新たなるスライム達①
コアの答えはこうだ。
『スキルを持つ者から教えを請うか、魔道書で覚えるのが一般的です。もしくは、ポイントやチケットでスキルそのものを付与する事も出来ます』
1枚しかないスキルチケットはこんな事には使えない。ポイントを聞いたら、魔道書が一番割安だった。
「折角だから他の属性の本も買おうかな。これからスキル教室もずっとやっていくなら、講師達もスキルアップしないとだもんね」
初級・中級までの呪文が網羅された魔道書を、属性分。こっちはゼロが必要経費として出してくれた。
聖属性の魔道書をしっかり握りしめ、ちょっと感動。
すげぇ!すげぇ!
この本でスターセイバーさえ覚えれば、白龍どころか、場合によっては聖龍への道まで開けるかも知れないんだ!
頑張ろう!と心に誓う。
ゼロもたくさんの魔道書を前に満足顔だ。早速ベッドに寝転び、魔道書を開いている。
そこに、気まずそうな声。
「あのさ、もういいか?」
びっっくりした…!
完全にノーガードだった。
振り向くと、ブラウが錬金部屋から顔を出している。俺達があまりに真剣にコアに向かってたから、声をかけそびれたらしい。
ブラウの用件なら決まってるよな。
やる気スライム達の、合成問題に違いない。ブラウが困った顔で手招きするから、ゼロと二人して錬金部屋に入る。
そこには、沢山のスライム達がひしめきあっていた。
え……何体いるの?コレ。
スライム達はゼロに気付くと、一斉に飛び跳ね始めた。
「さっきお願いにきたスライム達が、合成して貰える事になったって他のスライム達に言ったらしくて。希望者があっと言う間に増えちゃったんだって…」
ブラウもマジで困った顔だ。
ゼロは、また頭を抱えている。
「ゼロ様ぁ~。ちゃんと、すっごい危険だって事も、失敗する事もあるしブラウがちゃんとした錬金術士じゃないって事も、説明したんですけどぉ~」
マーリンも泣きそうな顔でこっちを見る。
そう、マーリンは生物合成には手が出せない。マーリンまで闇錬金術士に墜ちてしまうからだ。
スライム達を合成するなら、闇錬金術士の称号を持つブラウの「てきとう錬金」と「モンスター改造Lv.1」という、ギャンブル感溢れるスキルに頼ってやるハメになるんだ。
ブラウもここにきて、怖くて堪らなくなってきたらしい。可哀想に震え始めた。
逆にスライム達は一切躊躇がない。見るからに力いっぱい飛び跳ねて、やる気アピールしている。
はぁ……と、ため息をつきつつ、ゼロを見る。するとゼロは、頭を抱えた格好のまま、何かを呟き続けていた。
…見た目、病んでるみたいで怖いぞ?
心配になって、思わず聞き耳を立てる。
ところどころ聞こえるのは…
「やるって約束した…」
「やれる筈だ」
「考えろ…」
「確率をあげていけば…」
「大丈夫…大丈夫…」
何?自己暗示…?
