒールスライムだって。メガポーションと合成したから…やっぱりそのスキルがつくんだね」
メガヒールスライムか…。
そういや、この前のヒールスライムは淡いピンクだった。ヒール系はピンクなのか?
これから続々誕生するだろう、新たなスライム達を分類すれば、ちょっとしたスライム図鑑が作れるかもな。
「ハク!次々いくから、かき混ぜて!」
おっと、考え事してる場合じゃなかった。集中、集中!
それから俺達は、ありとあらゆるスライムを合成した。その数18種。もう腕がパンパンだ。日がな一日これを続けられるとは、マーリンは意外と肉体派なんだな。
素材とスライムを合成し終わり、いよいよスライム10体纏めての合成に入る。
10体全部の命を預かる大仕事だ。少しでも錬金回数をこなし、ブラウの錬金レベルをあげてからチャレンジしたいと、後に回していたんだ。
幸いここまで、失敗はしていない。
スライムの適応力が凄いのか、マーリンの的確な指示のおかげか、ブラウのスキルが上がって来たのか、はたまた俺達の運と体力の賜物か…理由はともかく。
とにかくスライム達は、新たなスキルを獲得した状態で、生きて出てきた。
それだけで充分だよ。
ブラウもだんだん自信が出て来たのか、震えも止まってむしろノリノリになってきたし、俺も全身が痛いが、かき混ぜるのも慣れてきた。
準備は万端だ。
今、錬金釜の前には、10体のスライムが整列している。
やっと順番が来て嬉しいのか、スライム達は、ぴょんぴょん飛び跳ねて、待ち切れない様子だ。
「ブラウ、お願い!」
ゼロの呼びかけに、ブラウも元気よく応える。
「うん!よ~し、皆いくぞ!順番に、飛び込めーーー!」
ブラウの号令と共に、端から次々と、錬金釜にダイブするスライム達。
あれ…?
なんか、重い…?
スライムが飛び込む毎に液体が重くなり、早くも6体目あたりから、早くかき混ぜるのが難しくなって来た。
ヤ、ヤバい…!
「よう!面白い事やってんだってぇ?」
カエン!いい所に!
「カエン!手伝ってくれ!」
入って来るなり言われたせいか、カエンはキョトンとしている。
早く!マジヤバいんだって!
「重くて…動かねぇ!失敗しちまう!一緒にかき混ぜてくれ!!」
「!分かった!」
事態が飲み込めたのか、すぐにカエンの力が加わった。途端に軽く動き出す液体。釜の中は再び高速で回り始めた。
まだ疲労の蓄積がない、カエンの力が加わるのは大きい。
カエンを軸に、俺、ゼロ、ブラウが交代しながらかき混ぜる事十数分。
ついに、釜の中の液体が輝き始めた。これまでの中でももっとも美しい光だ。ブラウとカエンが、ラストスパートとばかりにかき混ぜる。
やがて、まばゆい虹色の光が部屋を包んだ。
釜から巨大な影が飛び出す!
…俺の腰まである巨体。鮮やかな空色の体は、もちろんツヤっツヤのプルっプルだ。
なんと言うか…まぁ、見た目、色鮮やかなデカいスライムだな。
嬉しいのか、めっちゃ跳ねてる…でもデカ過ぎて、擬音的にはボヨ~ン、ボヨ~ン、と言う感じだ。
失敗した訳じゃないけど…なんかこう…。
「僕、ステータス見てくる!」
ステータスくらい、ジャンプアップしていますように…! とりあえず祈る。
すると、マスタールームから、ゼロの悲鳴?歓喜の叫び?が聞こえてきた。
「凄い~!凄いよ、スーパースライム!!」
スーパースライムっていうのに、進化したらしい。
どう凄いのかが知りたいが、ゼロは興奮していて使い物にならない。仕方なく、俺もダンジョンコアのもとに向かう。
どれどれ…?




