5日間で得たものは?②
ちょっと残念なのは、モニタールームのメンバーだ。戦闘にも参加しないから、スキルがあがる要素がない。
実はレア度も戦闘力も高い、このダンジョンの主戦力で主要メンバーなだけに、俺的にはもったいない気がするんだよ。
ただ、ゼロ的には、そういう公開されてない隠した戦力があるのが「とっても大事な事」らしい。
隠した戦力、ねぇ…。
スラっち倒せる相手に、ルリやユキが勝てると思えねぇんだけどな…。
「う~~~ん…」
ゼロの唸り声に、我にかえる。
「どうした?」
「いや、モンスター増えたな…って思って。交配強化付与したの僕だけどさ、このままいくと、遭遇率あがり過ぎるかも知れないよね…。」
それは、俺も心配してた。
スライム属は概ね3日ごとに倍々ゲームで増えてるし、密かにピクシー達やコボルト達も増え始めてるんだよな、これが。
俺が言うのもなんだけど…。
「還元、するか?」
ゼロはフルフルと首をふる。
やっぱ、それもイヤか。
暫く考えてたと思ったら、久しぶりに何かを思いついた、キラキラした目でこう言った。
「新しいダンジョン、造ろうか!」
えっ!?
モンスターが増え過ぎるからって、その選択肢!?
「まだオープンしたばっかだぞ!?」
「うん、だから来週は今のまま営業して、裏で準備してさ。で、次の週から3週連続で新しいダンジョンを一個ずつオープンしていくっての、どう?」
いや、どう?って…。
急過ぎてついて行けない。
しかもお前、3つも増やす気か!
「スラっち強過ぎて、いつまでもプリンス・ロードに置いとけないし、強い冒険者と戦えば、もっと凄いスキル覚えるよ?」
お前はどんだけスラっちを強化する気だ!
「でも、ハクもボスやりたいよね?この前言ってた、地形ダメージがあるダンジョンとか、良くない?」
くっ…悪魔め…!
的確に弱いところを突いてくるな…。
「……3つめは、何なんだよ…」
「この前ブラウと盛り上がったんだけど」
ゼロはそれはもう、楽しそうに笑った。
なるほど。イヤな予感しかしねぇ。
「宝箱とトラップ満載の、びっくりダンジョン!」
相変わらず、名前のセンスはねぇな。
人の事言えないけど…。
「僕とブラウで、毎日トラップ変えて、挑戦者もお客様も飽きないようにするんだ~」
一番造りたいのはそれなんだな?
よく分かった。
このちょっととうの立ったイタズラっ子達に翻弄される冒険者達には悪いが、まぁ確かに面白そうかもな。
俺の無言を了承と理解したらしいゼロは、浮き浮きとカタログを見始めた。こりゃ暫くは戻って来ないな。目のキラキラ感がハンパないし。
諦めて、スキル教室を見学してみる事にする。
スキル教室は今日で5日目。ここだけは、メンテナンス日の今日も午前だけ開催中。もちろん、エルフ達が尋常じゃなくヤル気だからだ。
順に教室を覗き込む。
最初の教室では、魔法の座学中だ。
講師は…コノハか。
なら、木属性の魔法を教えてるんだろう。いつもおどおどしてるのに、こんな沢山の生徒の前で、講師とか務まるんだろうか。
教室の一番後ろの目立たないところで、授業参観。
コノハは一生懸命教えている。ちゃんと後ろの席まで聞こえてるし、生徒達も…まあまあ、真面目だ。ウットリしてるヤツが多いけど。生徒も9割は男共だ。明らかに冒険者じゃないのも混じってるし。
隣の教室ではリスがパチンコを教えている。こっちの生徒はシーフ風の、細身のヤツが大部分だな。
なんつーか…
リスの教える姿が異常に愛らしい。
最後の教室では、爽やかイケメンのダーツが、弓を教えていた。横一列に並んで皆真剣な表情で的に向かい、ダーツは後ろから、フォームを直したり、アドバイスしたりしている。
へぇ、皆うまくやってるじゃないか。
「うふふ、なかなかでしょ?」
振り返ると、ルリがご機嫌な笑顔で立っていた。
「あの子達、毎日深夜まで、お互いに情報交換したり、プログラム調整したりしてんのよ?」
なぜかルリが得意げな顔だ。 でも、本当にたった数日でサマになっている。エルフ達の努力の賜物なんだろう。
「教え方、うまくなったな。コノハとかも堂々としてるし」
俺が褒めると、ルリは本当に嬉しそうに笑った。ルリはちょくちょくこうして授業を見ては、アドバイスしているらしい。意外な一面だ。
ご機嫌なルリも連れて、一旦マスタールームに戻る。
昼メシ食ったらダンジョン会議だ。さっきのゼロの様子だと、長引きそうだからな。しっかり食っておかねぇと。
昼メシ後、応接室に集まって、この5日間の振り返りを行う。
メンバーは前回同様、ゼロ、俺、ルリ、ユキ、マーリン、ブラウと、カフェ代表のオレンジ、ご褒美ルーム兼スキル教室代表のミズキ、ダンジョンの店代表のホビット、…そして今日もギルドを放って来たらしいカエンの計10名だ。
さらに、今回はキーツとイナバ、スラっちまでが呼ばれている。
「えっと、今日はこの前と一緒で、5日間連続でダンジョン公開してみて気になった事を共有して、改善しておきたいと思ったからなんだけど…。」
ゼロが口火を切った。
「同じ流れの方がいいよね?…えっと…オレンジ、カフェから報告してくれる?」
ゼロの指名に、オレンジが立ち上がり、元気よく話し始める。
「はい!カフェは本当に、劇的に状況が改善されました!もちろんまだ立ち見のお客様や、練兵場の席についているお客様は多いんですが、何しろ自販機の威力が凄まじくって!」
洗い場と注文係の仕事が、びっくりするくらい緩和されたらしい。
「それで、とくに注文係は人数も多いんで、ポテトとか、クレープとか、サラダとかを持ち歩きで販売するようにしたら、すっごく売れました!」
ええ!?
思わずゼロと顔を見合わせる。
ゼロはどうか知らないが、少なくとも俺にとっては、カフェは観客へのサービスの一環で、あんまり「売る!」とか…稼ぐ気はなかったんだが…。
シルキーちゃん達、すげぇな。
「持ち歩いて売る分は、ローラちゃんとか、ナギ君とかの方が売り上げいいんですよね~」
と、ちょっと悔しそうだ。
子供とも張り合うとは、よほど負けず嫌いなんだろう。更にカフェからは、思わぬ提案もあった。
「今、白ネズミちゃんが育ててくれてる自家栽培野菜のサラダが、女性に大人気なんです!」
…そんな事もしてたのか。
俺が男共と修行に明け暮れている間にも、ダンジョンは色々、地味に進化していたらしい。
「それで、だんだん食事系メニューの注文が増えてきたんで、レパートリーを増やしたいんですけど…売り上げ金で、外のお店から材料買っても良いですか?」
へぇ、それならダンジョンポイントの節約にもなる。お金なんて、今のところ俺達の小遣いか王室への寄進くらいしか、使い道ないし。
ゼロはなんだか難しい顔をしていたが、最後は条件付きで許可していた。
条件は「子供達が買い物に行く事」だ。




