今日からオープン!⑤
「おおっとぉ?ついにメタルアシッドスライムが、大きなダメージを受けたようです!」
えっ!?…あっホントだ。
色がどす黒く変色し、かなり形が崩れてきている。
大丈夫か?
メタルアシッドスライム…!(名前長い!)
魔術師は、「おっしゃ!こっち系はいけるっぽいな!」と言うが早いか、すぐに次の詠唱に入っている。
ついにメタルアシッドスライムが、倒される日が来るかも知れない…。
形が崩れる程ダメージを受けたメタルアシッドスライムは、先手必勝とばかりに詠唱中の魔術師に飛びかかる。好戦的な性格じゃないこの子は、これまで積極的に攻撃していない。単に反撃してただけだ。
ここにきて、ついに自ら動き始めた。窮鼠猫を噛む、と言うヤツだろうか。さすがに魔術師も慌てている。
頑張れ!
ひと泡吹かせてやれ!
そこに、女戦士の声が割って入った。
「んもぅ!何やってんの!」
えっ?何が起こった?
「大変です!どうやら男戦士:アースさんが、ラフレシアにモグモグされているようです!」
キーツの解説があったが…モグモグ…?
見ると、確かにモグモグされている。
巨大な花の中央部分に、胴まですっぽり呑み込まれ、足だけがバタバタと空を切る。そして、ラフレシアはモグモグと動いていた。
うわ…グロ。
カフェの観客達からも、息を呑むような小さな悲鳴があちこちから発せられている。
女戦士の必死な攻撃をものともせず、 しばらくモグモグしていたラフレシアは、飽きたとばかり、男戦士をプッと吐き出した。
投げ出され、ゴロゴロと転がる男戦士。
のたうちながら叫ぶ言葉は…
「くさっ!何この臭い!くっさ~!」
なんて緊張感のないヤツだ…。
女戦士も脱力感を隠せない。
しかし、状態異常は意外と深刻だ。重度の猛毒で、HPがギュンギュン下がっていく。
「グリード!毒の治癒お願い!」
魔術師は相変わらず嫌そうだ。
「え~?こっちも忙しいのに」
男戦士は泣きそうだ。
そりゃそうだ。HPの減り方がハンパない。
「頼むよ~!オレ、死んじゃうよ~!」
魔術師はため息をついて、ゆっくりと男戦士に歩み寄った。
「ホント、なんでお前がアイカちゃんの弟なんだろうね。見捨てる事も出来ねぇし、ホント面倒」
ブツブツ言いながら、解毒。
さらに回復魔法も唱えて、戦士はまた元気満タンだ。一方魔術師は苦り切った顔をしている。
「あ~あ…もう一息だったのに、逃げられちゃったじゃないか…」
確かに、振り返ってもメタルアシッドスライムの姿はない。
「……ゴメン」
シュンとする男戦士。
魔術師は、男戦士の頭を軽くはたき、「ほら、アイカちゃんの加勢すっぞ」と促して、女戦士の方へ走っていった。
戦士達の攻撃でダメージを蓄積していたラフレシアは、魔術師の火炎魔法で瞬殺。ブラッドバット達もすでに地に落ちていた。ここまでいい所が本当に一切ない、男戦士は雄叫んだ。
「くそぉ!次は絶対!オレが活躍してやるからなぁ!」
パーティーの仲間達は呆れ、カフェの観客は大爆笑だ。
次に期待したいな、ホントに。
「おおっと左のモニター、プリンセス・ロードでは、4人の美女達がお着替え完了だぁ!…これは守備力は大丈夫なのか!?肌が露出し過ぎて心配です!」
カフェでは、男達の「うおぉぉぉ!」というどよめきが響いている。
確かに、ミニスカにブーツ…可愛いが、身を守る気があるかは不明だ。
「嬉しい~!可愛くて防御力高い防具って、探してもなかなかないもんね!」
「これだけでも来た甲斐あったわよね」
「フラウ可愛い~!」
「確か先の方にアクセの店もあったよね」
冒険中とは思えないガールズトーク。
しかし、今度は女性冒険者達が食いついている。 どうやら「可愛いのに防御力高い防具」は、女性冒険者にとって魅惑の言葉らしい。
しかしこれ、明らかにゴールする気ないんじゃないかな。 時間的にも、アクセサリーの店に辿りつく前にタイムアウトしそうだ。モニターを見守るユキに至っては、あまりに平和な様子にちょっぴりウトウトしている。ゼロがサポートしてるから、問題はなさそうだけどな。
ついでにプリンス・ロードを見てみると、さっきとはうって変わって、生き生きと戦う冒険者達の姿があった。
「おっ、ルリ。こいつら、さっきのマドハンド達は倒したんだな」
「なんとかね。今度はちゃんと戦えてるわよ?まあ、毒受けちゃってるけど」
「…魔法剣士君は?」
「解毒の魔法は持ってないみたい」
やっぱりまだまだレベルが低いからか、このダンジョンでは、毒にやられる冒険者が多いな。実際のクエストでも、よくある光景なのかもしれない。
毒を受けているとは言え、毒キノコは既に倒し、ツルばらもツルの部分は切り落とされている。 最後にデカいアックスでなぎ払われ、ツルばらはシオシオとしおれていった。
ちょうど魔法剣士君も、ロングイヤー2体を仕留めたところだ。
「おっ!でかいウサギ、仕留めたじゃないか!ホントのダンジョンだったら今日のディナーが確保できたのにな」
パワーファイターが豪快に笑う。
ひぇぇ、食べるとか、やめてくれよ!?
さすがに復活出来ないかも知れないじゃないか!見るとゼロも青ざめている。
ヒヤヒヤしたが、そのまま立ち去るようだ。お、驚いた…。
「お、驚きましたね~。皆さん、もしダンジョンにチャレンジしても、中のモンスターは食べたりしないで下さいね?そこでピアノ弾いてるイナバ君、泣いちゃいますからね~?」
キーツが冗談めかして注意を入れてくれた。ホントにこれだけは守って欲しいな。
「あ、ゼロっ!タイムアウトだよ?」
ユキがゼロに報告する。
本気でプリンセス・ロードの4人娘は、買い物の途中でタイムアウトしてしまった。
冒険者としてどうなんだよ、それは…。思わずグチのひとつも言いたくなる。
まぁ、プリンセス・ロードはスタートから30分で最初のチャレンジャーが中間ゲートを越えたら、次のチャレンジャーを元々入れる予定だった。ゼロが通信機で何か言ってるし、多分キーツからアナウンスが入るだろう。
「プリンセス・ロードに挑戦中の皆さん、残念ながらタイムアウトです!可愛い防具をたくさんゲット出来て満足そうですが…ゴールしたら素敵なプレゼントがあるから、次は最後まで攻略してね~。では、またのチャレンジをお待ちしております!」
4人娘は相変わらずきゃぴきゃぴと楽しそうだ。プリンセス・ロードは緊張感が足りないな…。
「引き続き、プリンセス・ロード、新たなチャレンジャーをご紹介します!」
次に入ってきたのは、なんと先ほどの4人娘とは対照的な、男ばっかりの4人組。
冒険者ではなさそうだ。
まだ14~15歳くらいの男の子達。
たった今借りたんだろう、着慣れない感じの装備を身に付けて、バラバラと入ってくる。