うん、結果、気持ち悪かった。
ゼロの精神状態が心配で、チラチラ見ていると、今度は突然、頬を両手でパンパンっ!と叩く。顔をあげたゼロは、決意を固めた目になっていた。
「よし、やろう!出来るだけ成功確率あげながら、全員成功させる!強いスライム集団になろうね!」
ゼロの言葉に、スライム達が一斉に飛び跳ねる。もう、スライム達のやる気は最高潮に達しているみたいだ。(多分)
次いでゼロは、ブラウをしっかり見る。
「この前は初めてでも成功した!今度はマーリンも見てくれてる。僕とハクが居れば、運の数値が尋常じゃなく高いから成功確率も上がる!大丈夫!」
ブラウの頭をナデナデしながらだが、男らしく気合い入れのつもりらしい。
ブラウが落ちついたら、ゼロはまたスライム達に号令をかける。
「よし!じゃあ早速始めるよ?まず、さっき僕に話しに来た子達はこっちに来てて」
直訴スライム達だけ分けると、ゼロは20~30体いそうなスライム達を次々に分類していく。
ブラウを通訳に、 これだけの数のスライムを、本気で希望を聞きながら、合成していくつもりらしい。
いつの間にか俺の周りには、スライム数体ずつの小さな集団がたくさん出来ている。分類してるってのは分かるが、どう分かれているかは謎だな。
いつの間にか錬金部屋の隅には、白ネズミちゃんとドワーフ爺さんが来ている。二人とも何やら大きな荷物を持っていたが、マーリンが話しかけると真剣な顔で荷物を開き始めた。
「よう、どうしたんだ?」
とりあえず、声をかけてみる。
「ああ。ゼロ坊が、特殊効果がいっぱいついた武器や防具をありったけ持ってきて欲しいって言うから、持って来たんじゃよ」
ドワーフ爺さんは、ニコニコと人の良さそうな笑顔を見せる。もしかして、ゼロにナイフを作ってくれている爺さんなんだろうか。
「ゼロのナイフ作ってるのって…」
言いかけると、笑って「ワシじゃ、ワシじゃ」と答えてくれた。そして、俺を見ると「ふぅむ…」と唸る。
「お前さんは、格闘系らしいのぅ。こんな細っこいんじゃあ、技に重さが乗らんのじゃないかの?」
鋭い。それが悩みだ。
だから、棒術やヌンチャクみたいなスキルに興味が出始めた。
ドワーフ爺さんは図星だったと分かったようで、フォッフォッフォッ、と笑いながら、俺にも武器を作ると約束してくれた。
次いで、話しこんでいるマーリンと白ネズミにも声をかける。二人はすでに、ありったけの薬草類を並べていた。
「すげぇな!これ、全部錬金用の畑で採れた薬草か?」
すると、マーリンが嬉しそうに白ネズミを押し出す。
「そうなんですよぉ~!凄いでしょ?この子が作ったんですよぉ!薬草もお野菜も、大豊作ですぅ!」
白ネズミは相変わらず、もじもじ、オロオロしている。この感じは最早ゼロで慣れたな。
「これもゼロが持って来いって言ったのか?」
白ネズミは一生懸命、首を縦に振っている。
マジか…。
この量。ゼロの本気度が窺える。
スライム達は、一体どんな事になってしまうのか…。
「何、遠い目してんの?」
…いつの間にか、ゼロが戻って来ていたようだ。
「いや、合成素材の凄さに、ちょっと驚いて。ゼロ、嫌がってた割にはめちゃめちゃ本気だな」
「当たり前だよ。ノーネームだから死なないって言ったって、こんな危険な事…それなりの見返りがないと、やってらんないよ。自分が成りたいものに進化できるように、絶対手は抜けない」
ゼロが怖い。
なんだこの緊張感。
「はい!じゃあ、癒しの力が欲しいグループ、こっちに来て!薬草や薬品も色々あるし、効果が幾つかあるのもあるんだ。効果が高いものはそれだけリスクも高いから、慎重に選んで!」
スライム達がわらわらと集まって来る。
スライム達にゼロ程の悲壮感は感じないんだけどな~…。
ひとつひとつのグループに、同じような注意をし、マーリン達が各々の薬草や武器などの効果を説明していく。
一通り説明が終わったのか、ゼロが疲れた顔で戻ってきた。
「あれ?あの最後のグループは?」
周りに合成用の素材もないし、ゼロの説明も簡単だった。
「ああ、あの子達はね、スライム10体で合成するんだ?10体が融合すると、凄い事が起こるって伝説があるんだってさ。」
ふ~ん…デカいスライムになるだけなんじゃ…とは言えないな。ヤツらは他のスライム達よりも、さらにやる気に満ちている。
成功を祈るばかりだ。




