今日からオープン!②
「行ってらっしゃい」
「頑張ってね~!」
ルリとゼロから、容赦なく送り出され、しぶしぶカフェに転移した俺。
目の前には、当たり前だが20人ものむくつけき男共が並んでいる。
中でもゴツい男が、一歩前にでた。
「我輩は兵士長を務めるザイガンである!本日より、兵士の訓練の総指揮を仰せつかっておる!こちらに格闘の師範が居られると聞き及んでおるが、どなたか!」
声、でけぇし!
今時、我輩とか言ってるし!
俺、師範とか言えるレベルじゃねぇし!
とにかくなんか怖ぇし!
…ツッコミたいところが多過ぎて、処理出来ない。シルキーちゃん達も、なんだか心配げに見ている。
「あー…すみません、ザイガン兵士長」
とりあえず声をかける。
めっちゃ苦手なタイプだ…暑苦し過ぎる。
「俺、今日から皆さんに、格闘スキルを教える事になってる、ハクです。…よろしくお願いします」
「なんと!」
腹の底から出たような「なんと!」の後、ザイガン兵士長は暫く黙ってしまった。きっと師範とやらに、物凄い期待を抱いて来たんだろう。
期待外れ感が、全身から漂っている。
「…すまぬ。カエン殿の紹介と聞いておった故、壮年の師範を勝手に想像しておった。…ハク殿、宜しく頼む」
率直な感想、どうも…。
「それでは早速ですが、練兵場にご案内します」
ザイガン兵士長は、少なくとも初めて見たし(こんな暑苦しい人は忘れないと思うし)、せっかくだから練兵場からトレーニングルーム、プール、シャワー、サウナ、といった施設を簡単に説明する。
説明しながら兵士達の今日の予定を確認すると、11~12時が俺からの格闘スキル教育、13時までカフェでメシ、そこから16時まで長時間訓練の予定らしい。
なかなかのハードスケジュールだ。
施設に充分驚いて貰ったところで、いよいよ格闘スキル教育を行なった訳だが…内容については深く触れたくない。
本当に、俺の人生の中で、一番疲れた1時間だった…。
「ハク殿!20人組手、見事でしたぞ!また明日も宜しく頼む!」
それでもザイガン兵士長以下、20人のムサ兵士達はご満悦だ。晴れ晴れとした顔で、昼メシを食いにカフェに入って行く。
一方俺は、疲れ切った顔でマスタールームに戻る。
「ハク、見てたよ~!凄かったね!………あれ?だ、大丈夫!?」
「ちょっと!顔色おかしいわよ!?」
「………」
話す気力もない。
ルリが慌てて入れてくれたココアを飲みながら、ユキをなでなで。
はー…、癒される。
ちょっとが元気でたところで俺達も昼メシだ。(今日のメニューはなぜか、分厚いチャーシューが決め手の豚骨ラーメンだった。)
オープンは13時から。
ぶっちゃけ疲れ切ってる場合じゃない。
手早く食って、オープン前の最終チェックだ。
初めて導入した通信機や、キーツやイナバのマイクの動作確認。そして、スキル教育のエルフ達にも声をかける。
「どう?準備万端?」
ゼロのざっくりした問いかけに、爽やか系エルフ:ダーツがハキハキと答える。
「はい!開場してから冒険者達がダンジョンに入るまで30分ありますから、充分スキル教育の宣伝が出来ると思います!」
「壁にもカリキュラムが貼ってありますし、私達もきちんと説明いたしますわ」
ミズキも自信ありげだ。
ここはエルフ達を信じて、任せよう。
開場10分前、カエンとアライン王子がカフェに入る。今日の主賓挨拶はアライン王子だ。
一通りのチェックを終え、全員が持ち場で姿勢を正す。
開場を告げる、鐘の音が鳴り響く。
13時。
ダンジョン、オープンだ!
ギルドからの扉が開け放たれ、プレオープンの日に勝るとも劣らない、人の波が押し寄せる。
今日も大繁盛の予感だ!
だだ下がりだった俺のテンションも、急激に上がってきた。
「いらっしゃいませ!」
今日もシルキーちゃん達の高い声が響き渡る。これだけの雑踏の中でも聞こえるのは、彼女達の訓練の賜物だな。
「ギルド「クラウン」冒険者支援施設、体験ダンジョンへようこそ!」
キーツのハリのある声と共に、楽しげな音楽が鳴り響いた。
キーツとイナバの周りには、早くも女の子の人だかりが出来ている。
………ちょっと、羨ましい…。
「オープンセレモニーは13時30分から!それまでは、施設内部をくまなく見て下さいね?」
ゼロよりちょっとだけ、くだけたアナウンス。通る人達に笑いかけながら、フレンドリーに司会が進んでいく。
「ここは美味しい料理が楽しめるカフェ。壁際に並ぶ箱からは、お金を入れると自動で飲み物やお菓子が出てきます!」
シルキーちゃん達が実演して見せると、驚きの声があがる。あっという間に自販機前に行列が出来た。
「奥の扉を進むとなんと王国の練兵場!今日は20人もの兵士達が訓練中ですよ。最新のトレーニング機器も見応えたっぷり!」
前回見た人も多いのか、半数くらいの人達が扉に向かって進んで行く。
「今日もアライン王子がおいでです!会いたい人は練兵場へどうぞ!」
女の子達が、きゃ~っ!と声をあげて練兵場にダッシュする。う~ん…王子様人気、恐るべし…。
「そして今日!初お目見えはスキル教室!」
キーツの声に合わせて、スキル教室から、美形揃いのエルフ達、天使、可愛いリスがわらわらと出てきた。愛想よく手をふるエルフ達に、お客様達は大興奮。声にならない叫びをあげている。
「あっ、スキル教室の講師達が顔を出しましたね。皆美形でしょう?スキル教室は明日からオープンです。興味がある人はぜひ予約を入れてくださいね!」
しかしキーツ、あの僅かな期間で、ちゃんと仕組みも理解して、間違いなくお客様を誘導している。
チャラく見えてもデキる男なんだな。
「さぁ、オープンセレモニーまで、あと15分。興味のある所をじっくり見て下さいね!」
その声を最後に、後はイナバが奏でる楽しげな音楽だけが、自然に流れていく。
前回はただザワザワしていたこの時間も、より楽しい雰囲気が充満してる気がするよな。まぁ、すでにシルキーちゃん達は、注文ラッシュの只中で、早くも戦場のような忙しさになってるけどな。
スキル教室にも、ちゃんと人が入っていて、ひとまず安心する。エルフ達が張り切ってるから、1人でも多く予約が入ると良いんだが…。
そして13時30分。
定刻通り、華々しいファンファーレと共に、ダンジョンはオープンを迎えた。カエンと王子様の挨拶も滞りなく済んで、カフェは熱気に包まれている。
そしていよいよ、冒険者達が、ダンジョンへ送りこまれた。
「来た来た!」
マスタールームにも緊張と興奮が同時に訪れる。




